携帯電話ショップの「春商戦」はもう過去? 店舗スタッフが語る2025年の春商戦

2025年4月22日(火)15時5分 ITmedia Mobile

携帯電話ショップの春商戦はどうだった?

 携帯電話市場において、最も携帯電話が売れる時期は“春”だ。なぜ春かといえば、進級や進学、就職といった新生活のタイミングで携帯電話を初めて契約したり、買い替えを行ったりする人が多いからだ。
 また3月は多くの企業では“年度末”に当たるため、年間予算やKPI(目標)達成のために、いつも以上にキャンペーンの内容が充実することも多い。通常時よりも携帯電話がお得に買えるため、新生活を迎えない人でもキャンペーンを狙ってこの時期に携帯電話を買うということは珍しくない。
 ……という話は、今までの連載でも何度か取り上げてきた。しかし、2019年10月に電気通信事業法の一部が改正されて以来、携帯電話端末の値引きに厳しい制限が設けられたため、必ずしも「春商戦のタイミングが一番安い」とは限らない状況になった。
 加えて、コロナ禍を経てキャリアがオンラインショップを強化するなど、店頭購入以外の選択肢も広がった。さらに携帯電話を初めて持つ年齢の低下も相まって、以前のように春商戦が“一番の”盛り上がる時期とは言いきれない。
 では、2025年の春商戦はどのような状況だったのか——携帯電話ショップの現役店員に話を聞いた。
●暇ではないが、忙しいとまでは行かない
 1年前(2024年)の春商戦は、2023年末に実施されたガイドライン(総務省令)の改正もあって、端末販売において大なり小なりマイナスの影響が出てしまった。
 このガイドラインは2024年12月26日に再度改正され、今度は下取りを前提とする端末購入プログラムにおける下取り額(≒残価)の設定に一定の制限が加えられた。一方で、AppleがiPhone 16シリーズの廉価モデルとして「iPhone 16e」をリリースした。拡販(販売拡大)という観点ではマイナス要素とプラス要素が“ない交ぜ”で、どうなるか読めない状況だった。
 実際はどうだったのか、店員に話を聞いてみよう。
 2024年末のガイドライン改正の影響ですが、もちろん値上がりした機種も少なくなかったものの、価格設定の見直しによってむしろ安くなった機種もありました。「月々1円」は無理でも、「月々数百円」であれば、毎月の負担が大きく変わるわけでもありません。そういう観点では思ったほどの影響はなかったというのが正直なところです。 ガイドライン改正が決まった時は「これから稼ぎ時なのに……」と大きく落ち込みもしたのですが、そもそも3月に入ってから来るようなお客さまは「(2024年)12月26日までの価格」を知らない人が多いのも手伝って、何とかなったというところでしょうか。
 発表時は「イマイチかな?」と思ったものの、iPhone 16eも出たら意外と売れました。春商戦は盛り上がったわけではないですが、iPhone 16eのおかげで「新商品が売り場を華やかにする」という効果は得られて、集客にも貢献してくれました。 そういう意味では「売りやすくなった」ような気はします。
 iPhone 16eの反響については前回取り上げているが、爆発的なヒットとまでは行かないまでも、現場に立つ店員目線では“追い風”にはなったようだ。
 そしてガイドライン改正の影響も少なく、2019年末の時のように一気に買い控えムードになったりといったこともなかったそうだ。
 では、肝心の「春商戦は盛り上がったのか?」という点だが、先の回答にも一部出ているが改めて話を聞いてみよう。
 通常時と比べると、来客自体は増えました。だいたい年明けくらいから「新生活に合わせて(買い換えを)」というお客さまが増えてくるのも、例年通りでした。 極端なことをいうと、以前は2月3月とで販売台数が2倍以上違ってくることもあったんですが、ここ数年は「(3月は)いつもよりは売れている」くらいで、その点では今年も変わりありません。「休憩を取る暇もないほど忙しい」という3月は、過去なのかもしれません。
 年度末になると(棚卸しの都合で)在庫の発注ができなくなります。以前なら、そのタイミングで「売れ筋の在庫がなく、仕方なく他の機種に振り替えて買っていただく」なんてこともあったんですが、今年はそのようなこともなかったです。どの機種も在庫はあるし、品薄や品切れもありませんでした。もっといえば、「キャンペーンの予算が終了したので、(値引き施策を適用できなくて)ごめんなさい」みたいなこともなかったです。
 今回はキャリアショップだけでなく、家電量販店の携帯電話コーナーに勤務している店員からも話を聞いている。また、キャリアも複数にまたがる。
 「どこかは景気が良くて、どこかはへこんでいる」ということもなく、どのキャリアのどの販路でも、出てくる話はほぼ同じだった。総じて「いつもよりは売れたけど、昔のような爆発力はない」といった感じだ。
 春商戦は最大の商戦期——もはや過去の話なのかもしれない。
●なぜ春商戦は盛り上がらなかった?
 では、なぜ春商戦は盛り上がりに欠けたのだろうか。店員の考えを聞いてみよう。
 (端末が)全く売れなかったわけではないので、「売れなかった理由」と言われてもちょっと難しいような気がします。ただ、総じて「今はスマートフォンを買うタイミングではない」と考えているお客さまが多かったように感じました。
 今年(2025年)はPCの案内を手伝ったり、それに併せてインターネット回線の案内を行うことが多かったです。これは、うちの店だけじゃないと思います。 そういう場合も『スマホも買い替えちゃいましょう!」って提案はするんですけど、PCで約20万円、スマホにも10万円みたいな支出は、いくら分割払いでも厳しいと言われたことが何度もありました。
 物価高の時代ということもあって、やはりお客さまは「安く安く」の考えになっている感じはします。最新機種では、(事実上の)レンタルとはいえ、支払いが増える事実に変わりはないですし。 春商戦の時期というのは、スマホだけでなく他に“入り用”な時期でもあります。今使っているスマホに不満がないなら「1円でも節約したい」みたいなお客さまが多かったのかなと。
 おおむね2〜3年前の機種を使っているお客さまは買い替え時を迎えていると思って、機種変更の案内をしています。しかし、実は買ったのは1〜2年前だと言われることも多かったです。 考えて見ると、その機種はここ1〜2年で「月々1円」キャンペーンでかなりの台数を売ったものでした。今買い替えたとしても分割払いが残っているわけで、そうなると「今買い替えるのは難しい」と言われることにも納得はできます。
 1円「レンタル」の仕組みは、利益の先売りというか(端末が)売れなくなったからどうにか売るための秘策だったんですよ。2年契約のような回線契約における縛りはなくなったものの、お客さまに負担をほとんどかけないとはいえ、分割払い契約と購入プログラムによって「2年で縛る」ようになったので。 昔とは違う意味での「実質」「縛り」は残っていることがいいか悪いかはさておいて、それを超えるような“何か”が今は用意できません。現状を覆すような販売施策がないと売れないですよね。」
 店員の話をまとめると、「物価高でスマホの購入優先順位が下がっている」「安く売るための施策が、かえって将来の販売を阻害している」といった状況が伺い知ることができる。
 また、以下のような話もあった。
 やっぱり、お客さまからは「学割らしい学割がない」という指摘は受けますよね。「上の子のときは学割があったけど、今はそういうのないんだね」なんて感じで。 キャリア(通信事業者)にもよりますが、以前の学割に相当する割安感のある料金プランは「ネット申込のみ」なんてこともありますし、お客さまもそういうプランを認知しているにも関わらず「今なら店舗でも学割の安いプランがあるのでは?」と期待して来店するケースもあります。 その期待に応えられないとなると、お客さまも「じゃあいいや」となってしまいます。
 ITmedia Mobileの記事を追いかけると分かると思うが、学生向けキャンペーンの露出は、年々弱くなっている。筆者も去年(2024年)、中学生になった娘にスマホを購入したのだが、春商戦ではない時期に「身分や年齢の条件を満たせば“いつでも”加入できるプラン」で新規契約した。春商戦ではない時期でも、お得なプランはあるのだ。
 総括すると、「春商戦期にお客さまが期待するもの」が欠けていることが、春商戦の盛り上がりが欠けるという結果につながった——これが、2025年春の販売現場の実情といったところだろう。
●携帯電話市場に「繁忙期」はもうない?
 今回の話は、春商戦にスポットを当てた。携帯電話ショップにおける商戦期としては「新型iPhone発売」もあるのだが、どちらの商戦期も年々盛り上がりに欠けつつある。
 スマホはもちろん、通信サービスもある意味で“成熟”している。そこに物価高や通信事業者が打ち出す施策の変化も相まって、しばらくは「繁忙期」あるいは「商戦期」は訪れないのかもしれない。

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