電通デジタルCAIOに聞く、新組織「AI Native Twin」と共に目指す全社AIネイティブとは

2025年1月30日(木)11時5分 マイナビニュース


今、電通デジタルがAIに真正面から取り組んでいる。これまで全社員にChatGPTのアカウントを付与し、マーケティング分野ではAIを活用した「∞AI」を開発、モンゴルにAI開発とデータ分析の拠点を構えるなどの取り組みを進めてきた。そして2025年、全事業でのAI活用を促進する横断組織となる「AI Native Twin」を組成した。
そのAI Native Twinを中心に、全社にAIの活用と浸透を図る責任者として、1月1日にCAIO(最高AI責任者)に就任したのが執行役員の山本覚氏だ。就任まもない山本氏に、現在の取り組みや今後の抱負について聞いた。
CAIOの役割、新たなAIの取り組みとは
--CAIOの役割についてお聞かせください--
山本氏: CAIOの主な役割は、AIの専門組織で構築するAIをすべての事業部門に浸透させ、活用するところまでを推進することです。
そして、実施したプラクティスを電通デジタルだけではなく電通グループ全体に反映し、共有していく。これにより、グループ全体に貢献できるようにしたいと考えています。
--これまでにもAIに取り組んできたと思いますが、新しい取り組みとの違いはどこにあるのでしょうか?--
電通デジタルにおけるAIの取り組みを振り返ると、2023年にAI開発とビッグデータ分析に強みを持つデータアーティストと統合し、AIが会社の事業を推進するものになるかどうかを検証しました。ちょうどChatGPTが世に出てすぐのタイミングです。それ以前から取り組んでいた広告領域において、AI導入により150%程度のパフォーマンスが出ることがわかり、マーケティング活動においても、AIによる対話化の支援が増えてきました。このように一定の可能性が見えたので、2024年から本格化したという流れです。
私はこれまでも執行役員としてAIを担当していましたが、これまでの進め方はAIの専門組織が開発したものを事業部門に渡すだけで、活用までは十分にコミットできていませんでした。
これからは、今までの職務とは反対に、AIの専門組織が作ったAIをいかに事業部が使える状態にしていくかがミッションになります。AIの専門組織とのやりとりも継続しますが、事業部門にいるAI担当メンバーと連携しながら、浸透の部分を見ていくことになります。
現場のメンバーによる横断組織「AI Native Twin」を新設
--AIの推進体制について教えてください--
山本氏: 電通デジタルには大きく分けてマーケティングコミュニケーション(MC)領域と、カスタマーエクスペリエンス(CX)などの変革を担うエクスペリエンステクノロジー(XT)領域があり、その中でさらに部門が細分化されています。例えば、XT領域にあるデータエンゲージメント部門では、対話型チャットAIで取得したデータをどう使いやすくするか、他部門が使えるようにするかといったことを考えています。
それぞれの部門にミッションがあり、元々AI関連事業に取り組んでいたメンバーが担当者として任命されています。現在、30人を上回る担当メンバーがいる状態です。横断組織「AI Native Twin」を作って、事業部にAI担当を割り当てることで現業を推進するという観点でAIを活用できるというのが狙いです。
同時に、それぞれの部門に執行役員がつき、各部門に対しAI活用のミッションを設定しています。そのため、単なるバーチャル組織ではなく、かなり執行力の高い組織になっています。例えば広告側には、顧客データを活用しながら高度でパフォーマンスが高い広告を配信するというミッションがありますが、CX側で対話データの取得が遅れると影響が出ます。そういった部門間のつながりやクリティカルパスも念頭に入れて、ミッションを設計しています。
これまで私は人的な管理を行っていませんでしたが、今後はプロジェクトとして、これらのメンバーと一緒に達成目標を設定して進めていきます。全体としての方針は、AIコミッティとして役員が集まる意思決定機関が決めており、これをもとに四半期単位で明確なミッションとKPIを決めて推進していきます。“こうなったらいいね”から“やりきる”という決意を持って進めるというイメージです。
数でいうと52個のKPIがあり、それらが各部門に割り振られています。KPIの中には、完成時にサービスをリリースするものもあれば、複数のサービスのリリースにつながるものもあります。
電通デジタルならではのAIとは何か
--お話しいただいた取り組みはAIに大きな可能性を見出してのことだと思いますが、電通デジタルにとってのAIとは?--
山本氏: AIの可能性はもちろんですが、人間への信頼があるからAIの可能性に期待している面があります。
電通デジタルの根本的な強みはクリエイティビティにあると捉えています。そのため、強みの部分でもっと差別化要素を出すためにAIを活用すべきと考えています。AIでできることはどんどんAIにやってもらい、人の時間を解放する。また、クリエイティビティをもっと加速するためのアイデア出しでもAIを活用することで、強みを伸ばしていく。単に定型的な数字の入力や、明らかな事実に対する当たり前のコメントはAIに任せて、人間関係や限られた情報、そこからしか導き出せない判断といった、より高度な業務に人間が注力できるようにしたいと考えています。
つまり、クリエイティビティを伸ばす基盤としてのAIという位置付けです。AIには特定の作業を減らすという効果はありますが、それは人単位ではなく、作業自体の効率化です。われわれは代理店、つまり何かを代理しているという立ち位置です。そこにおいて、クライアントが本当に求めていることは何かを理解してそれを実現することは人にしかできません。
今回、組成したAI Native Twinの“AI Native”は、誰もがAIを使っている、AIネイティブな状態という意味を込めています。AIネイティブな状態になるとこうなるという将来図を設計して、その時にあるべき仕組みを先につくったのがAI Native Twinです。そこにAIを使いこなせるようになった社員が移住していくようなイメージを持って、全社ごととして進めていきます。
私見になりますが、われわれの強みが広告とCXの融合だとすれば、その2つは電通グループ全体の強みでもあります。当社で成功したことはグローバルに広げることができる。そこで、現在は電通デジタルのAI Native Twinですが、これをdentsu JapanのAI Native Twin、電通グローバルのAI Native Twinと展開できるような形で組織やシステムを作っていきます。
広がりというところでは変化は始まっています。私は入社2年弱ですが、この間にもAIをやりたいという人が集まってきています。AI専門以外の部門からも自分たちのプロジェクトに導入したいという人が担当に挙手しており、彼・彼女らがハブメンバーになって自然にAI担当に任命されていったというポジティブな流れが起きています。実は、全社横断の組織とAI Native Twinというアイデアも私ではなく、こういうものがあった方がいいという戦略系のメンバーの提案です。
--人事の評価など、制度面での工夫はありますか?--
山本氏: 評価は簡単に変えられないのですが、人にしかできない創造性の高いものをミッションとして入れていく動きは出てきています。自分の創造性を高めるためにAIをどう使うかに着目してもらうために、創造性の表現の一つとして「事業開発」があります。そこで、社内のAIをどのように使ったらどのような事業を生み出せるのかといったコンテストを行うことも考えています。
広がるAI活用、1100を超える自分用エージェントが
--AI活用のためのプラットフォームなどテクノロジー側の環境、社員の反応はいかがでしょうか? やり方を変えるのは簡単なことではありませんが、AIの浸透で何か課題を感じていますか?--
山本氏: 「∞AI Chat」など、全社員が最新の技術に触ることができる環境を展開しています。現段階で活用が十分かというとまだですが、年内にはその段階に持っていけると見ています。また、G検定も推進しており、電通デジタルだけで年内に合格者1000人を目指しているところです。半数近いメンバーがアルゴリズムなど深いレベルで理解した状態にしていきたいですね。
取り組みとしては、全社的な教育コンテンツの一部としてAIのコンテンツを用意していますし、各部門でプロンプトの大会が行われています。
嬉しいことに、公開したプラットフォームで自分用エージェントを作ることができる機能があるのですが、約2600人の社員のうち自分用エージェントはすでに1100以上できています。広告表現チェック、メール作成などシンプルなものですが、活用が進んでいると実感しています。
若い人がAIを使うようになり、経営者層も危機感を持って使っています。入り口は違えど、「作業が楽になった」と言いながら使う人たちが増えてくる。そうなると、その間の人たちが“自分たちも使わなければ”、さらには“使わないと損”という雰囲気が醸成されてきています。これは、1990年代にインターネットを使わないと仕事にならなかったのと同じと言えます。こうやって、AIを使うことが当たり前になっていく状態に近づいていくと見ています。
AI Native Twinが進める5つの取り組み
--今後の展望をお聞かせください--
山本氏: AI Native Twinでは、以下の5つの取り組みを進めていきます。
第一に、広告領域でのAI活用の民主化を進めます。既に成果が出ている分野ですが、より多くの人が使いやすい形にしていきます。管理画面を開く手間を省き、SlackやTeamsなどの対話AIから直接操作できるようにします。「この広告をどう思う?」「ここを直したらどうか」といった対話形式で、デザインの提案まで受けられるイメージです。高度なクリエイティブワークはプロのクリエイターに任せますが、軽微な修正はAIで完結できる環境を目指します。
第二に、対話型AIの業界特化型の展開を進めます。対話型AIは検証期間が必要ですが、基本的な対話機能については十分な実績を積みました。今後は、ECなど特定の業界に特化したカスタマイズと、その過程で得られるデータの活用方法を検討していきます。
第三に、全社横断的なデータ活用基盤を構築します。チャットで得られたデータからペルソナを作成し、それを広告制作に生かすといった連携を可能にします。データ分析の敷居を下げるため、「こういう分析がしたい」とSlackやTeamsで話しかけるだけで、リスティング広告のキーワードやタイトル、説明文の提案が受けられる、というような世界です。ユーザーはマーケティングの本質的な部分に集中し、分析作業自体を意識せずに済む環境を作ります。
第四に、これらの取り組みをグローバルに展開します。ユーザーインタフェースは対話形式を重視し、母国語で自然に操作できるようにします。裏側では他国で開発されたツールが動いていても、意識せずに利用できる環境を目指します。まずはAPAC地域での展開を進め、特にインド市場に注力します。APACの主要国でR&Dチームを構築し、各地域での開発を促進します。
平行して、電通デジタルの強みである広告とCXの統合的な提供を生かし、グループ全体でAIを活用できる構造を作ります。マークルなどのCM会社や、iProspect(アイプロスペクト)などの広告会社との連携を、グローバル規模で実現していきます。
第五に、これら全ての基盤となる教育とガバナンスの体制を整備します。
これら5つの取り組みを通じて、AI Native Twinの実現を目指します。

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