2025年、宇宙開発の未来図 - 新型ロケットや民間月探査、注目ミッション総まとめ 第3回 有人宇宙飛行編 - 日本の新補給機「HTV-X」や民間ステーション、インドの挑戦

2025年1月25日(土)10時5分 マイナビニュース


2025年に予定されているロケットの打ち上げや、有人宇宙飛行、月・惑星探査ミッションの中から、とくに注目のものを紹介する連載。
第3回では、有人宇宙飛行ミッションについて取り上げる。
○2025年も国際宇宙ステーション(ISS)は大忙し
大西卓哉宇宙飛行士の長期滞在
3月以降には、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大西卓哉宇宙飛行士の、国際宇宙ステーション(ISS)での長期滞在ミッションが予定されている。
大西宇宙飛行士は、米国やロシアの宇宙飛行士とともにスペースXの「クルー・ドラゴン」宇宙船運用10号機(Crew-10)に搭乗し、ISSへ向かう。ISSでは、重力変動ががん治療薬の効果に及ぼす影響の研究や、将来の有人宇宙探査を見据えた二酸化炭素除去の軌道上技術実証を行う。
また、第72次長期滞在ではフライト・エンジニアを務め、第73次長期滞在ではISS船長として指揮を執ることになっている。
このミッションは、クルー・ドラゴンのシリアルナンバー「C213」カプセルの初飛行でもある。これまでカプセルには、「エンデヴァー」、「レジリエンス」、「エンデュアランス」、「フリーダム」といった愛称がつけられてきたが、今回の機体にどのような名前が付けられるかも注目である。
新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の打ち上げ
2025年度中には、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)の1号機が打ち上げを迎える。
HTV-Xは、2009年から2020年にかけて運用された宇宙ステーション補給機「こうのとり」の後継機である。輸送能力が大幅に向上し、より多くの物資を運搬できるようになっている。また、運用の柔軟性も高まり、電力供給が必要な荷物への対応や、打ち上げ直前の荷物搭載も可能となっている。
さらに、HTV-X単体でも技術実証プラットフォームとして運用でき、新しい技術の試験や、宇宙実験などを行う、「宙とぶ実験室」として活用できる。
将来的には、アルテミス計画で建造される月周回宇宙ステーション「ゲートウェイ」への物資補給への利用も検討されている。
日本と世界の未来を運ぶ、日本の新しい宇宙船の誕生を心待ちにしたい。
ドリーム・チェイサー、ついに発進!
スペースシャトルが引退して以来、心にぽっかり穴が開いてしまった宇宙ファンにとって大注目なのが、「ドリーム・チェイサー」(Dream Chaser)の初飛行である。1号機「テナシティ」(Tenacity)の打ち上げは、現時点で5月以降に予定されている。
ドリーム・チェイサーは米シエラ・スペース(Sierra Space)が開発中のスペースプレーンで、胴体そのものが揚力を生み出すリフティングボディを採用している。無人で運用され、ISSへの物資補給や、地球への成果物の回収が可能である。とくに、滑空飛行での帰還により加速度を抑え、貨物を安全に回収できるほか、滑走路への精密な着陸も可能な点が、ほかにはない特徴である。
基本的には米国から打ち上げられ、着陸することになるが、将来的には日本の大分空港への着陸も検討されている。今回のミッションは、大分空港が宇宙港としての役割を担うための重要な一歩となるだろう。
○民間企業による挑戦も続々
史上初の極軌道への有人飛行「フラム2」
3月以降には、起業家、冒険家のチュン・ワン(Chun Wang)氏とスペースXによる民間宇宙飛行ミッション「フラム2」(Fram2)が行われる。
同ミッションは、史上初となる極軌道(地球を南北に回る)への有人飛行となる。宇宙船にはクルー・ドラゴンを使い、また先端にはキューポラと呼ばれるドーム状の大きな窓が設けられる。これにより、乗組員は南極や北極を含む、地球の全体を観察することができる。
さらに、地球の上空約400〜500kmで起こる「スティーヴ」(STEVE)と呼ばれる発光現象の研究や、宇宙飛行が人体に与える影響について調べるための研究も行う。
史上初の民間宇宙ステーションの打ち上げ
ISSの運用終了が2030年に迫る中、その後継となる民間宇宙ステーションの開発が進んでいる。
その先陣を切って、早ければ8月にも、「ヴァースト・スペース」(Vast Space)の「ヘイヴン1」(Haven-1)が打ち上げられる。
ヘイヴン1は全長10.1m、直径3.8mで、質量は14t。太陽電池や通信機器、生命維持システムなど、単独で運用するために必要な機能をすべて備えており、4人が最大30日間滞在することができる。
打ち上げには、スペースXの大型ロケット「ファルコン9」を使用する。
また、ヘイヴン1の打ち上げ後には、スペースXのクルー・ドラゴンを使った同ステーションの有人飛行ミッション「ヴァースト1」の実施も計画されており、さっそく滞在が行われる。
ヴァーストは将来的に、スペースXの巨大ロケット「スターシップ」を使った大型宇宙ステーションの打ち上げを計画しているほか、2030年代には回転して人工重力を生み出せる宇宙ステーションの建造などを構想している。
民間宇宙ステーションは、同社以外にも複数社が開発を行っている。他社も含め、2025年にどのような動きを見せるのかに注目である。
インドの「ガガニャーン」宇宙船の飛行試験
現在、有人宇宙船を運用しているのはロシア、米国、中国の3か国のみだが、それに続こうと力を入れているのがインドである。
インド宇宙研究機関(ISRO)が開発中の「ガガニャーン」(Gaganyaan)宇宙船は、最大3人の宇宙飛行士を乗せ、高度400kmの地球低軌道に最大3日間滞在できる。打ち上げには、インドの最新、最大のロケット「LVM3」を有人飛行用に改修して使う。
早ければ2025年中にも無人での飛行試験を行い、2026年に初の有人飛行を行うことが計画されている。
すでに、ガガニャーンに搭乗する宇宙飛行士4人も選ばれており、訓練を続けている。また、そのうちの一人のシュバンシュ・シュクラ(Shubhanshu Shukla)宇宙飛行士は、米国の民間企業アクシアム・スペースが実施する民間宇宙飛行ミッション「アクシアム4」に参加し、宇宙飛行の経験を積むことになっている。アクシアム4の打ち上げは2025年4月以降の予定で、スペースXのクルー・ドラゴンでISSを訪れ、約2週間滞在する。
インドはまた、2035年ごろに独自の宇宙ステーションを建設し、さらに2040年には宇宙飛行士を月に着陸させるという目標を宣言している。米国や中国に続いて、有人宇宙開発に新たな風を吹き込むことになるかもしれない。
2024年に負けず劣らず、2025年も宇宙開発が大きく発展する一年となるだろう。新たなロケットや探査機、宇宙船の登場、民間企業による挑戦により、宇宙はますます私たちの日常に近づき、さらに魅力を増しつつある。その先には、新たな技術や発見、そして夢が待っている。
これからも引き続き本誌を通じて、この未来へ続く大いなる旅路を、読者の皆様と一緒に見届けていきたい。
鳥嶋真也 とりしましんや
著者プロフィール 宇宙開発評論家、宇宙開発史家。宇宙作家クラブ会員。 宇宙開発や天文学における最新ニュースから歴史まで、宇宙にまつわる様々な物事を対象に、取材や研究、記事や論考の執筆などを行っている。新聞やテレビ、ラジオでの解説も多数。 この著者の記事一覧はこちら

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