ファン熱狂の逆転劇 杉本五段が永瀬九段に初勝利で大舞台へ ヒューリック杯第96期棋聖戦挑戦者決定戦
2025年4月26日(土)13時30分 マイナビニュース
藤井聡太棋聖への挑戦権を争うヒューリック杯第96期棋聖戦(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)は決勝トーナメントが大詰め。4月25日(金)には挑戦者決定戦の永瀬拓矢九段—杉本和陽五段の一戦が東京・将棋会館で行われました。対局の結果、二転三転の相穴熊戦を乗り切った杉本五段が165手で勝利。自身初となるタイトル挑戦を勝ち取るとともに六段昇段を決めています。
○さっそく動いた形勢
同世代で修業時代から関わりのある二人。公式戦では4局目となった直接対決(ここまで永瀬九段の全勝)は大一番となりました。杉本五段は初の挑戦を、永瀬九段は先日開幕した名人戦と合わせてのダブルタイトル戦を目指します。振り駒が行われた対局は杉本五段の先手で相穴熊へ。三間飛車穴熊から守りの金を前線に繰り出すのが用意と見られる積極策です。
勢いよく指し手を進めていた杉本五段ですが後手の仕掛けを見て手が止まります。局後「(本譜の攻めに)準備がないのはヒドかった」と打ち明けた言葉が物語るように、ここから形勢は居飛車ペースへと急展開。飛車と角銀の二枚換えは無視できない損な取り引きで、一方で駒得に転じた後手の永瀬九段は金銀5枚の堅陣を築いて体力勝ちを目指しました。
○4度目の正直は大きな一勝
ともに持ち時間が1時間を切って本格的な終盤戦へ。非勢が続く杉本五段ですが決め手を与えず粘り続けています。竜を切って手にした銀を自陣に埋めたのが相穴熊の押し引きのツボを捉えた指し回しで、これを見た永瀬九段も局後「粘られてわからなくなった」と漏らすことに。中継ソフトが示す評価値とは裏腹に、盤上は徐々に混戦の雰囲気が出てきました。
その後も難解な押し引きが続いて最終盤。永瀬九段がかけた詰めろは自然に応じると再度の攻防手で逆転というワナですが、序盤からの早指しで持ち時間を残していた杉本五段は冷静に正解を導き出します。穴熊を再生するように自陣角を打ち付けたのが形にこだわらない受けの決め手。先手玉への詰めろが続かなくなって速度計算がわかりやすくなりました。
終局時刻は20時2分、最後は自玉の詰みを認めた永瀬九段が投了。二転三転の終盤戦、終局直前に現れた駒柱が熱戦を物語っています。敗れた永瀬九段は「形勢がよくなったがうっかりが出てしまった」と悔しさをにじませました。昇段を決めた杉本新六段と藤井棋聖との間で戦われる五番勝負は6月3日(火)に栃木県日光市の「日光金谷ホテル」で開幕します。
水留啓(将棋情報局)