開高健が釣り指南請う未収録の書簡、山形の釣具店とやり取り…井伏鱒二にも言及
2025年5月26日(月)5時0分 読売新聞
山形県酒田市の釣具店と交わされた開高健の書簡(富山教子さん蔵)
釣りを愛し、「オーパ!」「フィッシュ・オン」などのルポルタージュでも知られる作家、開高健が山形県の釣具店と交わした全集未収録の書簡が確認された。現地のスズキ釣りについての指南を請う内容で、開高は山形での釣行を後にエッセーに記した。釣りに向き合う作家の実直な姿勢と、地元住民との温かな交流が浮かぶ。
書簡は計4通で、1973〜74年に山形県酒田市の「フィッシングトミヤマ」(当時)の富山誠一さん(故人)との間でやりとりされた。開高の著作権などを管理する開高健記念会が開高の遺品から富山さんの書簡を見つけた。記念会から依頼を受けた出版社「つり人社」(東京)の小野弘さん(59)が今年1月に調べたところ、対応する開高側の書簡が同店に残されていた。記念会によると、全集未収録の書簡という。
書簡では先輩作家の井伏鱒二とスズキ釣りが話題になり、人を介し富山さんを紹介してもらったこと、スズキは「激しいけれど気品のある魚」であることなどを述べ、大きさや用いるルアーなどの道具について尋ねている。富山さんは返信でルアーや糸を図解で丁寧に説明した。
開高は念願がかなって、74年夏に酒田市の最上川の河口でスズキ釣りに挑戦するが、釣れずに終わった。そのいきさつを後のエッセー「私の釣魚大全」に記し、富山さんも実名で登場する。
開高健記念会は「好きになったら何でも究めようとする、開高さんらしい姿がうかがえる貴重な資料だ」と話している。
書簡の全文は26日につり人社から発売されるムック「Old Tackle Anglers 2」に掲載される。
◆開高健=1930年、大阪生まれ。大阪市立大卒業後、58年「裸の王様」で芥川賞。ベトナムの戦地などに赴き、行動する作家として知られた。釣りを目的に海外を旅し、その体験を「オーパ!」などに記した。89年死去。