吃音の役に挑んだ富田望生、当事者と丁寧に作り上げて撮影に 意識したのは“個性”「かわいそうには見えたくない」
2025年4月28日(月)6時0分 マイナビニュース
●話し方の真似ではなくメカニズムを理解
川栄李奈演じる新人マネージャー・神田川美和が、TOYOプロダクション4部所属の崖っぷちタレントたちを再生させていく日本テレビ系ドラマ『ダメマネ! —ダメなタレント、マネジメントします—』(毎週日曜22:30〜)。27日放送の第2話では、富田望生演じる新人俳優・後藤沙紀が、吃音(きつおん)がありながら一度は挫折した役者の道に一歩踏み出す姿が描かれた。
吃音とは、「音の繰り返し、ひき伸ばし、言葉を出せずに間があいてしまうなど、一般に“どもる”と言われる話し方の障がい」(国立特別支援教育総合研究所ウェブサイトより)。この症状に真摯(しんし)に向き合った富田は、当事者であり、ハウス食品開発研究所に勤務する滝澤美紅さんとともに、今回の役を丁寧に作り上げて撮影に臨んでいた。
吃音監修を務める慶應義塾大学医学部の富里周太助教が、同年代の女性の感覚を生かしたほうが良いという判断から白羽の矢が立ち、富田とともにインタビューにも応じてくれた滝澤さん。彼女のコメントは通常の記事と同様にスムーズな話し言葉で表記しているが、初めて取材を受ける緊張感から所々詰まりながらも、沙紀というキャラクターに込めた思いを一生懸命伝えてくれた——。
○正しい知識を身に付けることからスタート
富田は今回の役に挑むにあたり、吃音の正しい知識を身に付けるべく、「自分の中で“吃音ってこういうものなのかな”というのが本当に合っているのかを含めて、滝澤さんにたくさん質問させていただきました」という。それに対し、滝澤さんは「どもる時にどういう気持ちになるかとか、どういう場面でどもりが出やすいというところまで話を聞いていただきました」と、自身の経験を伝えた。
そこから実際に吃音の演技に進むことになるが、これを表現するにあたっては、単に話し方を真似るのではなく、「口の中の動きがどうなっているのかを聞いていきました」と物理的なメカニズムを理解。また、滝澤さんと会話をする中で、「このワードは出にくいのか…というのをキャッチしていく感覚でした。どの文字が出にくいということもありますが、ワードとして詰まってしまうこともあるんです」と知識を深めていく。
こうして表層的ではなく、内面的な部分から吃音を捉えることで、自然に言葉が詰まる演技ができるようになったという富田。その姿勢に「すごいと思って見ていました」と驚いた滝澤さんは「“少しずつどもるほうがいい”と言っただけで、自然な感じになりますし、2回目にお会いした時には富田さんのほうから“この言葉はたぶんうまく出ないですよね?”と聞いてくれて、私が“たしかにそうです!”と思うこともあって。当事者の立場に立って真摯(しんし)に向き合っていただいているのを、すごく感じていました」と感激したそうだ。
このため、滝澤さんから話し方自体の指導することはほとんどなく、沙紀と美和、沙紀とTOYOプロダクション4部の所属タレントとの関係性がストーリーの中で変化することで、「今こういう距離感なら、そんなに強く出なくても大丈夫だと思います」と、加減の部分を助言していったのだそう。撮影は劇中の時系列通りの順番で行われるわけではないため、2人でそれぞれの時点の周囲との関係性を確認しながら、演技を作っていったという。
●“夢を追う一人の人間”を一番の軸に
滝澤さんから見て「真摯に向き合っていた」という富田だが、本人は今回の役にどのような意識で臨んだのか。
「監督とずっと話していたのは、沙紀の中で吃音は大きなコンプレックスになってると思うし、挑戦に一歩進めないネックになっているのは確かなんだけど、かわいそうには見えたくないということでした。もちろん、脚本上では苦しんでいる姿もたくさんあるけれど、“夢を追う一人の人間”というのを一番の軸において、沙紀の一つの個性として吃音というものがあるという感覚です。
沙紀にとって、吃音の症状が出る中で俳優を目指すということよりも、吃音によってまた挫折しそうになるところで向き合うということが、彼女にとって新たな挑戦だと思うんです。誰しも挫折しそうになる経験はあると思うので、その感覚を一番大切にしています」(富田)
この意識は、一般企業で活躍する滝澤さんの姿を見て感化される部分もあったという。
「(吃音監修の)富里先生からは“彼女のマインドでがんばってください”と言われていたんです。症状が出る時に滝澤さんがどういう気持ちになったのか、人とどういうふうに接しているのかというパーソナルな部分までたくさん話してくださったので、それは自分が沙紀と向き合う上ですごく大きなことでした」(富田)
○オーディションシーンに重ねた自身の就活経験
一方の滝澤さんは、沙紀という役に自身を重ね、就職活動が人生における大きな“挑戦”だったと振り返る。
「知らない人に初対面でアピールしなければいけないし、どもっているだけでは許されない場面というのは、それまでの人生でなかなか経験のない機会でした。でも、吃音を持って生きてきたからこその打たれ強さも評価して採用していただいて今に至るので、富田さんが先ほどおっしゃった“個性”と捉えるという点で、共感する部分があります」(滝澤さん)
沙紀がオーディションに挑む姿は、まさに就活における面接にリンクするシーン。富田はこの撮影を、「やっぱり人の目があるのは焦ってしまうので、その焦りがどんどん喉元、舌の奥に直結していくような感じがありました」と、自然に言葉が出なくなる感覚で演じていたそうだ。
●初めての吃音指導は大きな挑戦も…認知拡大のチャンスに
今回、初めてドラマの吃音指導を行った滝澤さん。これもやはり大きな挑戦となった。大勢の人がいる場所や緊張感が生まれると症状が出る傾向があるだけに、「最初のご挨拶の時が、一番どもってしまいました!(笑)」というが、その後に富田と1対1になるとスムーズに話せたことから、富田は「人と対した時の感覚やシーンとした空気が、すごく影響するんだと感じました」という。
また、滝澤さんは「“テレビで見たことある俳優さんだ!”、“目が合っちゃった!”という感じがまずありました(笑)」と、ミーハー心からテンションが上がりながら、「それだけ世の中に対して訴えかける力も大きいのだと思い、吃音というものを広く認知していただけるチャンスになるかもしれないと感じました」とモチベーションに。
さらに、「言友会という吃音の当事者団体での活動が、今回ドラマに参加させていただくきっかけだったので、言友会の皆さんのためにも“やり切らねば”という思いがあります」と使命感を持って挑んでいる。
○ドラマを通して伝えたい「楽しく生きて過ごしていける」
マネージャーとタレントの「2人で1人」という関係性を描いていく今回のドラマだが、富田と滝澤さんも、まさに「2人で1人」で沙紀というキャラクターを作り上げた。そんな役を通して、どんなことを視聴者に伝えたいのか。
富田は「吃音があって、好きなお芝居ができないという単純なお話ではなくて、一歩踏み出すことはもちろん大変だけど、それをずっと続けていくことの大変さ、そしてマネージャーさんとタレントという関係性の中で、誰かと一緒に取り組んでいくことの幸せも描いています。私自身、人と人のつながりをものすごく感じながら撮影しているので、日曜の夜に自分自身の一歩踏み出すパワーと、ともに頑張っていく誰かに対してのパワーを同時に受け取りながら、月曜日を迎えられる作品だと思います」と語る。
この思いを聞いて、「日曜の夜、見ようと思いました(笑)」とまっすぐ受け止めた滝澤さんは「ドラマで吃音を取り上げていただいたことが、まずうれしいです」と、当事者としての思いを紹介。その上で、「私自身、高校生くらいの時から、“自分は社会でちゃんと生きていけるだろうか”と不安を抱いていたので、今回のドラマを通して“吃音でもちゃんと楽しく生きて過ごしていけるんだ”ということ、そして“こういう人がいたっていいじゃないか”ということも伝えられたらうれしいです」と期待を込めた。