【インタビュー】広瀬すず&松坂桃李、キャリア史上最難関の“役”に挑み辿り着いた答えとは

2022年5月13日(金)7時45分 シネマカフェ

広瀬すず&松坂桃李『流浪の月』/photo:Jumpei Yamada

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誘拐犯と被害者と“された”男女の壮絶な運命を描いた映画『流浪の月』が、5月13日に劇場公開を迎えた。本屋大賞に輝いた凪良ゆうの同名小説を、『怒り』『悪人』の李相日監督が実写映画化した骨太な一作。宿命を背負わされてしまったふたりに扮したのが、広瀬すず松坂桃李だ。

高い実力を誇る両者だが、今回演じた更紗と文は、キャリアの中でも最高級の難役。どのような道をたどり、作品を作り上げたのか。広瀬さん×李監督の『怒り』、広瀬さん×松坂さんの『いのちの停車場』といった過去作も振り返りつつ、濃密な日々を語っていただいた。

1年ぶり再共演も「初共演に近い感覚」

——広瀬さんと松坂さんは『いのちの停車場』に続く共演ですね。

広瀬:はい。更沙を演じるうえで李さんとお話ししたのは、「文の存在が唯一自分を支えるもので、想うだけでブレがなくなる」ということ。そしてちょうど『流浪の月』をやると決まったタイミングで『いのちの停車場』の撮影が入り、桃李さんと共演できました。

そのときには李さんから「桃李くんに会ってくる」という話も聞いていたので、『いのちの停車場』の撮影現場で「この人が文になる人なのかな?」という感じで松坂さんをずっとそわそわ見ていました(笑)。

松坂:そうだったんだ(笑)。

広瀬:はい(笑)。そこから『流浪の月』の撮影まで1年空いて、桃李さんとお仕事でお会いする機会もなく、それがそのまま文に会えていない感覚と重なっていきました。

——おふたりは本作に挑むにあたり、身体をかなり絞られたかと思います。1年ぶりに再会したとき、驚きもあったのではないでしょうか。

松坂:カメラテストでお会いしたときに「すごい痩せてる…!(驚)」とびっくりしました(笑)。ちょっともう役をまとい始めている感じがあって、そこから自分も「これから現場に入るんだ」というモードに切り替わった気がします。

広瀬:私も同じです。「痩せた…!(驚)」と思いました(笑)。『いのちの停車場』のときは、役柄的にも「この人(松坂さん)に出会ったことで感情が動き、信頼してついていく」というものだったのですが、そこから違う想いに一瞬で切り替えられた感じでした。「そうか、いまは一人で生きてるんだな」と急に寂しくなってしまって、更紗の孤独ってこんな感じなのかなって。

「この人についていけばいい」と思っていた関係性だったのが、全く違う空気感や距離感になったときに、まっすぐ見られないし見ていいのかな…という戸惑いが生まれました。

——再共演ではあれど、新鮮な気持ちが自然発生したというか…。

松坂:そうですね。「久しぶり!」みたいな感覚ではなく、しっかりと腰を据えて準備したうえで再共演したので、初共演に近い感覚がありました。

広瀬:文との濃厚なシーンは撮影の後半だったので、実は撮影で会えるまでに少し期間があったんです。桃李さんは私よりもだいぶ早くクランクインされていましたし、私は私でずっと「文に会えない…。どこにいるんだろう」状態でした。お会いしても一日中喋らないことも多く、役の距離感を保ちながら後半に「やっと喋れた!」という開放感がありました。

そして、そこを境に更紗も違う人生を歩み始めて、ふわっと軽くなる瞬間が訪れる。文や亮くん(横浜流星)のことであったり、自分の周りをふとした瞬間に考える時間がたくさんできるのですが、そういった感覚に近づけたのは『いのちの停車場』とはまた違っていて、新鮮でした。



現場で悩み抜き「役作り」の答えを模索

——今回は物語の中で描かれる時間が15年以上と長く、白鳥玉季さんが10歳の更紗を演じ、広瀬さんが現在の更紗を演じるという構造です。二人一役とはいえ、15年ぶりの“再会”にしなければならないため、非常に難易度が高いですよね。

松坂:文にとって、更紗と出会えて初めて自由や解放感を得られたぶん、別れてから15年間はその幸福感を力強く握りしめ、苦しい日々を過ごしていたところはあると思います。それが再会したときに、「ひょっとして更紗も同じような時間を過ごしていたのではないか」と感じられる。玉季とすずちゃんの二人が演じてはいましたが、僕にはちゃんとつながって見えて、すごく心強かったです。

広瀬:ただ私としては、やっぱり10代の頃の文との楽しい時間を皮膚感覚として感じられていなかったのが大変でした。途中で李さんに「桃李くんに聞いたら? 温度差を感じる」と言われて、桃李さんにお聞きしましたね。そこで桃李さんが教えて下さった言葉を15年ぶん経年させるというか、部分部分で覚えていたり、瞬間瞬間で感じたことが残っているという状態にしないといけない。

自分の想像と桃李さんからもらった文の言葉、色々リンクさせていくのはすごく難しくて、つかめるまではひたすら苦しかったです。涙腺がプツンと切れてしまって、何をやっても涙が出てきちゃう状態になってしまい、毎回本番前に李さんに「泣くなよ、強くいるんだ」と声をかけられていました。

——広瀬さんは『怒り』から約6年ぶりの李監督とのタッグですね。

広瀬:『怒り』のときは、登場人物も多いし東京・千葉・沖縄の3つの舞台で物語が進行するぶん、李さんも映画3本を同時に撮っているような状態で相当大変だったと思います。

私自身のことでいうと、『流浪の月』に入る前、初めて立ち止まるというか…敏感じゃなくなっていた時期でした。繊細な何かを感じ取れなくなってしまって、しかもその状態が続いていたんです。クランクイン前に李さんに「どうしたらいいかわからない」と相談するところから始まりました。そういった意味で、『怒り』のときとはお互いに変化がありましたね。

——松坂さんは、初めての“李組”はいかがでしたか?

松坂:李さんはリハーサルを何度も重ねたり、キャスト同士でコミュニケーションする時間を取ってくれたり、コーヒーを淹れる練習も「実際にお店で練習してみたら」とか、役作りで「撮影場所に寝泊まりしてみたら?」とアドバイスしてくれたり、とにかく芝居にとことん向き合わせてくれるんです。すごくフラットに「役として生きるためならやればいい」と言ってくれるというか、いままで僕があまり経験したことのない温度感の現場だったので新鮮であり、嬉しかったですね。

——李監督は現場でとにかく悩み抜く、というお話も伺いましたが、おふたりの目にはどう映りましたか?

松坂:悩んでいるのか、或いは待っているのか…。先ほど「役として生きる」とお話ししましたが、それがカメラの前に現れるのを待っているような状態だと感じました。たとえるなら、下からじっくり火であぶられているような感覚です(笑)。

広瀬:そのたとえ、正しいです(笑)。

松坂:おっ、やった(笑)。

広瀬:『怒り』のときと比べると、監督自身も明確な答えを持っていない感じがしました。前作は「自分でどんどん踏み出していけば答えがあるから」とずっとおっしゃっていて、それまでお芝居に答えがあるって考えたことがなかったけど、一つじゃないとはいえ何かはあるんだと初めて思えたんです。

今回はその答えがないぶん、李さんとはとにかく話しながら作っていきました。芝居を観て「今はこうだったよね?」と明確に言葉にされると、やっぱりちゃんと見てくれているし待っているし、全部伝わっているなと思います。李さんの前では、嘘をつけないんですよね。

——松坂さんが先ほどお話しされていた入念なリハーサルは、どういった形式で行われたのでしょうか。

松坂:現場でカメラが回る前に、監督とキャストだけでリハーサル兼ディスカッションをやってみて、そこから何度かリハーサルを繰り返して、その後撮影部や照明部の方が入り、皆さんにお芝居の流れ見てもらい、撮影をいう形でした。この温め方は、他の現場にはなかなかないやり方ですね。



監督は答えをくれるわけではないが「そこに導いてくれる」

——2021年の11月に放送された「情熱大陸」の中では、警察署のシーンを広瀬さんと李さんが話し合いを重ねながら研磨していく様子が収められていました。

広瀬:お互い言葉にするのが苦手で、私発信で生まれてくるものと、李さん発信で生まれてくるものがうまく伝わらなかったんです。そのシーンだけ李さんのおっしゃっていることがよくわからなくて「どういうことですか?」と聞いたのですが、ニュアンスで伝えて下さったこともあってどうしてもうまく理解できなくて。じゃあもう色々と変えてやってみよう! と模索していきました。

それで17回くらいそのシーンを繰り返していくなかで、不意に自分の中で新しいものがぽんって生まれたときに「その方向性!」と李さんに言われて、「ずっと違うことをやっていた…」ってなりました(苦笑)。

松坂:わかる。試して試して「ちょっと一回外の空気吸ってこようか」って休憩が入り、「どうやったらうまくいくんだろう。ここまではこっちの方向性でやってきたけど、一回横にずれた目線でやってみるか」と思って休憩明けにやってみると「はい(OK)」となることが何回かありました。決して答えをすぐくれるわけではないのですが、そこに導いてくれる感じがありました。やっぱり「待ってる」んだよなぁ…。

広瀬:待ってますね、あれは(笑)。

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