Sonosのサウンドバー「Arc Ultra」は“さり気ない”最新技術が光る コンパクトなのに良い音を実現した秘密は?
2025年4月11日(金)16時35分 ITmedia PC USER
Sonos Arc Ultraはブラックとホワイトの2色展開で、直販価格は14万9800円となる。今回はホワイトの本体をレビューする
そう聞くと「シリコンバレー的なテクノロジー企業」かと思うかもしれない。確かに、Sonosはシリコンバレーを擁する米カリフォルニア州で生まれた企業だが、ハリウッドにほど近いサンタバーバラで生まれた企業だ。音楽や映画といった文化に近い場所で、ユニークなオーディオ専業メーカーとして歩んできた。
そんな同社が1月、最新のフラグシップサウンドバー「Sonos Arc Ultra」を発売した。ユーザーフレンドリーで、オーディオを手軽かつ高品質に楽しむためのさまざまな仕掛けと、将来的にワイヤレスでシステムを拡張できる技術的なバックボーンを備えている。直販価格は14万9800円だ。
この記事では、オーディオ製品としてのArc Ultraについてレポートしつつ、その背景の技術やシステムとしての発展性について書き進めたい。
●音質改善の核心「Sound Motion」とは?
Arc Ultraの音質面における核心部分は「Sound Motion」というトランスデューサー技術にある。この技術はSonosが2022年に買収したオランダMayhtの特徴的な技術を応用したもので、2つの向かい合ったダイアフラム(振動板)をX型のリンクで結びつけ、ダイアフラムがそれぞれ逆位相で動くことで、機械的振動を抑えつつ2倍のダイアフラム面積を確保して低音の再生能力を高めるというものだ。
これまでも対向型のサブウーファー構造を取るものはいくつかあったが、Sound Motion場合極めてコンパクトなスピーカーユニットに収まっていることが特徴となる。
製品の性質上、サウンドバーの“太さ”には限界がある。実用上、そして見た目において違和感のないサイズに収めつつ、低域再生の能力と質を高めるべく採用されたのがSound Motionで、先代の「Sonos Arc」と比較して低音出力性能が最大2倍に向上したという。
実際、ソニーやJBL、ゼンハイザーの上位モデルと比較視聴してみたが、サブウーファーを用いない、サウンドバー単体としては低音再生能力は圧倒的だった。比較視聴しなくても違いが分かるレベルだ。対向型ダイアフラムのため不要振動が出ず、音量を高くしても設置部付近のビビり音などが出ず、ゆがみ感も少ない。
アクション映画の爆発シーンやSF映画での宇宙船などのサウンドエフェクトでは、音場を支配する効果的な低音を出してくれるので、映像シーンに見合った迫力を感じられる。この技術は単により大きな低音を出すためのものではなく、場面に合った的確な低音を引き出してくれる。
この能力は、音楽の再生でも効果を発揮する。ベース音の輪郭が明瞭に聞こえ、低音から高音まで同時に発生するキックドラムも一体感のある音色で鳴ってくれる。いわゆる「低域の解像度」が十分に高く、音楽用としても十分に通用する。
●コンピュテーショナルオーディオによる高度な「サウンドレンダリング」
Sound Motionは、ウーファーユニットにおける機構設計を工夫している。ある意味で、スピーカーとしては“王道の”技術革新だ。一方で、Sonosは「コンピュテーショナルオーディオ」による複雑な信号処理と、ドライバーユニットの指向特性と精密な配置を組み合わせた“音作り”も得意としている。
Arc Ultraの場合、内部に14基のドライバーユニットが精密に配置されている。物理的には5.1.4ch相当分のユニットしか備えていないのだが、ユニットごとに方向と指向性を操り、それぞれに信号処理を施すことで9.1.4ch相当のサラウンドを再現している。
天井方向への「アップファイアリングスピーカー」、側方への「サイドファイアリングスピーカー」をたくみに連携させ、天井と壁からの反射を生み出す。これと正面に向けられたユニットの組み合わせで、包み込むような音響体験を創出する。
またセンターチャンネルのドライバーは、広角のウェーブガイドが設けられており、幅広い視聴位置から明瞭なセリフを中央に定位させる。この際、アップファイアリングスピーカーと組み合わせ、映像の中で声が聞こえるようにしつつ、ダイアログエンハンサーで音声の明瞭度を向上させる信号処理も選べる。
騒がしいアクションシーンの中でも、明瞭にセリフが聞き取れるバランスの良いチューニングは、単に派手なサラウンド空間を演出するだけではなく、映像作品を楽しむためのキモをSonosが理解していることを意味している。
●空間オーディオの効果を高める「Trueplay」技術
こうしたコンピュテーショナル・オーディオ技術の巧みな応用を支えているのが、Sonos独自の音場補正システム「Trueplay」だ。
Trueplayはサウンドバー(スピーカー)を設置した室内の音響特性を分析し、最適なサウンドバランスを導き出す仕組みとなる。大きく分けると「クイックチューニング」と「詳細なチューニング」の2つがあり、クイックチューニングでは本体内蔵のマイクで自らが出す音を拾いながらバランスを取る。
名前からも分かる通り、音響効果をより高められるのは詳細なチューニングだ。この方法では、「Sonosアプリ」を介してスマートフォンの内蔵マイクを用いて想定視聴位置から部屋の隅々まで、室内のあらゆるスポットの音響特性を計測し、それをクラウド上で分析することで最適な補正を得る。以前はiPhoneアプリ限定の機能だったが、現在はAndroidスマホでも利用可能だ。
Trueplay自体は、従来のSonos製スピーカーにも搭載されてきたものだが、継続的に改良が施されている。特に本機(Arc Ultra)では「Dolby Atmos」の本格的な空間オーディオを“再現”する際に大きな効果を発揮する。また後述するように、サブウーファーやサラウンドスピーカーを追加する際にも、実に簡素な手法でありながらも的確な補正効果を出してくれる。
Arc Ultraを単体で利用する場合、人間の聴覚心理を応用した音場再現アルゴリズムで物理的には5.1.2チャンネル相当のドライバー構成から9.1.4チャンネル相当の音響体験を生み出す。単なるバーチャルサラウンド処理ではなく、仮想ドライバーを作って再現するのだが、この際の信号処理をより的確にするのだ。
●ワイヤレスで本格的なシアターシステムにアップグレード可能
Arc Ultraに限らず、Sonosの製品はワイヤレスネットワークでシステムを柔軟にアップデートできるように設計されている。Sonos Arc Ultraは単体でも優れた音場再現能力を発揮するが、「Sonos Era 100」「Sonos Era 300」といったスピーカーや、単体サブウーファー「Sonos Subシリーズ」と組み合わせて段階的にシステムを拡張できる柔軟性を備えている。
例えば、まずはArc Ultraを購入して単体で楽しみ、後に予算や環境が整ったタイミングでEra 300を2台追加することで、より本格的なDolby Atmos環境へと発展させることが可能だ。
その際、サブウーファーの「Sonos Sub 4」や「Sonos Sub mini」を加えれば、特に劇場向け映画などで多用される極低音を用いた音場エフェクトを的確に再現できるようになる。サブウーファーの使いこなしは、実は慣れたユーザーでも難しいものだが、Trueplayのおかげで簡単に、しかもワイヤレスでセットアップできる。
サウンドバーの場合、本体における低音域の再生能力限界が低いため、サブウーファーをセットとした製品、あるいはオプションとして購入することを前提とした製品が多い。その場合、メインチャンネルの低音成分もサブウーファーに依存しがちだ。その点、Arc Ultraは本体ではメインチャンネルの低音を可能な限り再現し、追加したサブウーファーで効果音の低音成分を再生する、といった役割分担が行われる。
また追加するリアスピーカーも、求める品質とコストのバランスを考慮して、Era 100かEra 300かを選べる。
筆者がシアターシステムの評価に使っている部屋では、110型スクリーンとLINN Products(スコットランドのオーディオメーカー)のスピーカーとヤマハのAVセンターを中心にした7.1.2チャンネルのシステムをリファレンスとして設置している。
価格もサイズも全く異なるため、品位の面で本格的に比較するようなものではないが、アップファイアリングスピーカーを備えるEra 300をリアスピーカーとして配置すると、音場の広さや前後上下方向への音場の広がり、バランスなどにおいて、より厳密な測定で設定したリファレンスシステムに近い体験が得られるようになる。
Era 300やSub 4まで買うと総額はかなり大きくなるが、この音を“簡単に”得られるのなら、その価値は十分にあるだろう。Arc UltraとEra 300/Sub 4を組み合わせたフルシステムの場合、ライバルはサウンドバーを主体としたシステムではなく、より本格的なソニーの「TH-A9M2」が思い浮かぶ。
●音楽配信サービスとの深い統合も魅力
Arc UltraにはeARC/ARC対応のHDMI端子を備えているため、TVやネット配信端末と接続することでサウンドを再生できる。サウンドバーなので、これは当たり前といえば当たり前かもしれない。
そして本製品は音楽用のワイヤレススピーカーとしての機能も有している。というよりも、元々Sonosのスピーカーはストリーミング(音楽配信)サービスとの深い統合が魅力なので、その特徴を引き継いでいると考えるの方が正しい。
音楽を再生する際は、Bluetooth接続とWi-Fi接続による方法が用意されている。ものがある。Wi-Fi接続時はAppleの「AirPlay 2」の他、Sonosアプリの操作によって本体がストリーミングサービスに直接アクセスして再生する方法も選べる。いずれにしてもSonosアプリでシームレスに利用可能だ。
対応するストリーミングサービスは幅広く、「Apple Music」「Spotify」「Amazon Music」はもちろん、海外のサービスを中心にインターネットラジオにも対応している。接続できるサービスが「空間オーディオ」「ハイレゾ音源」に対応する場合も、そのまま再生可能だ。もちろん、複数サービスを同時に登録しておき、使い分けることもできる。
Sonosアプリでは、複数のサービス、あるいは自宅内のファイルサーバ上の音楽を串刺し検索して再生する機能もある。「Amazon Alexa」やSonos独自の音声アシスタント「Sonos Voice Control」との連携によるハンズフリー操作も可能だ。
元々、Arc Ultraはシアター向けに音場設計が行われているため、空間オーディオで配信される音楽の再生体験は良好だ。音作りの面でも、音楽配信サービスを再生する際の音作りを変えているのか、より心地よく音楽を聴かせるようにチューニングされている。
また通常のステレオ音源を「空間オーディオ化」する設定も用意されており、その場合はサラウンド用スピーカーを接続していれば、部屋の中を音楽で満たすような信号処理が入る。
●PC USER読者にこそお勧めしたいArc Ultra
さてサウンドバーという製品は、本質的にはPCと組み合わせて使うものではない。最近ではeARC非対応のHDMI出力をeARC対応端子に分離する装置もあるため、やろうと思えばPCなどを本機につなぐ方法はあるが(MacならAirPlay 2経由での接続も可能)が、本機はいわゆる「ニアフィールド」向けに設計されているわけでもない。
PCと組み合わせて使うなら、Era 100(直販価格3万2800円)あるいは「Sonos Five」(直販価格7万9800円)を2台用いたステレオ構成にして、ディスプレイの両脇に置くほうがいいだろう。Sonos Fiveなら、アナログ音声入力もある。
しかし、Sonosのシステムには自宅内のサウンドシステムをネットワークで統合できること、拡張できる柔軟なシステム、そしてネット上のストリーミングサービスとの相性の良さが大きなメリットだ。コンピュテーショナルオーディオによる取り組みもユニークで、Hi-Fi的な純度の高い音を求めるのでなければ、投資に対して得られる体験レベルは高い。
Sonos Arc Ultraがリビングにあれば、書斎に設置した別のSonosスピーカーと連携も容易で、いずれ買い増しなどで余剰スピーカーが出た場合には、スピーカーをサラウンド用に使うことで拡張してもいい。
構成には柔軟性があるので、例えばポータブルスピーカー「Sonos Roam 2」(直販価格2万5800円)をサラウンド用に2台用意して、必要な時に後ろにおいて使うなんてことも可能だ。
単体で14万9800円というArc Ultraの価格設定は、単体のサウンドバーとしては高価格帯だが、音質だけを考えても競合に対して十分に上に立つパフォーマンスを備える。優れたウーファーの再生能力と、Trueplayによるチューニングで、15万円前後のシステムでは頭一つ抜けた体験を得られる。
加えて、Sonosが最近発表したワイヤレスヘッドフォン「Sonos Ace」との連携による新たなユーザー体験の提案も興味深い。
Arc Ultraで映画視聴中にボタン1つでヘッドフォン出力に切り替えられ、しかもAceに最適化した仮想音場処理とヘッドトラッキングで、違和感なく往復する。
背景にある技術は興味深いが、それを体験するための仕掛けは、存在をあまり意識させないところはSonos製品のメリットだ。