スペースワンの「カイロス」ロケット見学ガイド - 電車で見に行けるロケット打ち上げ!

2024年3月18日(月)18時59分 マイナビニュース


ロケットの打ち上げというと、日本では鹿児島県の種子島を思い浮かべる人が多いのではないだろうか。そのほか、同じく鹿児島県の内之浦や、北海道の大樹町でも打ち上げが行われているが、いずれにしても本州からは遠く、飛行機を使ったりするので、旅費が結構な額になる。行きたくてもなかなか行けない、という人が多いかもしれない。
しかし、本州の真ん中あたりに、新たな発射場が誕生したのをご存じだろうか。それは、和歌山県串本町の「スペースポート紀伊」である。民間の宇宙企業・スペースワンが開発した「カイロス」ロケットの専用発射場として建設されたもので、2024年3月13日にはここで、初号機の打ち上げが行われた。
既報の通り、初号機の打ち上げは残念ながら失敗に終わってしまったものの、同社は原因究明と対策が完了し次第、2号機の打ち上げを目指すとしている。筆者は今回、現地で初号機の打ち上げを取材してきたので、本稿では、見学方法などをまとめてみたい。次回以降、見学に行くときの参考にして欲しい。
どうやって行ける?
まずは位置関係を確認しておこう。串本町は、紀伊半島の南端にある。南紀エリアには通常、陸路であれば、名古屋方面からの東回りルート、大阪方面からの西回りルートで行くことになる。前述の既存3カ所の発射場に比べると、大都市圏からの距離が近いのは特筆すべき点だろう。
そのほか、高速バスや飛行機も利用できる。高速バスは、池袋から勝浦温泉へ約11時間。飛行機は、羽田空港から約70分で南紀白浜空港に到着する。
筆者は今回、紀伊勝浦駅そばの民宿に泊まったのだが、東京からは新幹線のぞみで名古屋まで約1時間40分、そこから特急南紀に乗り換えて約4時間で到着。名古屋からの時間がちょっと長いが、それでも飛行機に乗らずに行けるというのは、手軽で良い。打ち上げを見に行くのに飛行機に乗らないというのは、ちょっと不思議な感じがした。
ところで特急南紀は、2023年7月より、新型車両「HC85」系が営業運転を開始した。このHC85系では、新たにハイブリッド方式を導入。通常はエンジンのみで走行するが、たまにバッテリアシストに切り替わり、その状況が随時、車内前方のディスプレイに表示されていたのはちょっと面白かった。
公式の見学場は、射点を挟んで反対側の2カ所に用意されている。南西側が田原海水浴場(串本町)、北東側が旧浦神小学校(那智勝浦町)で、どちらも射点からの距離は1.7km程度と、種子島などと比べると、かなり近くで見られるのが魅力。ただその反面、射点との間には山があって、射点に立つロケットが直接見えないのは残念な点だ。
見学場は有料で、事前購入が必要。チケットが無いと、行っても入場できないので注意して欲しい。チケットは、カイロスロケットの打ち上げ応援サイトで購入が可能だ。今回は、打ち上げの1カ月半前の1月29日に販売が開始。両会場それぞれ2,500枚のチケットが、わずか2日で完売になったそうなので、発売時期には注意しよう。
ロケットは基本的に、あまり人がいないところで打ち上げるため、公共の交通機関では行きにくく、現地でレンタカーを借りるのが一般的だ。しかし、カイロスの見学場の大きな特徴は、駅から近いこと。どちらも歩いてわずか数分の距離なので、運転免許を持っていない人でも、困ることは無い。
一方、自動車で行く人には、パーク&ライド付きのチケットが用意されている。これは、指定された駐車場まで自動車で行って、そこからバスに乗り換えて見学場へ行くという方式。見学場へのアクセスは国道42号しかなく、各自が自動車で向かえば大渋滞の発生は必至。パーク&ライドは、それを回避するための対策だ。
筆者注:見学場付近は前後1kmが駐停車禁止、そこからさらに2kmは駐車禁止になっており、自動車で向かっても、近くで見る場所はないことに注意
料金は、入場チケットのみの場合が3,000円。パーク&ライドを利用するときは、バス代が追加されて5,000円となる。このどちらで行くかは、購入時に選ぶ必要がある。筆者は今回、電車で打ち上げを見に行くという体験がどうしてもやってみたかったので、入場チケットのみの方を選択した。

いざ、見学場へ!
電車で見に行くことにした筆者であるが、不安だったのは、その肝心の電車に乗れるかどうか、ということ。JRきのくに線はローカル線なので、1編成が2両しかない。紀伊勝浦駅は始発駅ではないので、ホームに早く行って待っていたとしても、車輌が満員でギュウギュウの状態だったら、乗れるとは限らない。
しかも、11時台の打ち上げに間に合うためには、7:16、9:09(臨時)、10:05のどれかに乗らないといけない。臨時便を含めて3本しかなく、後ろになるほど混むことを考えると、一番最初の7:16にワンチャン賭けるしかない。
そして迎えた打ち上げの当日(3月9日)。とりあえず乗れなかったときのバックアッププランをいくつか考えつつ、30分前に駅に到着。ドキドキしながら待っていたが、到着した電車の車内は、ちょっと混んでいる程度。駅で並んでいた20人くらいは、全員無事に乗ることができた。
車窓から見える南紀の綺麗な風景を楽しみつつ、電車は15分ほどで紀伊浦神駅に到着。ここは無人駅だが、車内に改札の端末があるので、スマホのタッチ決済が利用できた。
駅から旧浦神小学校までは数100mしかなく、歩き出したと思ったらすぐ到着。普段、種子島での打ち上げ取材に慣れている身からすると、電車に乗って、駅から歩いてすぐ見学場に行けるというのは、なんだかとても斬新な体験だった。
ただ、今回は「電車で行く」という体験をするためにこの方法を選んだのだが、満員で乗れなかったときのリスクを考えると、ちょっと不安がある。それに、電車には帰りが大混雑になるという問題もある。やはり、確実に乗れるパーク&ライドの方を、筆者としてはオススメしたいと思う。
打ち上げを待つ!
早く着いたので打ち上げまではまだ3時間以上あったが、待ち時間中の買い物なども、打ち上げ見学の楽しみの1つだ。会場のグラウンドには出店がたくさんあり、カイロスの限定フィギュア、地元の銘菓や特産品などが売られていたほか、郵便局の出店では、記念消印のサービスも行われていた。
カイロスの射点は、海岸近くの谷筋にあって、周囲に直接見える場所は残念ながら無いのだが、グラウンドの前方には、大型スクリーンが設置されていて、そこに中継の映像が流れるようになっていた。打ち上げ前は中継でロケットを見て、点火して上昇を始めたら、すぐ後ろの山から、ロケットが飛び出すはずだ。
ただ、気をつけたいのは、射点が見えている場合に比べ、見えていない場合は、撮影がやや難しいということ。ロケットがどこから飛び出すか予測してカメラを構えるしかないので、ズームを狙いすぎると、枠から外してしまう恐れがある。ややワイド気味にした方が無難だろう。
しかも、カイロスの打ち上げは今回が初めてのため、どこから飛び出てくるのか、正確な位置は誰にも分からない。そこで、筆者は事前に、VRChat内に周辺の地形を入れて、打ち上げがどこからどう見えるのか再現を試み、事前に確認しておいた。その「答え合わせ」も、今回の取材の目的の1つである。
着いたときにはまだガラガラだったグラウンドも、11時1分12秒の打ち上げ時刻が近づくと、満員の状態に。しかし、会場でカウントダウンが始まり、ゼロになっても、ロケットは上がらず。直後に、11時17分12秒への変更がアナウンスされると、固唾を呑んで見守っていた観客からは笑いが起きた。
そして2回目のカウントダウンが始まり、今度こそ打ち上がるかと思われたが、今回も点火せず、そのまま延期が発表された。ロケットの打ち上げには延期が付きもの。ただ、筆者などは慣れているので良いのだが、今回は土曜の打ち上げということで、大勢の子供達が見に来ていて、ちょっと可哀想だった。

2回目の打ち上げ挑戦日、今度は自転車で行く!
次の打ち上げ日については「3月13日以降」と発表されたので、筆者は一旦、翌日に帰宅。4日間くらいの延期なら、種子島なら居残るところなのだが、比較的フットワーク軽く戻ることができるのも、カイロスの打ち上げ見学の良いところかもしれない。
そして再び迎えた打ち上げ当日。前回は計画通り電車で行ったので、せっかくなら別の方法も試そうと思い、今度は自転車で行くことにした。紀伊勝浦駅前の観光案内所では、電動アシスト自転車のレンタルが行われている(事前予約が可能)。また輪行できるようなら、自分の自転車を持ってきても良いだろう。
ちなみに筆者は、泊まっている民宿のご厚意により、電動アシスト自転車を借りることができた。紀伊勝浦駅から見学場までは、国道42号で12kmほど。海岸沿いの道でアップダウンが多く、50過ぎのおっさんには厳しいのだが、電動アシスト付きなので楽々である(それでもまあまあ疲れた)。
道中には、何カ所かトンネルがあるが、最後の1つ以外には迂回路があったので、そちらを通った。やや遠回りになってしまうものの、高い場所からの眺めも楽しめるので、時間と体力に余裕があればオススメだ。
道中の景色が素晴らしく、ちょくちょく撮影で止まったので少し余計に時間がかかったが、1時間ちょっとで見学場に到着。見学場には、自転車やバイク用の駐輪場があるので、そちらに寄ってから、再び見学場へ入った。
今回は平日なので、前回に比べると、やはり観客は少ない。ちなみに前回は気がつかなかったのだが、この会場では、港の方でも見ることができるとのこと。イベント感は無くなってしまうものの、グラウンドよりも200mほど射点に近いので、打ち上げだけを楽しみたいのであれば、こちらが良いかもしれない。
一方グラウンドの方は、前回と違い、大型スクリーンは設置されず。ステージイベントも無く、静かに打ち上げの時間を待つ。しかし、今度は定刻通りに打ち上がったものの、会場から見えたのはロケットの爆発であった。
筆者は今回、「小学校の向こうから飛び上がるロケット」という印象的なシーンを撮影することをミッションにしていたのだが、いきなり爆発してしまったので、残念ながらロケットは見えないまま。この撮影は、また次回に狙うことにしたいと思う。次はきっと成功してくれるだろう。
なおVRChat内での予測との比較も、そういうわけで今回はできなかったのだが、爆発後の煙の位置からすると、予想よりも少し左側だったかもしれない。ちなみに帰宅後、初号機のフライトも入れ、再現できるようにしておいたので、VRChatのアカウントを持っている人は試してみて欲しい。
筆者作のVRChatのワールド

打ち上げ見学を楽しもう!
ロケットの打ち上げ見学は、観光のコンテンツとして非常に魅力的である。だが今回のように延期も多く、せっかく行ったのに見ることができなかった、というケースも普通にあるだろう。しかし、打ち上げの見学には、その苦労に見合うだけの価値がある。初めて生で見たら感動するのは間違いないので、ぜひまた挑戦して欲しい。
種子島の場合などでは、筆者はよく「3日間は延期になっても大丈夫なようにスケジュールに余裕を持たせて欲しい」とアドバイスしている。筆者の経験上、3日間の延期までカバーできれば、打ち上げを見られる可能性はかなり上がるからだ(それでも空振りすることはあるのだが……)。
しかし、カイロスの打ち上げであれば、今回筆者がやったように、一度撤退してからまた来るということもやりやすい。アクセスがやや不便とはいえ、特に大阪や名古屋からは距離的に近く、打ち上げ時刻によっては日帰りも可能かもしれない。そういう点は、これまでにない大きなメリットと言える。
一方、南紀エリアには、熊野古道など、有名な観光スポットがたくさんある。今回、筆者はあまり行く時間が無かったのだが、打ち上げが延期になったとしても、遊びに行く先には困らないだろう。
そして打ち上げ見学において、筆者がアドバイスするもう1つのことは、「肉眼で見た方が良い」ということだ。せっかく現場まで行ったのに、カメラのファインダー越しでしか見ないというのはもったいない。撮影する場合には動画や連写などにしておいて、映像では決して再現できない眩しさをぜひその目で体感して欲しい。
ところで、今回は最初ということでスタンダードに公式見学場で見たのだが、ロケットは案外、遠くからでも見えるし、遠距離ならではの楽しさもある。カイロスが本当に年間何10機も打ち上がるようになれば、いろんなバリエーションで楽しむのも良いかもしれない。
じつは筆者が計画の1つとして検討したのは、電車の車内から見るということであった。カイロスは射点からわずか1kmちょっとのところを線路が通っているので、ちょうど良いタイミングで走っている便があれば、近くから見られるかもしれないと思ったのだ。
さすがにドンピシャの便は無かったものの、特急くろしお1号が串本駅に11:06着だったので、やや遠いものの、打ち上げが成功していれば、車窓から綺麗に見えたかもしれない。もちろん、打ち上げ時刻が変更になったら計画が狂うリスクはあるのだが、船や飛行機など、ちょっと変わったところから狙うのも面白そうだ。

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