【内田雅也の追球】「大局観」を磨きながら

2025年4月24日(木)8時0分 スポーツニッポン

 ◇セ・リーグ 阪神3—2DeNA(2025年4月23日 横浜)

 阪神監督・藤川球児はこの春、桜を見なかったという。満開だった今月上旬に聞いた。「桜ですか? 全く見ていませんね。いま咲いているのかどうかも知りません」

 花に目をやる時間もないほど、野球に追われているのだろうか。それがキャンプでテーマに掲げていた藤川流の「没頭」なのだろうか。

 ちょっと思うところがあり「桜を見て、美しいと感じるような心の余裕もないとだめですよ」と伝えた。「勝負師で大切な勝負勘や大局観は感性によります。その感性が磨かれるのは……」

 プロ棋士・羽生善治は勝負勘について<全体を判断する目><大局観である>と著書『決断力』(角川書店)で書いている。<本質を見抜く力といってもいい。その思考の基盤となるのが、勘、つまり直感力だ。直感力の元になるのは感性である>。さらに<感性は(中略)読書をしたり、音楽を聴いたり、将棋界以外の人と会ったり……というさまざまな刺激によって総合的に研ぎ澄まされていく>。

 藤川も実はわかっている。現役を引退してから昨秋、監督に就任するまでの4年間、「野球界以外のいろんな方々とお会いして勉強になり、刺激も受けました」と語っていた。読書もしていると聞く。オフに自然とふれあい、ワカサギ釣りや山菜採りを楽しむ。

 そうして感性は磨かれ、勝負師として自らも成長していくのだろう。

 この夜は両軍とも6投手をつぎ込む継投勝負となった。感じ入ったのは藤川の大局観である。

 「粘り強い、いいゲームでした」と一定の満足感があった。「形作りというところで」と言って「てんてんてん」と口をつぐんだ。強いブルペン陣、必勝継投を作っていく過程を踏んだと手応えを得ていたのだろう。

 弱冠20歳の先発・門別啓人は5回に2四球を出すなど苦しんでいたが、6回も続投させた。1死一、三塁を残して降板し勝利投手は消えた。「まだまだ若い。チャレンジさせないと。5回で降りて勝ち、というのではね」成長を見込んで経験を積ませたわけだ。

 救援陣も先発投手も長いシーズンを見すえた起用をしていた。大局観である。感性を磨けば、チーム同様に指揮官も成長していくだろう。

 雨上がりの横浜は雲が切れ、夕焼けが美しかった。目に入っていただろうか。 =敬称略=

 (編集委員)

スポーツニッポン

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