【ネタバレあり】「シスターズ」“ながら見”させない!? 怒涛のサスペンスを紐解く8つのキーワード
2022年10月18日(火)12時50分 シネマカフェ
「トッケビ〜君がくれた愛しい日々〜」「ユミの細胞たち」などで日本でも人気のキム・ゴウン、「100日の郎君様」「あやしいパートナー 〜Destiny Lovers〜」が話題を呼んだナム・ジヒョン、映画『はちどり』「今、私たちの学校は…」と確実に成長を見せるパク・ジフが3姉妹を演じ、韓国社会を牛耳ろうとする金と権力の亡者による壮絶な陰謀に巻き込まれていく。
貧しくも仲睦まじく暮らしてきた3姉妹が700億ウォンもの大金に翻弄される、二転三転する怒涛のサスペンスは、軽く“ながら見”していたら重要なセリフや些細な表情の変化を見逃してしまいそう。そんな本作を紐解く、8つのキーワード&人物に注目した。
※以下、本編のネタバレにふれています。ご注意ください。
1:「若草物語」を現代韓国で描いたら、こうなった
「シスターズ」は、これまで何度も映画化やアニメ化が繰り返されてきたルイザ・メイ・オルコットの名作小説「若草物語」(Little Women)に着想を得て、もし同作の姉妹が現代の韓国で暮らしていたら…という想像を膨らませた物語。
日本ドラマをリメイクした「マザー 無償の愛」を手掛け、『親切なクムジャさん』や『お嬢さん』、最新作『Decision to Leave』(英題)などのパク・チャヌク監督作品で知られる脚本家チョン・ソギョンが、馴染みのあるキャラクターの特徴を残しながら現代に生きる女性像を見事に描いた。新進政治家とその妻の登場はソン・イェジン主演『荊棘の秘密』も思い起こさせる。監督は「ヴィンチェンツォ」を手掛けたキム・ヒウォン。韓国社会の暗部を今作でも炙り出す。
長女メグにあたるのが、キム・ゴウン演じるオ・インジュ。家族のために身を捧げて働き、一度結婚して離婚したことも。高級靴を無理して履き靴擦れを起こしそうなタイプに見えるが、いつの間にか華麗に履きこなしている。普段は貧相でも花が咲いたら姫になるのだ。
弁が立ち、文才にも優れた勝ち気な次女ジョーに相当するオ・インギョンは、何としてでも信念を貫く不撓不屈のジャーナリスト。緻密な取材と芯の強さで、市長候補パク・ジェサン(オム・ギジュン)とその妻ウォン・サンア(オム・ジウォン)の闇に迫っていく。瀟洒な邸宅に暮らす大おばオ・ヘソク(キム・ミスク)と最も親密なのもインギョン。インギョンに思いを寄せるジョンホ(カン・フン)は、さながらローリーだ。
末っ子のセラン芸術高校2年、オ・イネは感受性が強く絵画の才能に優れた四女のエイミーにあたる。自分のための姉たちの苦労や犠牲が重荷になっており、親友になったヒョリン(ジョン・チェウン)の両親は「貴族」だからその一員になりたいという現実的な夢を持つ。
オンジェの記憶によるとベスに当たる三女は幼いころに亡くなっており、「シスターズ」では3姉妹の物語が展開する。また、彼女たちの貧しさは父親の借金に原因があるが、両親はほぼ登場しない。
2:「700億ウォン」で幸せになって!?
オーキッド建設の経理部で、同じ“ハブられ仲間”として慕っていた先輩チン・ファヨン(チュ・ジャヒョン)の遺体(実際は別人)を発見したインジュ。シン取締役(オ・ジョンセ)から、ファヨンのせいで15年間にわたり横領していた裏金700億ウォン(日本円で約70億円)と裏帳簿が消えたと知らされる。
ファヨン先輩の死の真相を突き止めたいインジュは裏金捜しに協力する中、先輩から会員権を譲られたヨガサロンのロッカーで、登山リュックに入った現金20億ウォンを見つける。「窓の立て付けのいい家で妹たちと暮らしてね」との手紙もついていた。
それだけでなく、ファヨン先輩と欧州で資金洗浄に関わっていた財務担当チェ・ドイル本部長(ウィ・ハジュン)の調べで、700億ウォンは「オ・インジュ」名義のシンガポールの銀行口座にあることが分かる。
700億ウォンは、韓国の平均年収4,000万ウォンの1万7500年分にあたる。これほどの裏金づくりをシン取締役に指示していたのは、オーキッド建設を含むウォルリョングループ会長にしてベトナム戦争の英雄である“将軍”ウォン・ギソン、そして将軍が病に倒れ意識不明となってからは、その娘でウォルリョン美術館館長のウォン・サンア。700億ウォンは、彼女の夫で弁護士から市民党のソウル市長候補となるパク・ジェサンの選挙資金だった。
「700億を失った人は、いっそう金に執着する」というチェ・ドイルの言葉どおりに、700億を奪われたサンアの陰湿で猟奇的ともいえる“筋書き”によって、インジュはこれまで知るよしもなかった富裕層の日常と現代韓国の闇に足を踏み入れる。チェ・ドイルとは700億ウォンを6対4で分けることを条件に、手を組むのだが…。
3:インジュの夢をすべて叶える「シンガポール」
ファヨンは、シンガポールでサンアの指示により資金洗浄を行っていた。世界ラン大会で最高峰のランを競り落とすことは、美術品より目立たず、資金洗浄や脱税、横領にはもってこい。いまや世界の富豪がシンガポールで財テクならぬ“ランテク”をしている、とサンアは言ってのける。
一方、ファヨンはSNS上ではチン・ミギョンと名乗りつつ、「オ・インジュ」名義の銀行口座だけでなく、高級マンションやクラシックカーを所有していた。シンガポールは4年前、亡くなったファヨンの母の代わりにインジュが付き添い、2人で初めて海外旅行に行った場所。その際に「1日でいいから、あんな所に住んでみたい」とふと話し、初めての贅沢な時間を味わったインジュの夢をファヨンは叶えてあげたかったのだ。
だが、周囲の人々が次々と亡くなり、自身や妹たちの身の安全も危ぶまれる中、やがてインジュは700億ウォンを自ら引き出しにチェ・ドイルとシンガポールへ向かう。しかし、シンガポールにもサンアの罠が! ファヨン先輩のふりをして黄色のドレス姿を見せたり、手紙を秘かに渡したりとインジュを操り翻弄し、挙げ句、彼女のマンションで700億ウォンを奪う寸前に。
「“MIP”:世界一重要な人」なんて初めて言われ、まるで映画『プリティ・ウーマン』のように至れり尽くせりだったインジュが、サンアの筋書きで“どん底に突き落とされるか”と思いきや、インギョンがパク・ジェサンに裏帳簿を渡して何とか交渉成立。
さらに、実は生きていたファヨンが追われて事故に遭ったインジュを「お金持ちになるんでしょ、起きて」と奮い立たせ、サンアの魔の手からインジュを守っていた。こうしたシンガポールのシーンは現地ロケが行われただけあり、豪華絢爛な雰囲気もたっぷり味わえる。
4:インギョンが探る「ポベ貯蓄銀行」事件
パク・ジェサンは4年前、ごく普通の市民3万人の預金4,000億ウォンが倒産によって“消えた”ポベ貯蓄銀行事件で銀行側の弁護士団の1人だった。当時、新人記者だったインギョンが初めて取材した事件であり、頭取キム・ダルスをはじめ4人の関係者が自殺したことで、その内の1,400億ウォンの行方が分からなくなっていた。
その被害者の中に、ファヨン先輩の母もいた。ファヨンはオーキッド建設の前身ウォルリョン建設時代から横領を手伝いながら貯めた2,000万ウォンを母に譲ったが、母はすべてポベ貯蓄銀行に預けていた。“少しでも利子を得ようと預金した庶民”の1人だったのだ。それ以後、ファヨンは変わったとサンアも話しており、その時からファヨンは“復讐”を念頭に置いていたらしい。
もともとインジュが「妹はOBNの報道レポーター」とファヨンに話したことから、彼女はポベ貯蓄銀行被害者の会でインギョンに接触、後に情報提供する頭取キム・ダルスの甥を紹介していた。その甥キム・チョルソンにインギョンが改めて接触すると、交通事故に見せかけて殺害されてしまう。チョルソンの弟から当時の病室の防犯カメラ映像を手に入れたインギョンは、パク・ジェサンの関与を確信するのだ。
5:イネも誘われた「青いラン」の秘密の温室
ファヨン先輩(実際は別人)が亡くなった自宅アパート、検察に自首して刑務所に逃げようとしたシン取締役の事故現場、インギョンが接触しようとしたポベ貯蓄銀行関係者のキム・チョルソンの事故現場には、決まって青いランが置かれていた。さらに、ポベ貯蓄銀行のキム・ダルスが自殺直前に手にし、その香りをかいでいたのも青いラン。
そして、インジュがサンアから青いランを受け取ったその日、大おばオ・ヘソクも彼女に恨みを持つチョン・サンヒョクに殺され、そこにもやはり青いランが…。
インギョンがジョンホと調べた青いランは、通称・ベトナムの幽霊。ラン界の女王ともいわれる希少品種。ウォン・ギソン将軍がベトナム戦争中に発見し、韓国に持ち帰った。研究者による専門書「青いラン」を韓国語に翻訳したのが、将軍の部下だったウォルリョン学校のチャン・サピョン校長(チャン・グァン)。
生育にはある老木のみに育つ特定の微生物やカビが必要なため、ランはその木からは離れて生きられない。その老木がある場所は韓国で唯一、将軍の自宅だけ。聖ベネディクト精神科病院に入院していた、将軍の息子でサンアの兄ウォン・サンウ(イ・ミヌ)がラン愛好家だったのも頷ける。
サンアとパク・ジェサンの娘ヒョリンとともに留学するため、その家で暮らし始めたイネも、見事な老木と青いランが咲き乱れる秘密の温室を目の当たりにする。青いランの香りは感覚を研ぎ澄まさせ、記憶を取り戻させたり、幻覚を見せたりする作用があるという。イネもこの温室で、記憶の奥底にあった亡くなった三女についての母の会話を思い出していた。
ランから抽出した原液には昏睡作用もあり、サンアによれば「原液3滴で30分以内に馬も熟睡する」ほど。シンガポールでは、サンアがインジュにラン入りのお茶を飲ませて眠らせる展開もあった。最終話ではサンアが父・ギソン将軍の吸入器にも注入し、死に至らしめている。
6:「情蘭会」表の顔と裏の顔
サンアがインジュにランを渡す際、子どもの頃の夢を尋ねている。「お金持ちと結婚すること」と答えたインジュに、上の妹インギョンは“記者”、下の妹イネは“画家”なのにねと笑いながら、自分の力でお金持ちになりたいはず、との言葉とともにランを授けるのだ。
さらに、「最愛の娘なのに、父が私にくれたのはランだけだった」とインジュに話すサンア。そのランは将軍の木がないと育たないため、「あなたの夢のランは私たちが育てる」と言う。その“私たち”が国際ラン協会、別名“情蘭(チョンナン)会”。
一方、インギョンが大おばヘソクの昔の写真を復元してみると、そこにはヘソクを含む14人の大人と1人の少年の姿が写り、裏には「73年3月5日 情蘭会」と記されていた。ウォン・ギソン将軍を中心としたベトナム戦争の特殊部隊の生き残りで、青いランを媒介にしてつながる情蘭会が後にウォルリョン学校となる土地を手に入れた記念の日だ。
そのメンバーはパク・ジェサンの父で将軍の運転手パク・イルボク、チャン・サピョン校長、軍事機密を流した不動産投機で告発されたコ・ジュウォン軍属、自殺したポベ貯蓄銀行のキム・ダルス頭取、さらに聖ベネディクト病院の前身ソンジン福祉院のシム・ジェスン院長、強制撤去を行っていたチャンウン開発代表のチャン・ウンソン、そして自動車事故に遭ったオーキッド建設取締役シン・ヒョンミンらで、将軍とチャン校長以外、全員がすでに亡くなっている。
情蘭会のルールは、たった2つ。<・情蘭会に己の生死を預ける ・許された者以外に口外しない>。表向きは、ウォルリョン学校やパク・ジェサン財団のように、能力がありながらも経済的困難から夢を諦めざるを得ない“どん底の人間”を最も高いところまで引き上げる、という立派な理念を掲げているが、裏では私学汚職、不動産投機、矯正施設など、インギョンが「70〜80年代史のダイジェストね」と言うように急ピッチで近代化する社会で暗躍していた者ばかり。
さらに、OBNでインギョンの飲酒を告発したり、パク・ジェサン陣営の報道をしていたチャン・マリ記者(コン・ミンジョン)はウォルリョン学校の卒業生で、インギョンを“誰にも屈するな。真実を追求しろ”“歴史と大衆の前で正しくあれ”と叱咤激励してきたチョ部長(チョ・スンヨン)も情蘭会の一員だった。
財界、教育界、メディアから今度は政界へ。情蘭会が秘かに戦争を続け、国家を牛耳ろうとする組織だったことがよく分かる。将軍が意識不明のいま、パク・ジェサンが後継者と見られたが、実際はサンアが自らの欲望と歪んだ愛のために夫を操っていたようなもの。しかし、兄サンウが命を賭けた隠し撮り映像でその本性が暴かれたことで、市長当選目前にも関わらず、サンアは死への切符=青いランを夫に渡すことになった。
7:ウォン・サンアの心の闇「閉ざされた部屋」
今作のオープニングクレジットには、逃げる3姉妹の前に立ちはだかるグリーンのマニキュアをした女性の手などとともに、「閉ざされた部屋」が描かれていた。情蘭会の“活動”に賛同できなかったサンアの母は、将軍によって2922日間、約8年もの間、屋敷内の窓や扉のない部屋に幽閉されていたのだ。9歳のときから孤独に育ってきたサンアは、8年後に誤って母を死なせてしまう。
ニューヨーク演劇学校で学んだサンアの卒業作品「閉ざされた部屋」は、まさにその部屋のミニチュアだ。亡くなった母に毛皮のコートを着せ、赤い靴を履かせて飾ったように、「閉ざされた部屋」のクローゼットの人形にも、そしてファヨンの前任者ヤン・ヒャンスクにも、ファヨンの身代わりとなった女性にも同じ格好をさせた。彼女たちの自宅アパートも「閉ざされた部屋」のようにサンアが装飾したのだろう。
屋根裏部屋でそのミニチュアを知り、さらに防犯カメラからファヨンを殺害したのはサンアだと知ってしまったイネとヒョリン。イネは、怪物のような両親といたら「何になるか分からない」とずっと考えていたというヒョリンと家を出ようとするが、サンアによって閉ざされた部屋に閉じ込められてしまった。2人はこの出来事が決定的となり、韓国を後にすることになる。
サンアが卒業制作で作ったミニチュア「閉ざされた部屋」には、「私はずっとここから出られない」とのメモがあった。24時間演技をしていたサンアだが、オ・ヘソクの葬儀でインジュに語った言葉には本音が見え隠れする。母の死は娘ヒョリンやイネと同じ年のころ。ヘソクに「(衝撃的な)その場面を理解できず、受け入れられなければ、扉を閉めて生きていきなさい」と言われたことは、実際に彼女の拠り所となっていたはず。
自作の舞台で自作のキャラクターを殺すのは、いわば、サンアなりの歪みきった箱庭療法だったのだろう。罪の意識に耐えきれず、実父であるウォン・ギソン将軍を横領と背任で告訴した兄サンウも、母とよく似ていたとサンアは言う。そんなサンウは夫パク・ジェソンに殺され、ジェソンも情蘭会を守るため自死した。愛娘も去っていった。
本当の天外孤独になったサンアが最後に描いたシナリオは、父とチャン校長、ファヨンとインジェ、さらに自分自身と青いラン、つまり情蘭会を秘密の温室ごと滅ぼすことだった。闇の中にあまりにも深く沈んでしまったサンアは、情蘭会の最大の犠牲者といえるかもしれない。
8:「チェ・ドイル」とは一体、何者?
「君の一番の魅力は、本気で信じ込むこと」とインジュに話したチェ・ドイル。ファヨンとは欧州法人で仕事をしていたという財務本部長。要は、資金洗浄のスペシャリストだ。ファヨンとは似ていて、同じ道徳律を持っているから友達になれたと話す。この世でお金ほど神聖なものはなく、またお金ほど悪魔のように人を狂わせるものはないという相反する価値観を理解し合っていたのだろう。インジュの話から、ファヨンが母を亡くした4年前からこの計画を練っていたことにすぐにピンときていた。
情蘭会のせいで母アン・ソヨン(ナム・ギエ)が受刑者となり、孤独な少年時代を過ごした彼の哲学は、父チェ・ヒジェ(キム・ミョンス)やパク・ジェサンらとは違い、非暴力だ(ケンカは強いが)。「もう少し安全で品のいい方法もあるのに、なぜ人は命を賭けて復讐するのか」と疑問に思っている。事故死に見せかけて元恋人を別人に生まれ変わらせたように、その手のことが主分野らしい。インジュにもギリシアのアンドロス島などを紹介している。
「僕が信じられない?」とインジュに尋ねたこともあるが、彼はパク・ジェサンから信頼を得ていた上に、サンアがシンガポールで「あの詐欺師を信じてるの?」と仕返しのように持ち出したりすると、インジュはすぐ揺らぐ。「書類にサインして」と言われれば、英語が読めなくても素直にサインしてしまう。そんな純粋さに彼は惹かれていたようだ。
パク・ジェサンはそんな恋心など抱くはずがないと500ウォン賭けていたが、コ室長(パク・ボギョン)は早くからそれを見抜いていた。シンガポールでは人々が思い描くオ・インジュになるために高価なドレスで着飾らせ、美しいピアスも用意した。また、インジェのために検察側の証人として出廷し、すべてはサンアらの指示であったと明らかにし、インジュを無罪にするきっかけを作った。
サンアに囚われたファヨン先輩のためにインジュが駆けつけると、チェ・ドイルもまた颯爽と現れた。インジュへの愛情を確信したコ室長に、「そう思うなら邪魔しちゃだめだろ」と言い放ったのは最終話の名シーン。それでも、インジュは別れ際の最後まで、彼の思いに気づいていないような素振り…。お金持ちで親切で、夢をすべて叶えてくれそうな人とは結ばれない。これからは、インジュが自分自身で夢を叶えていくのだから。
「シスターズ」はNetflixにて配信中。