誇張せずナチス高官描く…ヨアヒム・A・ラング監督「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」
2025年4月21日(月)13時30分 読売新聞
「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」ヨハヒム・A・ラング監督
ドイツ・ナチス政権の宣伝相の後半生を描く「ゲッベルス ヒトラーをプロデュースした男」が公開されている。複数のメディアを駆使する近代的プロパガンダで大衆を欺いた、ヒトラー最側近の一人だ。ヨアヒム・A・ラング監督は「2人がいかにして、人類史上最大の犯罪に、多くの人から支持を得たのかを描きたかった」と力を込める。
残忍で、大声でがなりたてる。第三帝国(ナチス政権)が題材の先行作品では、ヒトラーをはじめ高官たちがしばしば、そのように誇張されて描かれてきた。
「実際どういう人物だったかを考えることを阻害する誤ったアプローチだ。この映画は、その仮面を引きはがすことを目的にした」
ナチスの史料も宣伝相ゲッベルスの目を通したもので、「それだけに頼ることは誤ったイメージを流布し、彼の手先になる恐れがある」。表題役のロベルト・シュタットローバーにも「模倣ではなく、解釈してほしい」と伝えた。
1945年のナチス政権崩壊までの約7年間を描く。ゲッベルスは新聞、ラジオなどを制御してユダヤ人憎悪をあおり、戦況に関するフェイクニュースを量産する。「SNSなどが発達した今日に照らすと、いかにデマやプロパガンダを広めることが容易か気づくはずです」
目先を変えることはできても、戦局は打開できない。劣勢に追い込まれたヒトラーは自殺。後継首相に任命されたゲッベルスも妻、6人の子供たちとその後を追う。「ヒトラーがいない世界は生きるに値しない、と自らの行動で示す。いわば最後のプロパガンダ。忠誠心のために、彼は子供にまで手をかけたのです」
ラング監督は、日常を異様なものに見せる「異化効果」を提唱した劇作家、ブレヒトをテーマにした作品でも知られる。本作でも記録映像を所々に挿入したのは、この作品がフィクションであることを観客に気づかせるためだ。
「映画で提示したのは私なりに伝えたかった一つの案であり、それ以上では決してない。私は、観客の想像力を信頼しています。距離を保ち、批評眼を持って見てほしい」