党大会参加者に「金正恩時計」をプレゼント、コロナ禍で規模は縮小

2021年2月14日(日)7時33分 デイリーNKジャパン

金正恩総書記の動静に関する北朝鮮国営メディアの報道で、よく登場するのが、次のような記事だ。


朝鮮労働党総書記で朝鮮民主主義人民共和国国務委員長、朝鮮民主主義人民共和国武力最高司令官である敬愛する金正恩同志が1月18日、第8回党大会の成功裏の保障に寄与した出版・印刷部門の勤労者を党中央委員会本部庁舎の庭に呼びつけて意義深い記念写真を撮った。


「たかが記念写真くらいで…」と思うなかれ。北朝鮮で最高指導者と撮った記念写真は、勲章に相当すると言っても過言ではない。最高指導者の安全を至上命題としている北朝鮮では、誰彼ともなく金正恩氏に会えるわけではないのだ。申し分ない成分(身分)を持ち、思想はもちろん、健康面でも問題のない「選ばれし者」だけが、金正恩氏のそばに寄ることを許される。


記念写真を撮った人は、様々な面で国のお墨付きを得た証明となり、地域社会で優遇される。記念写真同様に価値があるのは「尊銜(お名前)時計」。最高指導者の名前が刻まれた高級時計で、日本風に言えば「恩賜時計」。金日成主席が抗日パルチザン活動を行っていた時代に、戦友に腕時計をプレゼントしたことがその由来とされ、高官や国に貢献した人に贈られた。


その伝統は、孫の金正恩氏にも引き継がれている。


デイリーNK内部情報筋は、先月5日から12日まで開かれた朝鮮労働党第8回大会に参加した核心幹部に、金正恩氏の親筆(サイン)が入った時計がプレゼントされたと伝えた。金日成、金正日両氏の名前の入った時計はあったが、金正恩バージョンの存在は今まで確認されていなかった。


かつてはオメガ、ロレックスなどスイス製の超高級品が使われていたが、今回プレゼントされた時計のブランドについて、情報筋は触れていない。ちなみに、米政府系ラジオ・フリー・アジア(RFA)は、スイス時計産業協会から入手した資料を引用し、昨年1月から11月まで北朝鮮への時計の輸出はゼロだったと報じている。


高級時計を含む贅沢品の北朝鮮への輸出は、2006年の核実験を受けて、国連安全保障理事会で採択された対北朝鮮制裁決議1718号で禁じられ、2016年に採択された対北朝鮮制裁決議2270号を受け、スイス政府も輸出を禁じる独自制裁を行っている。


しかし、実際には輸出が続けられ、スイス時計産業協会の資料では、2019年の対北朝鮮輸出額は2万2862スイスフラン(約268万円)となっている。


一方で情報筋は、部長(大臣に相当)クラス以上の幹部には「朝鮮労働党総書記金正恩同志の贈り物」と刻まれた金剛山(クムガンサン)ブランドの32インチ型の液晶テレビも贈られたとも伝えている。情報筋は「今後5年間の(経済)計画をうまく執行せよとの激励の意味」だと説明した。このテレビは、平壌市内の寺洞(サドン)区域にある、大同江テレビ受像機工場がフル稼働して製造したものだ。


情報筋は、北朝鮮で売られているテレビのサイズは一般的に15、17、19など奇数となっているが、今回配ったテレビが偶数のサイズになっているのは、市場に売りに出せないようにするための措置だと説明した。金正恩氏からの贈り物を売り払うのは、政治犯と見なされかねないリスキーな行為だが、生活苦の末に売ったという事例が報告されており、流れ流れて海外のオークションサイトに出品されることもある。


前回の第7回大会では、参加者全員にもれなくアリランブランドの45インチ型液晶テレビが贈られたことと比較すると、今回のものは、規模もテレビのサイズも見劣りする。また、前にはもらえた高級菓子が入った大きな箱も、今回は配られなかったとのことだ。新型コロナウイルス対策として取られている国境封鎖、防疫停止措置が影響したものと思われる。



一方、同じ党大会参加者でも一般の党員は、通常なら党大会参加とセットになっている平壌観光にも参加できず、何の記念品も受け取れないままで帰宅させられた。参加者にコロナ感染が疑われる患者が発生したからだ。


咸鏡北道(ハムギョンブクト)と平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、党大会の一部参加者が時計を受け取って帰郷したが、多くは手ぶらで、失望の空気が漂っていると伝えた。


というのも、大会前に「参加者は家がもらえるのでは」という噂が流れていたからだ。ところが、実際は幹部を除けば何ももらえず、「贈り物が多すぎて宅配で送ったんだろう」と皮肉られる有様。


長年、完全な配給体制下で暮らしてきた北朝鮮の人々には、何かあるたびに「配給でいいものがもらえるのでは」との期待を抱く傾向がある。そんな噂に尾ひれが付きまくり、非現実的な期待が広がることがしばしばある。しかし、それが裏切られると、不満は当局に向かう。非常に頭の痛い問題だろう。


一方で、「国の政策を執行する党員にすら贈り物ができないのを見て、今年は(1990年代後半の大飢饉)苦難の行軍のとき以上の苦しみが待っている」と悲観的な見方を示す人もいたとのことだ。

デイリーNKジャパン

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