八村塁でも、河村勇輝でも、渡邊雄太でもない…海外のバスケファンを最も驚かせた“意外な日本人選手”とは?――2024年読まれた記事

2025年4月28日(月)8時0分 文春オンライン


2024年、文春オンラインで反響の大きかった記事を発表します。スポーツ部門の第4位は、こちら!(初公開日 2024/08/09)。



*  *  *


 パリ五輪においてバスケットボール男子日本代表は0勝3敗で大会を終えた。勝敗数だけを見れば、惨敗といって差し支えない。しかし、試合内容はどれも濃く、日本のバスケファンが長年夢見てきた、世界と対等に渡り合える代表チームの姿が、そこにはあった。


 なぜ、日本代表は世界的強豪にひるまず戦えたのか。チームに貢献していたのはどの選手だったのか。世界のバスケファンの反応を紹介していく。



©JMPA


◆◆◆


神がかり的な河村の活躍、そして…


 フランス戦の第4クオーター序盤。八村塁が二度目のアンスポーツマンライクファウルを取られ、退場を余儀なくされた。


「終わった」「最悪」「審判ふざけんな」と、恨み節とともに終戦ムードが漂うネット上に対し、コート上に残されたプレーヤー達は士気を落とさなかった。とくに河村勇輝は、八村の退場から第4クオーター終了まで日本が挙げた14得点のうち10得点を決めてチームを牽引。試合後に相手コーチが「取り憑かれた状態」と評したように、極限の集中状態でしかなしえないパフォーマンスを見せた。


 絶望的な状況から一気に流れを引き寄せたその英雄的な活躍に、英語圏でも「Kawamura GOAT(河村は史上最高の選手だ)」といった驚きの声が寄せられ、フランスのX上ではトレンド3位に「Kawamura」がランクイン。なおこの試合のあと、 FIBAは河村の特集記事をリリース し、日本の「記憶に残る歴史的パフォーマンスの主軸」と評している。


 河村が残り5分8秒で逆転のレイアップを決めてから、約4分間にわたってスコアが硬直するなか、流れを引き込んだのが渡邉飛勇のブロックだった。


 残り1分33秒、1点差の場面で身長216cmのルディ・ゴベアによる逆転のダンクを完璧にシャットアウトしたそのプレーに、英語圏でも「ありえない」「なんてこった」といった投稿が並ぶ。アメリカの放送局 NBCは試合後のレポート で、「渡邉飛勇がルディ・ゴベアのダンクに対して怪物的なブロックをお見舞いしてリードを守ったとき、運命は日本の側にあるかと思われた」と記述している。海外のバスケットボールファンを最も驚嘆させたといって差し支えないプレーだっただろう。


 その後、河村とホーキンソンのコンビプレーや河村のフリースローによってリードを広げ、残り16秒の時点で4点差。歴史的勝利は目前と思われた。


 しかし、今大会グループフェーズ最高のミラクルショットが勝負をイーブンに戻す。フランスのPG、マシュー・ストラゼルが河村の厳しいシュートチェックからファウルを誘い込み、3ポイントを沈めたのだ。フランスにとって、起死回生の4ポイントプレーだった。


SNS上で吹き荒れる「誤審」騒動


 このファウル判定はSNS上で物議をかもし、ストラゼルのシュート中、河村が接触せずにチェックに飛んでいる画像が拡散され、「世紀の誤審」と審判を糾弾する声が大量に寄せられた。その前の八村退場に至る流れもあり、英語圏でも「rigged(八百長)」といった声が一斉に投稿される。


 試合後、アメリカのスポーツ誌「Sports Illustrated」は、 「フランスは非常に疑問の残る判定により、日本による番狂わせを回避した」との見出しをつけた記事 をリリースした。「河村がストラゼルに触れているようには見えない」とし、さらに八村を退場に追いやったアンスポーツマンライクファウルについても「不可解な判定」と評したうえで、「開催国がとんでもない番狂わせから逃れる結果となった」としている。


 一方で、「あれだけ距離を詰めている以上、ファウルを判定されてもおかしくない」という見方も多い。たしかに、残り10秒4点差の場面で厳しくシュートチェックに行くことは、定石とは異なる判断でもある。


 ドイツの大手スポーツメディア「kicker」はこの対戦について、 「大きなミスがセンセーションを阻んだ」という見出し のもと、本文で「優秀なガードの河村が、ストラゼルの3ポイントシュートの際に接触し、ファウルを吹かれるという大きな失敗をしてしまった」と評している。


 国内では、バスケットボール解説者の佐々木クリス氏がTBSの「ひるおび」に出演した際、河村がファウルを吹かれた要因を2つのポイントにまとめている。1点目は、シュートモーションに入る直前、河村の左手がストラゼルの腰に触れていたこと。力の強弱にかかわらず、その左手がストラゼルのシュート動作を乱したように見えてしまう点で、ファウルを吹かれても不思議ではないとした。


 2点目は、審判の目線からは河村の右手がストラゼルのシューティングハンドに触れているように見える点。たしかにリプレイをスローで確認すると、ストラゼルがシュート動作に入り腕を上げた瞬間、河村の右手が一瞬弾かれたような動きをしているようにも見える。


あのファウルは河村の「ミス」だったのか?


 2004年のアテネオリンピックでアルゼンチン代表を率いてアメリカ代表を下し、金メダルを獲得したマヌ・ジノビリは、この試合の後に以下のような感想を X上に投稿 している。


「経験不足は接戦の最終盤で大きなマイナスになる。フランスはほとんど奇跡的に日本を切り抜けた。楽しい試合だった」


 ファウルにつながった河村のプレーを「経験不足」と言い切っていいのかはわからない。審判によって判定が変わりうるプレーだし、シュートへのプレッシャーは最大限かけられている。笛が鳴らなければ、最高のディフェンスだった。


 反対に、そのままチェックに行かずに3ポイントを決められていても、ファウルゲームに持ち込まれれば勝負の行方はわからなかった。ギリギリまでシュートチェックに行った彼の判断を責めることは誰にもできない。


 そもそも、その最後の一瞬にまで漕ぎつけたこと自体、ミスを恐れぬ河村の勇敢なプレーの賜物であり、それこそが日本代表のエンジンとなっていたことに疑いの余地はない。 相手国フランスのメディア をして「不運のヒーロー」と言わしめた河村の活躍は、世界に強烈な印象を残すものだった。


八村欠場、絶体絶命のブラジル戦


 ブラジル戦に先駆け、八村の負傷欠場が発表された瞬間、SNS上ではブラジル人と思しきアカウントによる「サッカースタジアムで歓喜するブラジルサポーターの動画」などの投稿が見られた。日本と同じく、1勝2敗でのグループフェーズ突破を目指すブラジルにとって、相手エースの欠場は大きなアドバンテージと感じられたにちがいない。


 ブラジルファンの期待どおり、そして日本ファンの落胆のとおり、試合は終始日本がリードを許す展開。しかし決して、勝ち筋が見えない試合ではなかった。第3クオーター中盤に16点のリードを許したあとも、ホーキンソンの3ポイントなどで追い上げ、第3クオーター終了時には4点差に食らいついていた。


 第4クオーター開始直後にホーキンソンの3ポイントで1点差に詰め寄るも、それ以降は守備で相手を抑えられず、また攻撃面でも有効な手段を欠いた。日本が8点を取るうちにブラジルは25点を挙げ、18点差の敗北でバスケ男子日本代表のオリンピックは幕を閉じた。


 試合後、ブラジルのキャプテンである マルセロ・ウェルタスが寄せたコメント からは、ドイツ戦のダニエル・タイスと同様、日本代表の熱量に対する賞賛がうかがえる。


「試合中、何度もかなりリードを広げたが、彼らはそのたび点差を縮めてきた。3ポイントライン上で信じられないほどの脅威をもったチームであり、高い確信をもってプレーしている。彼らのポイントガードとビッグマンはこの大会で驚くべき活躍を見せていたので、彼らが鍵であることはわかっていたが、ゲームのなかで彼らをコントロールできないこともあった」


 NBA史上最低身長のプレーヤーとして活躍した160cmのマグジー・ボーグスは、ブラジル戦後、 X上で河村について「この若者のプレーを見るのが大好きだ」と投稿 。そこに置かれた「#heartoverheight(ハートは身長を超える)」のハッシュタグは、圧倒的に不利な身体的条件のなかで活躍する河村との連帯意識を感じさせるものだった。


平均得点上位10名のうち3名が日本代表


 予選3試合を通じて、日本代表の面々は数字のうえでも大きなインパクトを残した。平均得点上位10名のうちには、八村(2位)、河村(5位)、ホーキンソン(10位)の名前が並ぶ。さらに河村はアシストで同率2位、ホーキンソンはリバウンドで同率3位。守備面で大きく貢献した渡邊雄太は、ブロックのランキングで同率4位に入った。


 他国からは注目されにくいが、主要スタッツでチームを牽引した4人のほかにも、各メンバーの献身的なプレーはチームを支え続けた。とりわけフランス戦、八村が退場してから第4クオーター終了までの8分半の間、相手のフィールドゴールをわずか3本に抑え込んだディフェンスには目を見張るものがあった。グループフェーズ9位となる出場時間(平均30.6分)を記録し、フィジカルコンタクトやディフェンス面で世界と渡り合った吉井裕鷹のプレーも特筆ものだった。


 NBCは、 日本を「大きな賞賛に値する」「自由奔放な楽しいチーム」と評価している 。大会最大の番狂わせまで目前に迫ったフランス戦をはじめ、彼らの活躍は十分に世界を驚かしたのではないか。


ベスト8まで「あとほんの少し」


 グループフェーズを終えたあと、FIBAは大会のパワーランキングを更新。11位に位置づけられた 日本代表に関する記述 には、今回の男子日本代表を応援しつづけていた我々の心情を代弁するような箇所がある。


「彼らは0勝3敗で大会を終えたが、実際のところ2勝1敗まであとほんの少しのところだった」


 フランス戦でファウルを吹かれていなければ、ブラジル戦で欠場がなければ。2勝1敗、あるいは1勝2敗でグループフェーズを突破し、日本バスケの歴史が変わるかどうかは、「小さな偶然」の違いでしかなかったのかもしれない。


 FIBAの記述はこう続いている。


「バスケットボールでは、ときにこういうことが起きる。偶然の運命が相手の方に転がっていき、まったく異なる物語になってしまうことが」


 日本のバスケファンが長年夢見てきた物語。部活人口の多さに対し、観戦スポーツとしての人気獲得に苦戦しつづけたバスケットボールが、男子日本代表の躍進でようやく日の目を見ることになる。そうした歴史の証人となる瞬間が、もうすぐそこにまで迫っていた。


 それだけの偉業を達成できる力が、今回の代表にはあった。一方で、強豪国との緊迫した試合の経験が少ないこと、あるいは八村や渡邊、ホーキンソンの出場時間を長く取らざるをえなかったことが、「あとほんの少しの差」を分けた面もあるのかもしれない。


 いずれにせよ、3試合の観戦を終え、今回の男子日本代表に対して感謝の念を抱いた人も多いのではないか。体格差に劣る相手に対して全力で戦い、各々がチームに貢献しつづける姿は、私たちに大きな勇気と希望を与えてくれた。


「あとほんの少し」にまで詰まった世界との差。次のロサンゼルスの出場枠獲得に向けてまた厳しい戦いが始まるが、4年後にまた彼らが世界を沸かせる姿を期待してやまない。


(ベン兵頭)

文春オンライン

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