「Nothing Phone (3a)」の実力検証 予想外に使えたAI機能、処理能力やカメラも進化した“本気”のデバイスだ
2025年4月19日(土)11時28分 ITmedia Mobile
4月15日に発売されたNothing Phone (3a)。2aの機能を大きくアップデートしながら、価格は5万4800円に抑えた
Nothingは、OPPOが設立したOnePlusの創業メンバーの1人であるカール・ペイ氏が立ち上げたスタートアップ。当初はワイヤレスイヤフォンを手掛けていたが、2022年には初のスマホとなる「Nothing Phone(1)」を発売、初号機からいきなり日本市場への参入を果たした。その後、同社は縦にもラインアップを広げ、2024年には初のミッドレンジモデルとなる「Nothing Phone (2a)」を発売する。
Nothing Phone (2a)は、同社製品として初めておサイフケータイに対応し、話題を集めた。その後継機にあたるのが、15日に発売された「Nothing Phone (3a)」だ。同製品はQualcommのチップを採用して処理能力を底上げしただけでなく、カメラ機能を強化。さらに、AIを活用した新機能の「Essential Space」や、それをワンプッシュで呼び出せる「Essential Key」を搭載する。
初のおサイフケータイ対応だったNothing Phone (2a)に続き、Nothing Phone (3a)では、初めてキャリアの取り扱いもスタートした。パートナーに選ばれたのは、楽天モバイル。同社のショップ約100店舗で展示、販売する他、限定色のブルーも発売する。発売に先立ち、Nothing Phone (3a)を実際に試用することができた。その実力や端末から見えてきたNothingの狙いを解説していく。
●デザインテイストは2aを踏襲、側面には専用のEssential Keyも
型番が示す通り、Nothing Phone (3a)の基本的なデザインは2aを踏襲している。シリーズ全体の特徴である透明の背面パネルの内側にはLEDが搭載されており、音や着信などに合わせて光るが、これがカメラ周りに集約されている。背面全体を使ってLEDをちりばめた上位モデルとの違いといっていいだろう。一方で、背面素材は樹脂からガラスに変わっており、より硬質感が増している。
ディスプレイサイズは6.77型。2aの6.7型からわずかだが大型化しており、片手だとやや持ちづらい印象も受けた。ただし、そのトレードオフとして画面が大きく、映像の迫力は増す。一長一短あるため、どちらがいいとは一概にはいえないが、メインのスマホとしてヘビーに使いたい人には、大型のディスプレイを搭載していた方がいいだろう。
ディスプレイは最大3000ニトで、明るくて見やすい。リフレッシュレートも最大120Hzで、動きは滑らか。この価格帯のスマホとしては、操作感がいい。ソフトウェアをしっかり作り込んでいるためか、タッチ操作へのフィードバックが俊敏で、バイブのフィードバックも繊細。この価格帯のスマホだと、大味のバイブが搭載されていることもあるが、そのような心配は不要。ユーザーインタフェースにこだわるNothingの方針はしっかり反映されている。
右側面には、電源キー(サイドキー)に加え、新機能の1つであるEssential Keyが搭載されている。右側面に凸形状でまとめられているため、間違って画面を点灯させようとした際に間違って押してしまうことが多々あった点は要改善。どちらか一方をへこませるなど、触覚で区別できる工夫はほしかった。ただし、音量ボタンが左側面にあるため、ここと電源キーの押し間違えは少ない。
このEssential Keyは、カスタマイズなどには対応しておらず、現時点では新機能であるEssential Space専用のボタンになる。1回押すとすぐにスクリーンショットが記録され、メモを書くスペースが現れる。ここに何らかのメモを書くと、スクリーンショットと一緒にEssential Spaceに保存される。また、キーを長押しすると手書きのメモの代わりに録音を撮ることが可能だ。
物理キーとして独立しているため、スクリーンショットはどのスマホよりも撮りやすい。ここで取ったスクリーンショットは、Essential Spaceだけでなく、ギャラリーからも閲覧可能。Webを閲覧しているときや、残しておきたいメール、SNSの投稿などをサッと記録しておくのに便利なボタンといえる。ダブルクリックするとEssential Spaceが立ち上がり、記録した画像やメモ、音声などを確認できる。
もっとも、Essential Spaceは、これらの情報を単純に保存しておくためだけの場ではない。保存されたスクリーンショットやメモ、音声は、AIが解析し、自動で情報を整理してくれる。また、それらの情報に基づき、AIが取るべき行動をサジェストする。このような概要だけを聞くと非常に抽象的で、何ができるかが少々伝わりづらいかもしれないが、実際にEssential Spaceを使ってみると、想像していた以上に実用性の高い機能としてまとめられていることが分かる。
●ワンタッチで登録できるスケジューラーにもなるEssential Space、予想外に使えたその実力は
試しに、本誌編集長と取材相手を含むメールでインタビューの日程が記載されていた部分を表示させ、Essential Keyを押し、「取材の日程」とだけメモしてみた。このようなメール2通に加え、近く取材する予定の記者会見の概要が書かれたメールも、Essential Spaceに登録した。すると、Essential SpaceがAIで日程を読み取り、スケジューラーのように予定を順番にまとめてくれた。
予定をタップすると、記録した実際のスクリーンショットや場所などを見ることができる。また、その予定をこなすために必要であろうことが、吹き出しで提案されている。インタビューに関しては「質問リストを準備し要点を整理」というように、具体的な形で行動が促された。スクリーンショットを見る限り、特に質問をリスト化するようなやりとりはないため、AIがインタビューであることを読み取り、事前の準備としてこう判断したことがうかがえる。
こうした情報はEssential Keyを押しただけで登録されるため、メールで送られてきた予定を解釈し、時間や場所などを1つ1つカレンダーアプリに入力していくより手っ取り早い。最近のAndroidスマホでは、Geminiに任せる手もあるが、Geminiを呼び出して指示を出すよりも簡単だ。専用ボタンを搭載したゆえの利便性といえる。初物ながら、日本語メールの解釈も正確で驚かされた。ただし、音声でのメモは誤変換も多かったので、キーボードから入力するようにしたい。
ここで紹介した使い方はあくまで一例。雑誌に載っている料理の写真を撮って「明日これを食べる」といった予定や、欲しいグッズをWebで見つけて「月末までに買う」といった予定を登録してもいい。カレンダーと使い分けるよう、日々のちょっとしたToDoを記憶しておくためにも利用できそうだ。カメラ起動時にEssential Keyを押すと、スクリーンショットではなく、写真そのものが記録される。
ただし、スケジューラーとして使うには、物足りない部分もある。予定をNothing Phone (3a)からしか参照できないため、PCやタブレットなど、複数のデバイスを使っていると確認に手間がかかる。デバイス間の連携は、クラウドでデータを同期できるGoogleカレンダーやiCloudのカレンダーが得意とするところ。端末内に閉じてしまうと、使いどころも限定される。
そもそもEssential Spaceは登録制のβ版として提供されており、データ移行にすら対応していない。その一方で、今後ブラッシュアップしていけば、かなり使い勝手がよくなりそうな予感もある。NothingらしいAIの活用方法として、継続的に機能に磨きをかけていってほしい。
●処理能力が上がりカメラも進化、ついに本気を出し始めたNothing
Essential SpaceのようなAI機能は、プロセッサに「Snapdragon 7s Gen 3」を採用したことで実現したもの。他にも、Nothing Phone (3a)では、オンデバイスAIをドロワーの自動ジャンル分けや、撮影などに使用しているという。他社のAIのように文章や画像を自動で生成する派手さはないが、AIによってスマホの基本的な機能を進化させている点が面白い。「テクノロジーを再び楽しくすること」(Nothing Japan マネージングディレクター 黒住吉郎氏)を掲げているNothingらしいAIの使い方といえる。
カメラも、Nothing Phone (3a)で強化された機能の1つだ。センサーに機械学習を取り入れた他、Snapdragon 7s Gen 3を搭載したことで、ISP(Image Signal Processor)も刷新されており、8枚のRAWフレームを1枚に合成して明暗差の大きな場所でも白飛びや黒つぶれをなくす「ウルトラHDR」に対応する。仕上がりは、ウルトラHDRも効いているのか、かなりパキッとした絵になる印象。夜景にも強く、明るい写真に仕上がる。
スペック的により分かりやすいのは、2倍の望遠カメラを搭載していることだ。望遠カメラの画素数は5000万画素と高く、ピクセルビニングでピクセルピッチを拡大できるため、やや暗い場所でもキレイに撮れる。また、ピクセルビニングを解除した5000万画素から切り出すことで、劣化の少ない4倍ズームが可能。デジタルズームとの組み合わせで、最大30倍まで被写体に寄れる。
さすがに30倍まで拡大してしまうと、ぼんやりとした写真になってしまい、あまり実用的ではないが、8倍程度であれば劣化も少ない。望遠カメラを搭載することで、撮影の幅が広がった格好だ。以前のモデルから搭載されている機能ではあるが、背面のLEDを点灯させ、手元の被写体を照らすことができる機能もNothing Phoneらしい。また、あらかじめ設定したプリセットを簡単に呼び出すことができる。このUIもしゃれた仕上がりになっており、利便性とも両立している。
もちろん、背面が光って通知などを知らせる「Glyph Interface」はそのまま。着信などが分かりやすいだけでなく、タイマーにも使える。これを設定しておけば、画面を下にして置いておき、何かお知らせがあったときだけスマホを手に取ることが可能だ。進捗(しんちょく)状況が分かるアプリが、日本だとUberぐらいしかないのが残念だが、Nothing Phoneシリーズとしての個性は健在だ。
また、Nothing Phone (2a)で対応したおサイフケータイにも、引き続き対応しており、モバイルSuicaやiD、QUICPayなどを利用できて便利だ。FeliCaチップを搭載しているため、マイナンバーの「スマホ用電子証明書」に対応する要件も満たしている。現状では、デジタル庁の対応機種リストにNothing Phone (3a)の名前は挙がっていないが、先代の2aでは利用できる。検証が終了すれば、これも利用できるようになる可能性は高い。
機能のバランスがよく、独自のAI機能も面白いNothing Phone (3a)だが、128GBを5万4800円に抑えてきた点は高く評価できる。Nothing Phone (2a)までを「日本でのソフトローンチ」(黒住氏)と定義してきたNothingだが、裏を返すと、3aからが日本での“本気”といえる。楽天モバイルを通じた販売に乗り出したのも、そのためだ。グローバルで順調に規模を拡大する中、日本でも同社がより幅広いユーザーに訴求するフェーズに入りつつあることがうかがえる。
(製品協力:Nothing Japan)