金正恩氏の「処刑部隊」が庶民の攻撃受けタジタジ

2018年7月6日(金)6時44分 デイリーNKジャパン


北朝鮮当局が進めている「非社会主義的現象」の取り締まり。一種の風紀引き締め策だが、これに対して住民が集団で抗議する事態が発生したと、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えてきた。


ちなみに非社会主義的現象とは、文字通り北朝鮮が標榜する社会主義の気風を乱すあらゆる行為を指す。たとえば賭博、売買春、違法薬物の密売や乱用、韓国など外国のドラマ・映画・音楽の視聴、ヤミ金融、宗教を含む迷信などなどだ。もちろん、その他の刑事事犯も含まれる。


道内の恵山(ヘサン)では6月初め、保衛部(秘密警察)が住民を集めて「非社会主義検閲総和」が行われた。つまり、取り締まりの最後に行われる総括だ。この場で異例の事態が発生した。


ある人は検閲(家宅捜索)を受けなかったのに、別の人は検閲を受けて中国人民元で1万元(約16万7000円)以上も押収されたこと、一部の人に手心が加えられていたことが暴露された。


すると、「奪うなら平等に奪え」などと集団で抗議する人が続出し、騒然となった。


「検閲を免れた人は、事前に保衛員から知らせてもらったに違いない」
「検閲が来る前に家にあったカネとモノを全部隠して、引っかからないように策を図った」
「彼らには特恵が与えられるのに、われわれは為す術もないうちにやられた」 (以上、参加者の声)


集団での抗議を目の当たりにした保衛員たちは「われわれに何の力があるというのか」などと苦しい弁明を繰り返した挙げ句、逃げるようにその場を後にした。保衛部と言えば、拷問や公開処刑、政治犯収容所の運営を担当してきた恐怖政治の象徴である。それがタジタジになるとは、庶民の怒りの大きさはよほどのものだったに違いない。


この出来事は、北朝鮮社会の変化により、国民の法や権利に対する意識が変わりつつあることを示している。


金正恩氏が政権について以降、商行為に対する統制が緩和され、市場経済化がさらに進んだ。緩和されたと言っても、たまに取り締まりが行われるのだが、力をつけた商人たちが押し返してしまうのだ。


商人は、自分たちのビジネスも金正恩氏の唱える「自力更生」であるとして、商売を行うことを権利として認識するようになり、権利の侵害に対して強く反発するようになったのだ。


意識が変わりつつあることを示す事例は、他にもある。2016年10月、平安北道(ピョンアンブクト)のデイリーNK内部情報筋は、保安署(警察署)が家宅捜索をしようと思ったが、この家に住む女性が「令状を見せろ」などと抵抗したという。


これまで、抗議を受けるのは主として保安員(警察官)だったが、今回は秘密警察である保衛員に対して抗議するようになったのが注目すべき点だ。


北朝鮮で、一般国民が権力に抗議することは、命がけだった。金正日政権時代には、当局のあまりにも理不尽なやり方に立ち上がった労働者が虐殺される事件も起きている。


現時点においても、北朝鮮国民が本気で体制に抗うのは不可能なほどに難しい。しかし、国民の中にいったん芽生えた権利意識を摘み取ることも、それと同じくらい難しいはずだ。

デイリーNKジャパン

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