持ち運べる電子レンジ「WILLCOOK」誕生秘話 “発熱する布”との出会いは偶然だった

2024年4月26日(金)22時30分 マイナビニュース

バッグ内部の布が発熱し、バッグに入れた弁当や飲み物がアツアツに温められる——日本のベンチャー企業が開発した“持ち運べる電子レンジ”「WILLCOOK」(ウィルクック)が、年明けに米国で開かれた展示会「CES 2024」の「CES Innovation Awards」家電部門で最優秀賞を受賞し、大きな話題になりました。電熱線でもなくペルチェ素子でもなく薄っぺらい布が発熱する、というのはどういう仕組みなのか、どうやって不思議な布に巡り会ったのか、WILLCOOKを開発したWILLTEXの2名に開発秘話を聞きました。
発熱する布と断熱材でこれまでにない製品を作った
CES 2024で話題をさらったWILLCOOKは、2022年に応援購入サイトのMakuakeでプロジェクトが実施され、1100万円以上の金額を集めたプロダクト。応援購入を経て一般販売が始まり、現在はメーカー直販サイトや大手家電量販店などで購入できます。
WILLCOOKの最大の特徴が、繊維自体が発熱する布「EXFIBERS」を用いていること。見た目は編み目の粗い薄い布ですが、数ボルトの低電圧の電気を流すとすぐに発熱する特徴を持ちます。実際に触ってみても柔軟性があり、一見すると“ただの布”なのにもかかわらず、電気を流した途端に一気に熱くなるのには驚きました。
EXFIBERSは60度前後まで上昇しますが、バッグを密閉すれば内部は100度近くにまで達します。そのカギとなるのが、バッグの内部に敷き詰められた断熱材の存在。「熱はうまくためると発熱した以上のパワーを持ちます。一般には流通していない特別な綿を用い、熱をしっかり閉じ込めるよう設計しています」
それだけ高温になると、取り扱いを誤った際などに火事にならないか…と心配になりますが、WILLCOOKは何より“燃えない”という点を重視した設計にしているといいます。難燃性の素材を用いるだけでなく、何かトラブルがあった際は断線して電気が通らなくなり、熱の発生が止まるようにもしています。
WILLCOOKがユニークなのが、EXFIBERSとバッテリーをつなぐケーブルも布でできていること。「発熱する部分はいわば“抵抗の塊”だから熱くなるけれど、ケーブルの部分は抵抗がないので熱が発生しないんです」(木村社長)
WILLCOOKが内蔵するEXFIBERSは、銀でコーティングした化学繊維が用いられています。この繊維に7.4Vの電気を流すと通電して発熱する仕組みですが、7.4Vという電圧なので専用バッテリーが必要でした。そこで、コーティングをステンレスに変更したEXFIBERSを新たに開発し、5Vの電圧で発熱できるように改良。改良版のEXFIBERSを内蔵したトートバッグ&リュック型の最新モデル「WILLCOOK PACKABLE」は、一般的なモバイルバッテリーで駆動できるようになっています。
発熱する布との出会いは偶然だった
このように理想的な素材のEXFIBERSを開発したのは、東京都江戸川区にある三機コンシスという空調メーカー。WILLTEXと三機コンシスとの出会いは、まったくの偶然だったそうです。
WILLTEXでCTOを務める上田彩花さんが、寒さをしのぐための“発熱する服”を開発すべく素材探しに苦労している時、知り合いのヒーターメーカーの社長に相談したところ、「面白い技術を持つ会社がある」と教えてもらったのが三機コンシスでした。
「三機コンシスさんを訪れると、まさに私が理想と考える素材が目の前にあって驚きました。それまで、このような素材がないかネットなどでひたすら探していたのですが、三機コンシスはまったくヒットしませんでした。当時、三機コンシスはホームページで情報を出していなかったので、当然ながら検索に引っかからなかったんですね。偶然の出会いながら縁を感じました」
上田さんからの報告を受けた木村社長と改めて三機コンシスを訪れたところ、木村社長はEXFIBERSの完成度に衝撃を受けたといいます。「僕は実物を見て触って感動しましたね。これはいけるぞと。しかし、三機コンシスさんはEXFIBERSほどの素晴らしいものを製品化できているのに、まったく事業化できていないというんです。研究開発力や技術力はものすごいのに、実にもったいない。まさに『下町ロケット』を地で行くような会社なんです。なので、僕が会社を作って、EXFIBERSを用いた製品を作ることにしました」
有名ファッションブランドも注目する存在に
長年、繊維業界を歩んできた木村社長。コロナ禍で衣類が売れなくなったアパレル会社からの注文がなくなり、「みずから製品を作る会社でないと生き残れない」と一念発起したのもWILLTEX創業のきっかけでした。「WILLCOOKは火を使わず、CO2を排出せず、歩いているときでもベッドの上でも食べ物や飲み物が温められるのが、これまでの調理器具にはない特徴。温度は人の心を動かす」と、WILLCOOKシリーズに自信を見せます。
CESでの受賞を受けて、有名なアパレルブランドからの引き合いも急増しています。5月にフランス・パリで開かれるテクノロジーの展示会「ビバ・テクノロジー」では、ルイ・ヴィトンなどのハイブランドを手がけるLVMHから「うちのブースに出展してほしい」とオファーがあったそう。木村社長は「近い将来、ファッションに温度という付加価値が加わることになる」と期待を寄せます。
EXFIBERSを採用した製品は、個人向け製品以外にも展開します。「道路上で保守業務を担当する人が使うヒーター内蔵ウエアは“布しか装着してはいけない”という制約があります。万が一、クルマなどとぶつかった際、金属を用いたヒーターはそれらの部品が体に刺さってしまう危険性があるからです。そのような用途には、布しか使わないEXFIBERSが最適解となるんです」と、木村社長は幅広いジャンルへの展開に意気込みを見せます。
Makuakeでは、トートバッグ&リュック型の最新モデル「WILLCOOK PACKABLE」のプロジェクトが行われており、すでに2500万円超の支援を集めています。プロジェクトは4月29日までなので、ふだん使いしつつ万が一の防災用途を見込んだ備えとして、気になる人はチェックしてみてください。

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