杏さんが『しゃべくり007』に登場!地味女子だった中学時代を語る。「子育てのスローガンは〈戦国よりはマシ!〉」

2024年5月20日(月)18時0分 婦人公論.jp


「多少のことでへこたれていちゃいけない、と自分に言い聞かせるんです。子どもがちょっとくらいご飯を食べなくても死ぬことはないでしょう、って。」(杏さん)

2024年5月20日の『しゃべくり007』に女優の杏さんが出演。地味で目立たなかった中学時代を振り返り、子育てや私生活についても語ります。そこで、歴史小説の愛読者である杏さんが作家・浅田次郎さんと対談を行った、『婦人公論』2020年9月8日号の記事を再配信します。
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長年、歴史小説を愛読している杏さんは作家・浅田次郎さんの大ファン。9年ぶりの再会に、杏さんの子育てから、苦しい時の乗り切り方、そして浅田さんの新作まで、話が弾みました。(構成=南山武志 撮影=大河内禎)

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幼な子3人の子育てが大変でも


浅田 新選組をテーマにした『一刀斎夢録』を書いたときに対談して以来だから、9年ぶりですか。すっかり大人の女性になったね。

杏 ありがとうございます。またお目にかかれて嬉しいです。

浅田 偶然だけど、ちょうど今、あの作品を読み直してるんですよ。チェックなんかも入れながら。

杏 そうでしたか! 作家さんも、ご自分の作品を読まれるんですね。

浅田 最近はそればっかり(笑)。なぜかというと、体も頭も衰えてきて、仕事のレベルが落ちていないか確認するためなの。衰えを感じる部分もあれば、そこそこよくなっているところも発見するんだけれど。杏さんは、昔のドラマや映画を見返したりはしないの?

杏 そうですね、「あのときは楽しかったなあ」と振り返るくらいでしょうか。女優デビューしたての頃の作品は、怖くて見る勇気がないです。(笑)

浅田 それにしても、コロナで世の中がこんなに変わるとは、思ってもみなかった。女優さんも大変でしょう。

杏 私の仕事は、どこかに出かけていって人と関わり合うことなんだ、というのをあらためて実感しました。それができないので、本当に何もやることがなくなってしまって……。でも、この「非日常」で感じたことはしっかり残しておきたいと、自粛期間中に日記をつけていました。お婆ちゃんになったときに、孫から「あの大変な時期をどう過ごしたの?」って、フィールドワークみたいな感じで質問された自分を想像しながら。

浅田 苦しいときに、そうやって客観的に自分を見つめられるのは、すごいなあ。作家は普段から自粛生活みたいなものだから、あまり変わらない(笑)。僕の場合はツイていて——と言うと語弊があるのだけれど、コロナ前にちょうど次の作品の取材が終わっていた。神様に、「お前は書斎に籠もって原稿用紙に向かえ!」と言われているような気持ちで仕事していましたよ。杏さん、お子さんは何人いらっしゃるんだっけ?

杏 4歳になる双子の女の子と、2歳半の男の子の3人です。

浅田 そりゃ、お母さんにとって一番大変なときだ。

杏 私、子育ての中で自分に言い聞かせているスローガンがあるんです。「戦国よりはマシ!」って。

浅田 ははは。それはまた、“歴女”の杏さんらしい言い回しだけれど、そのココロは?

杏 昔の子育てが、どれほど大変なものだったのか。例えば、『江戸の乳と子ども——いのちをつなぐ——』(沢山美果子著)という本があるんです。哺乳瓶も粉ミルクもない時代には、赤ちゃんにとって母乳だけが、文字通りの命綱でした。

浅田 お母さんのおっぱいが出なかったら、生きられなかった。

杏 にもかかわらず、地位の高い人に子どもが生まれると、村中から乳の出る女性が集められて、その結果、彼女たちは自分の赤ん坊におっぱいをあげられない、なんていうこともあったようです。

浅田 そういうつらさに比べたら、今はずっとマシじゃないか、と。

杏 多少のことでへこたれていちゃいけない、と自分に言い聞かせるんです。子どもがちょっとくらいご飯を食べなくても死ぬことはないでしょう、って。そういう話を友達にすると、「出た、杏の極論」って言われるんですけど。(笑)

浅田 いやいや、正しい歴史の学び方ですよ、それは。僕には、杏さんのお子さんと同じくらいの年の孫がいます。

杏 同居なさっているんですか?

浅田 いや、時々遊びに来る。でも、祖父が何をやっている人間なのか、まだよくわかっていないんだね。明日が締め切りっていうときに気配を感じて振り向くと、絵本を持って立ってるんだよ。「ご本読んで」って。(笑)

杏 あははは。かわいい。

浅田 この前、「今、ご本を書いてるからね。書き終わったら読んであげるから」と言ったら、「ご本を書いてる……?」と相当考え込んでましたね。そして、座敷童子みたいに、ふっといなくなった。

杏 おじいちゃんの仕事を、なんとなく理解したのかもしれませんね。

浅田 畳の部屋で胡坐をかいて、万年筆を走らせている図なんて、今の子どもにとっては、不思議以外の何ものでもないでしょう。「魔法使いの爺」くらいに思っているのかもしれない。杏さんのお子さんは、お母さんの職業を理解しているんですか?

杏 ぼんやり理解はしているようです。ここに映っているのは、お母さんではなくて鐘子さん(ドラマ『偽装不倫』の主人公)、みたいに。

浅田 別の人を演じているというのは、わかっているんだね。

杏 ジイジ(渡辺謙さん)のこともわかっているし(笑)。前にNHKのスタジオパークに行ったときに、ポスターを見て「これジイジ(渡辺謙さん)だよ、お父さん(東出昌大さん)だよ、おじさん(渡辺大さん)だよ」って。

浅田 そうか。生まれたときからその環境にあれば、理解は早いかもしれません。


「武家社会のお話ではあるのだけれど、考えてみれば、今だって日本人は、家というものにがんじがらめにされているでしょう。」(浅田さん)

がんじがらめにされている「家」をテーマに


杏 浅田さんの新作、『流人道中記』を拝読しました。不義密通の罪に問われるも切腹を拒否して蝦夷への流罪となった旗本・青山玄蕃と、その押送人である19歳の見習与力・石川乙次郎の二人旅。二人が行く奥州街道筋の風景や食事の描写も素敵で、その意味でもなかなか旅に出られない今、読むのにぴったりでした。あたかも、二人と一緒に東北を旅しているような気分になれましたから。


『流人道中記』上・下 浅田次郎、中央公論新社

浅田 時代小説にも必ずテーマがあって、あの作品は率直に「武士とは何か」「家とは何か」なのです。罪を着せられた玄蕃が腹を切れば青山の家は安泰だったのに、そうしなかったために、家族も家来たちも路頭に迷うことになった。流人として一生恥を晒すというのは、当時の武士道にもとるものです。

杏 乙次郎には、それが許せなかったわけですね。

浅田 その考え方こそ、当時の武士のスタンダードだった。しかし、玄蕃は、その身をもって「命より大事な家とは、何なのだ」という根本的な問いかけをしたのです。

杏 江戸の世では、相当勇気のいる振る舞いだったはず。

浅田 武士はスーパーマンだったんですよ。司法も行政も立法も担って、軍事権も握っていたわけだから、その権力たるや現代の政治家なんて比べものになりません。それだけに、自覚とモラルがあって、そこから外れるのは並大抵なことじゃない。でも中には、物事を自由に見られた青山玄蕃のような人間もいたのではないか——いや、いてほしかった。

杏 そういう思いが、魅力溢れる人物を生み出すのですね。

浅田 武家社会のお話ではあるのだけれど、考えてみれば、今だって日本人は、家というものにがんじがらめにされているでしょう。普段は意識していないかもしれないけれど、ふとした瞬間に、生まれ育った家や嫁いだ家に帰属している自分に気づくわけです。

杏 たしかに「家とは何か」というのは、今も考える機会が多いです。旅の間に二人が遭遇した事件の中でも印象が強かったのが、騙されて強盗の手引きをしてしまい、主殺しで磔の刑を言い渡された丁稚の亀吉の一件です。牢につながれた16歳の少年が、なんとか助からないものか、と祈るような気持ちで読みました。ああいう場面を書くときは、作家さん自身の心も揺れたりするのですか?

浅田 あそこは、正直、「なんとかこいつを救う手立てはないものか」と自問自答しながら書きました。家族から命乞いまでされた(笑)。女房が「話があります」って言うから、なんだ、最近は悪いことなんかしてないぞと思ったら、「亀吉を助けてあげられませんか」と、真顔で言われて。

杏 痛いほどわかります。これ以上は控えますけど、先生がそこまで葛藤した末に導き出したストーリーだったことを知ると、あのシーンがより奥行きのあるものに感じられてきます。

浅田 そう言っていただけると、作家冥利に尽きますよ。

〈後編につづく〉

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