労力もさることながら切なさも。川上麻衣子の《実家じまい》「両親が元気なうちに踏み切ってよかった。お喋りしながら片づけた時間は、素晴らしい思い出」

2025年5月20日(火)12時29分 婦人公論.jp


「《実家じまい》の大変さは、労力もさることながら、思い出と決別する切なさにあると痛感しました」(撮影:大河内禎)

いつか片づけなくてはと思いながら、10年以上物置と化していたという川上麻衣子さんの実家。とある〈事件〉をきっかけに、高齢の両親を説得し、重い腰を上げて整理することにしました。1ヵ月で大量のモノを仕分けして感じたこととは(撮影:大河内禎 構成:丸山あかね)

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<前編よりつづく>

頭ごなしに言わないように


方針として、全体の2割を残し、8割を処分する、と決めました。まずは、「残す」「売る」「友人などに引き取ってもらう」「迷っている」と4つに仕分けするところからスタート。それぞれに4色の付箋を、ペタペタと貼っていきました。

父は「任せる」と言っていたのに、「やっぱり、レコードプレーヤーとステレオを処分するのは忍びない」などと言い出して、ちょっと大変でした。

母は、自分のモノは自分で選別したいと言ってくれたのですが、それじゃ生前整理の意味がないよというくらい、「残すモノ」が多い(笑)。でも、モノとの久しぶりの再会に目を輝かせていて、無理やり処分を強いることはできないと感じました。

実は私自身、「ああ懐かしい」とグッとくることの連続で。最初は写真に撮って捨ててしまおうと考えていたのですが、手触りや重みが心の琴線にふれ、泣きそうになることも。「実家じまい」の大変さは、労力もさることながら、思い出と決別する切なさにあると痛感しました。

結局、2畳ほどの貸倉庫を3つ借りて、「残すモノ」をさらに「手元に置くモノ」と「倉庫に入れるモノ」に分類していくことに。処分してしまったら二度と返ってきませんから、慎重にしたかったのです。

重荷を下ろして軽やかに生きていくことが生前整理の目的なのに、「やっぱり取っておけばよかった」と心を曇らせることになっては本末転倒。いったん保留して、後日、改めて検討する2段構えにしたことで、心に優しい断捨離ができたと思っています。

もちろん、両親に「これは諦めて」と伝えねばならない場面もありました。喧嘩を避けるため、頭ごなしに言わないよう気をつけて。「これ使うかな?」と投げかけることで考える時間を作り、「本当に必要なモノだけに絞ろうよ」と改めて提案すると、大抵は納得してくれました。

懐かしいモノにまつわる母の思い出話が楽しくて、聞いているうちに、私が「じゃあこれは残そうよ」と意見を変えることも。両親が元気なうちに踏み切ってよかったと思います。たくさんお喋りしながら片づけた時間は、素晴らしい思い出となりました。

母がどうしてもと「残すモノ」の付箋を貼ったのは、北欧で集めた貴重な食器です。昨年、上野松坂屋で北欧展が開催された際に、母のコレクションが「特集企画」という形で陽の目を見ることになりました。モノたちも喜んでいたのではないでしょうか。

「売るモノ」の付箋を貼られたのは、主に父のレコードや書籍、カメラといった趣味の品。価値のわかる人に使ってほしいという父の意向で、「専門業者に買い取ってもらうモノ」と「何でも屋に引き取ってもらうモノ」に分けました。

建築の専門書などを扱う業者の方が、父のスクラップ帳を見て興奮していたのが印象的でしたね。父は几帳面で、デザイン展や万博のパンフレット、マニアックな記事を綺麗に保存していました。貴重な資料が多かったようで、何十冊もあったスクラップ帳のほとんどを買い取ってくれたのです。

木工工具や大きな作業台は、父の知り合いのもとへ。やはり喜んでもらってくれる人がいたらそれが一番ですね。

面白かったのが、仲良しの俳優・北村一輝さん。ドラマの打ち上げの折に生前整理の話をすると、「行ってもいいですか?」と言うのです。北村さんは家を借りて昭和グッズのコレクションをしているほどのレトロアイテム好き。

本当に実家にいらして、古い冷蔵庫と日本で最初の炊飯器を持ち帰り、その日に、「炊飯器を自分で直して、ご飯を炊きました」と写真を送ってくださって、ありがたかったです。

生前整理はまだまだ続く


私には残しておきたいモノはないだろうと思っていたのですが、そんなことはありませんでした。たとえば、7歳の時に上野動物園で買ってもらったパンダのぬいぐるみ。耳を押すとプーッと音が鳴る仕掛けで、この音を聞くとなんだか気持ちが落ち着くことを発見し、救済することに。かなり汚れていましたが、洗って大事に飾っています。

誰かにとってはゴミでも、誰かにとっては宝物。モノの価値は値段ではなく、愛を感じるかどうかだと気づきました。

若い頃につけていた日記や手帳も出てきて。パラパラと読みましたが、モヤモヤを発散するために書いた文章は、今後読み返さないだろうと判断して持ち帰り、来年、還暦を迎えるのを機にすべてまとめて処分しようと考えています。

一方、手帳は感情が入っておらず、記録として便利なので保管しておくつもりです。かくして私の「実家じまい」は無事に終わり、肩の荷が下りてスッキリ。本当に気持ちが楽になりました。

ところがですね、両親の持っている家がスウェーデンにもありまして……。「あの家、どうする?」はまだ続くのです。

それに私の自宅には、20年ほど前から集め始めた器などのグッズが200点以上あります。私には家じまいをしてくれる人はいないのだから、暮らしをコンパクトにしていきたいと思いつつ、今のところ手放す気はありません(笑)。

そればかりか、今後もトキメキを覚えるモノに出合ったらすぐに買ってしまうかも。せめて宝の持ち腐れに終わらないよう使い尽くしたいと思います。

婦人公論.jp

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