防戦一方の情シスが攻めに転じるために必要な「6つの戦術」
2025年5月9日(金)8時0分 マイナビニュース
DXが急務と言われる今、既存のシステム改修、保守・運用といった業務に新規システムの開発が加わり、情報システム部門の業務量は増大の一途をたどっている。「(この状況を打破するために)組織マネジメントや戦略の視点で、何か考えないといけないと薄々感じているのではないか」と語るのは、アイ・ティ・アール(以下、ITR)シニア・アナリスト 水野慎也氏だ。
3月7日に開催されたTECH+セミナー「情シスの業務改革 2025 Mar. 2025年度を見据えた最後のアプデ」に登壇した水野氏は、「攻めのIT戦略を実現するための、情報システム部門強靭化計画」と題し、“攻め”の情報システム部門に転じるために必要な構造改革について、人材・予算・テクノロジーの観点から解説した。
人材・コスト不足の情報システム部門に集まる期待
DXが急務と言われる今、システム技術者の需要は高まっているが、DX推進において最も必要とされる「最新テクノロジーに精通し、企業システム全体の設計やプロジェクトのマネジメントを行える人材」は不足しているのが実情だ。
また、日本銀行が公開する「企業向けサービス価格指数」(2020年基準)の推移データによれば、ITサービスの調達コストは上昇を続けている。
「受託開発ソフトウエアもポータルサイトやサーバ運営のコストも2020年対比で10%近く上がっており、運用に関してもインターネット利用サポートのコストが2023年ごろから急に上昇していることが分かります。これはセキュリティ関連のコストが大きいという話を聞いています」(水野氏)
こうした中、ITRが実施した「IT投資動向調査2025」で「DX推進において最も重要な役割を担うべき組織」を尋ねたところ、最も多かった回答は経営企画部門やDX専任部門を押さえて「情報システム部門」(34%)だったという。その一方で、推進体制別にDX進捗度合いを見ると、IT部門が単独でDXを推進している場合は進捗度が低いことが分かった。
反面、調査結果からは「IT部門を包括したDX組織」や「IT部門と独立したDX組織」では大きく進捗している傾向が見て取れる。つまり、DXを進めていくには情報システム部門と他組織との連携が鍵になるということだ。
“守り”の業務中心になってしまった「5つの要因」
水野氏曰く、2017年、2019年、2022年の過去3回のIT投資動向調査でIT部門の役割について調査しているが、セキュリティ管理やシステム改善、障害対応といった従来型機能が主な業務領域であることは変わっていないという。
「情報システム部門に大きな期待が集まっているにもかかわらず、従来型、いわゆる“守り”の業務に終始していて十分な役割を果たせていません」(水野氏)
同氏は、こうした状況に陥った5つの要因について調査結果を紐解きながら考察していった。
1つ目は、老朽化した基幹システムへの対応が進んでいないことだ。クラウドとオンプレミスの混在によって運用業務が複雑化することで、負担増につながっているという。
2つ目はIT人員の不足である。総従業員数に占めるIT人員比率は過去5年間大きく変わることなく、7%前後で推移している。既存システムを抱え、DXの名の下に新規システムが増加している昨今でも、大幅な人員拡充は行われていないわけだ。
3つ目に挙げられたのは、情報システム部門のマインドの問題である。水野氏は「長年、既存システムの保守・運用やトラブル対応を繰り返してきたことで、情報システム部員が“攻めのIT案件”の経験を蓄積できておらず、必要なスキルも身に付いていないのではないか」と指摘する。
「既存システムの運用業務やトラブル対応に追われていたら、自由な時間は限られます。チャレンジが必要だと感じていても、そんな時間はありませんし、そもそもどうやってチャレンジすればよいのかもわからない。ないないづくしで、成長へのマインドが薄れていくのだと思います」(水野氏)
4つ目は、関係者との間で意識や役割に関するギャップがあることだ。ここで言う関係者とは、経営層、業務部門、ITベンダーである。ギャップは、それぞれの関係者と情報システム部門との間に相互理解が不足していたり、各自の役割に対する意識が希薄だったりすることで生じているという。
5つ目は、IT予算の硬直化である。この10年ほど、売上に対するIT予算比率は2.5%から2.9%で推移しており、大きな変動はない。IT予算のうち7割は既存システムの維持などに関する定常費用で、これも10年間大きな変動は見られない。新規システムの構築や大規模なリプレースといった新規投資も変化がない状態だ。
「攻めに転じたくてもお金がない。そんな実態が守りの構造になっている要因だと言えます」(水野氏)
では、どうやってこの状況を変えていけばよいのか。
情報システム部門を強靭化する「6つの戦術」
変化の激しい環境の中で企業が生き残っていくために、情報システム部門は強靭化——すなわち、テクノロジーをしなやかに活用し、強さに変えていく組織へと転換していかなければならない。それには、情報システム部門のマネジメント層だけでなく、実務担当者も当事者として向き合う必要がある。
水野氏は、「それぞれが高い意識で強靭化に取り組んでいくことが重要」だと強調した上で、強靭化に向けた6つの戦術を紹介していった。
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