どこでもサイエンス 第279回 宇宙の最も遠く

2024年3月6日(水)6時55分 マイナビニュース

先日、史上最大の宇宙望遠鏡「ジェームズ・ウェッブ」から「宇宙の最も遠くの銀河GN-z11の詳細データをとったどー」というリリースが出ました。この銀河の見かけの距離は134億光年で、宇宙誕生が138億年前で「それ以前の時間は存在しない」ので、もうほとんど限界まで遠いところを見ていることになります。
しかしほんの100年前は、宇宙の最も遠くは、たったの30万光年だったのです。そして、さらに200年前になると、太陽系の外の天体の距離は「わからんが遠い」だったのです。今回は、宇宙の最も遠くな話を、ごくかいつまんでお話いたしますね。
2024年3月4日現在、人類が見るのに成功した最も遠い天体の候補は日本の研究者である播金優一さんや井上昭雄さんらが発見した「HD1」です。見かけの距離は135億光年。宇宙の膨張を加味して推定される距離は334億光年です。宇宙が誕生したのは138億年前とほぼ確定しておりますので、135億光年彼方の天体というのは、観測できる宇宙のギリギリ端っこまで見えているということになります。
もちろん、宇宙はもっと先まで広がっているはずなんですが、光が届くのに宇宙の年齢をこえるので、見えようがないのです。たとえるなら、あるイベントが開催の1時間前に呼びかけて、いまイベント会場に確認できるのは、1時間以内に会場にこられる人だけというのと同じです。これはネットでも同じで、例えば木星だと電波が届くに40分かかるので、情報を伝達して木星探検隊がいたとして、すぐイイネをしても伝わるのは往復80分後、1時間には間にあわないですね。まあ限りがあるわけです。
HD1について、井上さんらは「まあ、ほぼほぼ間違いないんだけど、難しい観測をしているので、絶対とまでは言えないんだけどね」とリリースで書いています。真摯な科学者でございますな。
さて、冒頭でジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測したGN-z11は、HD1発見の前は宇宙で最も遠くにある天体とされていました。これほど遠いと、もちろん天体はすごく暗く、また、恒星が発するメインの電磁波である可視光線や紫外線ですら宇宙膨張で波長が延び、波長が長い赤外線でないと観測できなくなりますので「巨大な望遠鏡で暗い天体をとらえられ、さらに赤外線で観測できる望遠鏡」であるジェームズ・ウェッブ望遠鏡の出番となるわけでございます。もちろん、赤外線よりもっと波長が長いマイクロ波や電波を使った研究もできるのですが、鮮明な画像を撮影するには、ジェームズ・ウェッブが最強なんでございますな。
さて、そんなわけで、宇宙で最も遠くを見られるようになった昨今でございますが、こうなったのは、巨大望遠鏡の建設とイメージセンサーの進歩、コンピュータを使った画像解析、なによりハッブル宇宙望遠鏡など、人工衛星に大型の観測機器を搭載できるなどの技術が進展したここ30年のことなのでございます。ほぼ平成以降ですね。国際的には元号関係ないけど。
では昭和、つまり1989年以前はどうだったのというと、当時の理科年表には0051-279というクエーサーが赤方偏移最大(z=4.43)と書かれています。ちなみに上のGN-z11はそのままz=11の天体なのですが、これは単純に2倍ではなく、宇宙の膨張速度の見積によって変わる(そして1989年当時はいまほどよくわかっていなかった)のですが、今の見積だと123億光年になります。ただ、これは電波をとらえたというレベルであって、どんな形をしているどんな天体かは、当時は観測不能だったのですね。あ、なお、こちらで、いくつかの仮定のもとzから光年へ換算できます。「OPEN」「FLAT」「GENERAL」と選べますが、GENERALで計算するのが一般的でございますな。
ところでこのクエーサーですが、1960年ごろに電波で宇宙を観測するようになって発見された天体です。電波でやたら明るく見えるという天体で、今では銀河の中心で巨大ブラックホールが活動しているためにそのように見えていることがほぼ明らかになっています。つまりは、遠いけれど電波ではよく見えるという天体ですね。最初に発見されたクエーサーは「3C48」と「3C273」という天体ですがこれは50億光年もの彼方にあることがわかりました。ちなみに3C273は、おとめ座にあって最も近くにあるクエーサーであり、明るさが13等なので、以前に紹介したeVscopeなどでも撮影が可能です。それからより遠くにあるクエーサーが発見されて、1989年には120億光年まで遠くなったのですな。
その前では、写真を撮影して、銀河の中の特定の種類の変光星の明るさから距離を推定していました。これによって1931年ごろにアメリカのハッブルが、アンドロメダ銀河の距離が90万光年くらいと推定をしています。ちなみに今は、いくつかの仮定が間違っていたことがわかり、250万光年とされています。いままでの話とは桁違いですが、当時は「ええっそんなに遠くに天体があるの!」ということになりました。ハッブルはその実績でノーベル賞候補になっていたのですが、受賞前に亡くなったために幻となってしまいました(ノーベル賞は原則、生きている人にしか授与されない)。
さて、アンドロメダ銀河の前は、天の川銀河のサイズが最大で1920年ごろにカーチスとシャプレーがそれぞれ、3万光年または30万光年と数字を出しています。現在はちょうど中間の12万光年ほどの直径と分かっています。これらの数字は、星団など星の集団を観測して、その明るさの分布から測定したり、恒星の運動を測定して推定したりといった方法でございました。
もっと前になると、1900年ごろに、恒星までの距離がおおよそ300光年くらいまで測定できるようになっていましたが。この距離の測定は1838年にベッセルがはくちょう座61番星で成功させ、それは10光年程度でございました。これは身近な測量でもつかわれてきた三角視差を利用した方法です。人間の目は距離を見積もるのに立体視からやっていますが、原理は同じでございます。
それ以前は、太陽系の中の天体、天王星の距離(海王星の発見は1845年)までだったのでございます。これは光のスピードで2時間程度ですね。
ということで、いま、人類は宇宙のとても遠くをちゃんとわかるようになった、希有な時代に生きていることを、リリースから感じた東明でございました。
東明六郎 しののめろくろう 科学系キュレーター。 あっちの話題と、こっちの情報をくっつけて、おもしろくする業界の人。天文、宇宙系を主なフィールドとする。天文ニュースがあると、突然忙しくなり、生き生きする。年齢不詳で、アイドルのコンサートにも行くミーハーだが、まさかのあんな科学者とも知り合い。安く買える新書を愛し、一度本や資料を読むと、どこに何が書いてあったか覚えるのが特技。だが、細かい内容はその場で忘れる。 この著者の記事一覧はこちら

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