13歳で「妾でもいい」と既婚者に恋する姿を熱演、17歳でバツイチ役も…“重い使命を背負いがち”の清原果耶が見せる意外な素顔

2025年4月19日(土)18時0分 文春オンライン

「またご一緒できるように頑張ります」


「絶対にまたやろうね」


『花束みたいな恋をした』で清原果耶は土井裕泰監督とこのようなやりとりをしていた。『片思い世界』のパンフレットで清原がそう語っている。



清原果耶 ©時事通信社


4年ぶりの再会、演じたのは?


『花束みたいな』における清原は、出番こそ少ないが極めて重要な役を演じていた。終盤、主人公の麦(菅田将暉)と絹(有村架純)が別れ話をしているファミレスで、仲睦まじく語り合っている水埜亘(細田佳央太)と羽田凛(清原)。ふたりはまるで出会ったばかりの麦と絹の似姿のようで、麦と絹はいつの間にか失ってしまったものに気づいてショックを受ける。


 若く希望に満ちてキラキラしていて、おろしたての真っ白なスニーカーのような一点の曇りもない羽田凛という人物を清原果耶は見事に演じていた。清原演じる凛が純粋であればあるほど、有村演じる絹はもう帰ってこないあの日を思って涙が止まらない。観客も然り。


 あれから4年、清原は先述の言葉通り土井監督の現場に戻ってきた。それも『花束』と同じく土井と坂元裕二のタッグの映画『片思い世界』で、今度は主演である。広瀬すず杉咲花と清原のトリプル主演による、わけあって12年もの長きにわたって共同生活をしている3人の女性の物語だ。



※ここから先、作品のネタバレを含むため、未見の方はご注意ください



 物語がはじまってすぐ、清原演じるさくらは夜の街を軽やかに歩いている。この姿が印象的だ。さくらは凛としてまっすぐ前進していく。すれ違う人たちを気にかけず、ぶつかりそうでもずんずん突き進む姿に、よっぽど我が道を行く人なのかなあと思うと、それには大きな意味があった。公式でももうネタバレしているのでいいかと思うが、さくらと美咲(広瀬すず)と優花(杉咲花)は現実とは別のレイヤーに生きている存在なのだ。この世の人たちからは彼女たちの姿は見えず声も聞こえない。触れ合うことも言葉を交わすことも。


 その昔、彼女たちも現実世界の住人であった。それがわけあってこの世界から分離してしまった。この世界とそこに生きる人たちにひっそりと寄り添うように3人は共生している。


 あるとき、現実世界に戻る方法があるかもしれないという情報が彼女たちにもたらされる。大切な人に思いを届ければ、この世界に戻れると、3人がいつも聞いていたラジオの気象予報士(声:松田龍平)が語りかけてきたのだ。さくらは「この人、気象予報士じゃなかったから」(オリジナルシナリオ集より)と言う。清原果耶の口から「気象予報士」というワードを聞くとは感慨深い。なぜなら、清原が朝ドラヒロインをやった『おかえりモネ』(2021年度前期)で彼女は気象予報士の役を演じていたからだ。これは坂元裕二の遊び心であろうか。


 閑話休題。ニセ・気象予報士の言葉を信じて、3人はそれぞれの会いたい人に会いに行く。美咲はほのかな恋心を抱く高杉典真(横浜流星)に。優花は母親(西田尚美)に。そしてさくらの会いたい人は——誰かと思ったら、最もハードな相手だった。言ってみれば「悪」という概念のようなもの。この世界とさくらたちを切り離してしまった張本人である。


『片思い世界』で清原果耶は、主演3人のなかで最年少ながら、最も過酷な相手と向き合う試練を託されたのだ。そう思うと、映画の冒頭近く、凛として夜の通りを歩いているさくらの姿に、孤高のサムライのような風情があったようにも見えてくる。


 自分たちを世界から切り離した人物のことを調べあげ、会いにいくさくら。そこからこの物語はガラリと色を変える。ファンタジーだけで片付かない、死を受け入れきれない人間たちの少しハードボイルドめいた色味を帯びていくのだ。


いつも“重い使命”を帯びている人


『片思い世界』に限ったことでなく、清原果耶が出演作品で抱えている使命はいつだってずしりと重い。『花束』ではファミレスで単に好きなカルチャーのおしゃべりをしているだけに見えて、麦と絹に強烈な衝撃を与える役割を担っていた。


 広瀬と共演した朝ドラこと連続テレビ小説『なつぞら』(2019年)も印象深い。広瀬が演じるヒロインの生き別れの妹役を演じていた。この妹、戦後、姉と別れ、置屋に引き取られ、料理屋に嫁ぐも、夫が愛人を作って離婚し、女手ひとつで料理屋をきりもりしながら娘を育てることになる。この役を演じた時、清原は17歳である。こんな艱難辛苦を、眉間の皺を絶妙な深さで寄せながら演じきり、視聴者を圧倒したのである。


 極めつけは、『護られなかった者たちへ』(2021年)である。社会正義が強いあまり社会的弱者をないがしろにする者たちに対して猛烈な復讐心を燃やす役はおそろしくも哀しい。善悪で簡単に分けることのできない難役の演技によって清原は第45回日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した。


 ドラマ『俺の話は長い』(日本テレビ系)や『青春18×2 君へと続く道』(2024年)で物怖じしない女の子役もさらりと演じる一方で、恋愛とか家族愛とかドメスティックなものを超越した領域を全身に引き受ける、じつにヒロイックな俳優、それが清原果耶である。なにしろ読売演劇大賞杉村春子賞を受賞した役は、フランスを救った英雄ジャンヌ・ダルクだ。国の救世主でありながら、異端者として悲劇の最期を遂げる人物の、神を信じて生き抜いた姿は全身全霊という言葉がふさわしかった。発声も堂々と明晰で、技術力も抜群だった。


 こんなふうに、重い使命を帯びた役をたくさん演じている清原だが、デビューのきっかけはPerfumeだった。彼女たちが好きで、所属する事務所のオーディションを受ければ会えるかもしれないというなんとも微笑ましい動機であった。


 12歳の時、「アミューズオーディションフェス2014」でグランプリを獲得し、2015年、朝ドラ『あさが来た』で俳優デビュー。ヒロインあさ(波瑠)に付き従う女中役で、あさの夫(玉木宏)にほのかな恋心を抱き、「お妾さんでいいよって おそばにいてられたら」(82回)と彼の袖をぎゅっと握って告白する姿が鮮烈で、倫理観を超えた純愛を感じさせて全国区に注目された。それから、CM出演やモデルなど順調にキャリアを積んで、大河ファンタジー『精霊の守り人』では綾瀬はるか演じるヒロインの少女期を演じた。主演ドラマ『透明なゆりかご』では看護師見習いとして産婦人科で生と死を見つめる姿を真摯に演じて、演技力を着々と上げていった。


 朝ドラ主演も果たし、大河主演も時間の問題なのではないかという気さえ筆者はしている。映画出演も多く、日本アカデミー賞最優秀助演女優賞を受賞した『碁盤斬り』(2024年)で演じた浪人(草彅剛)の娘役(名前はお絹)がこれまた毅然としていた。父の借金の肩代わりに遊郭に売られそうになっても最後まで堂々としている姿に、古き良き誇り高き日本人の理想を見たような気がして、時代劇をぜひやってほしいと思ったのだ。


怖いものなしの若い「武士」のよう


 広瀬すずは令和の吉永小百合、杉咲花は令和の倍賞千恵子のようだと筆者は考えているが、清原は令和の日本映画界の誰だろう。残念ながら当てはまる女優が浮かんでこなかった。強いてなにかにたとえるなら、「武士」。『花束』で凛という名前をもらっていることからしても凛とした高潔な人物というイメージが強い。刀のようなクールなまなざしでこの世の中をジャッジする、そんなイメージの俳優である。


『片思い世界』の番宣で広瀬、杉咲と3人で出演した「ボクらの時代」での清原のポジションも実に興味深かった。杉咲が演技に対する持論を語ると広瀬は「豊かな思考を持っている」と褒めたのだが、なんとなくへんな空気になり、清原が「このやりとりどうだろう」「止めにはいろうか」とちょっととぼけた様子で口を挟んだ。こういう場合、気にせずスルーか、万が一気になっても気になってないフリをするかなと思うのだが、清原はそうではなかった。敏感だし、真面目だなと筆者は思った。いや、これはやっぱりいまはまだ年下だからこそゆるされるポジションなのかもしれない。


『片思い世界』でも3人の中で最年少ながら、最もしっかりしていて背も高く、美咲と優花の頼りないところを容赦なく突っ込む役割を担っている。サバサバしたところは、若さゆえの怖いものなしのようにも見える。そう、若いからこそ、巨悪に挑んでいける。


『片思い世界』のさくらはこの世から切り離されたとき、美咲と優花よりも幼く、愛情を強く意識する相手にまだ出会っていなかった。だからこそ、彼女にとって大切なのは美咲と優花で、彼女たちを会いたい人と引き離した相手に激しい怒りを覚え立ち向かっていくのではないか。


 清原果耶は若さの特権を思いきり使っている。だから尊い。だからこそまぶしい。いま23歳。これから25歳、27歳、30歳と年齢を経ていったとき、どんな役を任されるのだろうか。明るい未来しか想像できない。


(木俣 冬)

文春オンライン

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