大河原克行のNewsInsight 第365回 三菱電機が「現場力」を誇る生産拠点、群馬工場のエコキュート生産ラインを見てきた
2025年5月13日(火)17時29分 マイナビニュース
三菱電機は、同社群馬工場のエコキュートの生産ラインの様子を公開。給湯器事業への取り組みや、同社製品の特徴などについても説明した。
三菱電機 群馬工場長の冨永尚史氏は、「群馬工場の生産能力の増強については落ち着いているが、熱交換器やサーモジャケットタンクなどの主要部品の内製化を推進しているほか、搬送部分や外観検査の自動化を進めている。今後、給湯機事業の拡大を図るとともに、政府が掲げる日本のカーボンニュートラルの達成に向けて、さらなる拡販を図る」としたほか、「QC活動への取り組みでは、三菱電機グループ内でも高く評価されている生産拠点である。現場力には強みがある」と自信をみせた。
群馬県太田市にある三菱電機群馬工場は、静岡製作所傘下の工場に位置づけられ、同社給湯機事業の主力工場となっている。1959年に、名古屋製作所の家電工場を移転し、操業を開始。敷地面積は東京ドーム約3個分にあたる14万6133平方メートル、建物面積は6万4605平方メートル。従業員数は約750人で、約2割が外国人だという。
2005年に電気給湯機の専門工場に刷新して以降、家庭用および小型業務用のエコキュート、電気温水器の生産を行っている。
三菱電機は、1964年に日本で初めて深夜電力利用ができる電気温水器を発売して、給湯機事業に参入し、2001年にエコキュートの販売を開始。2025年4月時点で、エコキュートの累計生産台数は約260万台、ヒートポンプ式給湯機、自動風呂大容量給湯システム、個別給湯を含めた総生産台数は、2025年度中に700万台に達する見込みだという。
エコキュートは、CO2排出量が少ないヒートポンプ技術を活用した給湯機で、大気中の熱と電気エネルギーを使い、効率よくお湯を沸かすことができる。電気温水器と比較して消費電力は約3分の1で済む。同社によると、エコキュートは、LPガスの給湯機と比較して、年間12万8000円お得になり、ガス給湯機と比べて、CO2排出量は年間32%削減できるという。また、環境性能の高さとともに、政府による補助金制度も普及を後押しし、多くの関心を集めている製品だ。
国内エコキュート市場は、2022年度にピークを迎えたが、2024年度は年間64万8000台、2025年度に66万4000台の出荷が見込まれており、既築住宅での他熱源給湯機、電気温水器から買い替えによって着実な伸長が続いているという。
三菱電機 群馬工場 給湯営業統轄部長の遠藤一隆氏は、「家庭でのカーボンニュートラル実現に向けては、エネルギー消費量が少ない高効率な住宅設備の導入や太陽光発電などの再生エネルギーの活用により買電を減らす取り組みなどがある」と前置きし、「省エネ基準を達成した三菱電機のエコキュートは、1台あたり6〜17万円の政府補助金を活用できるほか、電力会社が新設した昼間時間帯の電力料金を割安にするプランに対応するために昼間に沸き上げを行う機能も用意した。今後の社会動向やユーザーニーズの変化を捉えると、エコキュートは、成長性が高い製品である。三菱電機のエコキュートには、業界初となる機能も多く、付加価値を追求することで業界をリードしていく」と述べた。
三菱電機では、「さらに高効率」、「いつでも清潔」、「災害時に備える」という3点に、同社エコキュートの特徴があるとする。
「高効率」では、最上位モデルにおいて、年間給湯保温効率で4.2を達成。2025年5月から発売する新製品は、すべてのモデルが2025年度省エネ基準を達成しており、補助金の対象になっているという。高効率の実現に向けては、4本の配管をツイスト状に巻きあげた三菱電機独自の冷媒配管により効率的な加熱をするほか、コイルを高密度に集積したモーターにより、水への加熱力を向上させた同社独自のポキポキモーター、断熱性の高い真空断熱材と、ウレタンなどを適材適所に用いて保温性能を高めたサーモジャケットタンクが貢献しているという。
「清潔」では、微小な汚れを強力に吸着するマイクロバブルの性質を生かして、洗浄剤を使わずに、風呂の配管を自動で洗浄する機能を実現。深紫外線を活用したキラリユキープにより、湯はり後の菌の増殖を抑制し、お湯のにおいやにごりも抑えることができるという。「家事を楽にすることができ、家族全員が最後まできれいなお風呂に入りたいといったニーズに対応できる」とした。
「備える」では、エコキュートのタンク部の脚部カバーを外すことがなく、取水が可能な三菱電機独自の「パカっとハンドル」を採用したことで、断水時でも最大370Lの水を、簡単に生活用水として利用できる。
さらに、そのほかの特徴として、三菱電機の家電統合アプリ「MyMU」を通じて、スマホによる遠隔操作機能を拡充。昼間余剰電力の活用強化により、再エネ活用を促進するといったことも可能にした。「家に帰ったら、すぐにお風呂に入りたいというニーズにもリモートから対応。翌日の天気予報をもとに、晴れの日は夜間の沸き上げの一部を昼間にシフトし、太陽光発電の余剰電力を活用するといった使い方も可能になる」という。
また、同社では、家庭用エコキュートにおいて、デマンドレスポンス制御を実現する新機能を搭載。2025年3月から、電力会社をはじめとするデマンドレスポンスサービス事業者に、システムの提供を開始している。
「今後は、高効率化だけでなく、デマンドレスポンスにも対応し、家庭を含めた電力システム全体において、エコキュートを重要な製品と位置づけ、社会貢献を進めていく」と語った。
○三菱電機群馬工場のエコキュート生産ラインの様子
三菱電機群馬工場のエコキュートの生産ラインの様子も公開した。
エコキュートの生産工程は、プラスチック部品の成型を行う第5工場と、タンクの生産や組立、出荷までを行う第7工場、第9工場に分かれて行われている。なお、エコキュートの室外機は静岡工場で生産している。
プラスチック部品の成型ラインでは、部品の成型から組み立てまでを一貫生産しており、このエリアは独特な臭いがするのが特徴だ。混合弁やマイクロバブルに使用される部品をはじめ、給湯機で使用される様々なプラスチック部品を成形。浴室リモコンなどの成形も行い、組立作業もすべて行っている。
プラスチック部品の組立はセル方式を採用。作業台のまわりに部品を配置し、組立とともに検査まで行う。作業員は特別な帽子を着用して、髪の毛などが混入しないように配慮している。組立が完了した部品は、本体の組立工程へと搬送されることになる。
タンクの生産は、部分ごとに生産工程が2つに分かれている。
タンクは、頭部、胴体、下部の3分割構造となっており、胴体は1枚のステンレス素材をロール曲げという工程でまるめ、溶接をして作りあげる。一方、上部と下部は形状が鏡餅に似ていることから鏡板と呼ばれており、これを胴体の上下に取り付けて、タンクを作り上げる。
胴体部分は、四角いステンレス素材をローラーに投入することで、ロール状の形状に加工。丸くなった胴体部分は機械で搬送して、溶接機に移動。作業員が手作業で胴体部分を開きながら、溶接機にセットすると、奥から手前に向けて自動的に溶接を開始し、約1分で完了する。溶接が完了すると、次の工程に移動する。
タンクの上部および下部の鏡板の生産は、四角いステンレス素材を自動で供給。加工を行いやすくするため、ワックスを薄く塗布する。プレス機で丸い形状にブランク加工し、四隅を切り落として形を整える。また、群馬工場では最大となる500トンの油圧式プレス機を用いて、ドーム上に加工。その後、鏡板を高速回転させて、フチ曲げ、フチ切り作業を行い、ロボットによって配管用の穴を自動で開けてから、マイクロバブルを使用した洗浄機で洗う。工程の最初に塗布したワックスもここで落とすことができる。洗浄機は、水切りや乾燥までの工程を行う。最後にロボットを活用したスポット溶接によって、タンクの脚となる3つの部品を取り付けて、頭部と下部を完成させる。
続いて、胴体部分と鏡板をあわせる円周溶接を行う作業を実施して、タンクの外観を完成させる。
なお、タンクは、全数を対象にした水圧検査も行う。タンクを満水にして、通常使用時の約2倍の圧力で、5分間実施する。胴体と鏡板つなぎ目には白い現像液が塗られており、水に触れると変色するため、水漏れしている場合には目視でも確認できる。検査作業は3年間研修を受けた専門スキルを持った社員が行っている。
タンクが完成したあとは、タンクのなかに残っているお湯を検知するセンサーなどを溶接。8つの工程を経て、タンク本体を組み立てる。従来は縦置きにして作業をしていたため、取り付ける部品によっては立ち上がったり、しゃがみこんだりしていたが、本体を横置きにしたことで各種部品を取り付けやすくなり、生産性は1.2倍に高まったという。また、保温性を高めることができる同社独自のサーモジャケットタンクは、発泡ポリスチレン、真空断熱材、ウレタンによるブロック状成形としているが、これもすべて内製化しているという。
配管などの取り付けとともに、リーク検査なども行い、それが終了すると、ケースの取り付け作業を行う。まずは、前側パネル以外の3面を取り付けて、前面から基板などを取り付ける最終組立工程に入る。その後、すべての生産品を対象に外観検査や構造検査を行う。製品の上側の外観検査には、天井から吊るした鏡を利用して、傷や凹みの有無を確認する。なお、10台〜40台の1ロットごとに1台を抜き取る検査を行っており、残りの完成品は、抜き取り検査の結果が出るまで待機することになるという。抜き取り検査室には浴槽が用意されており、お湯はりや、追い炊きといった機能検査も行う。一度に30製品の検査を行うことが可能だ。
外観検査が終わると、ひとつのラインに集約されて、梱包エリアに入ることになる。製品にビニール袋をかけたあと、角形タイプの製品はダンボールで梱包し、丸形タイプの製品は木枠材を使って梱包する。ダンボールによる梱包は自動化しており、機械がダンボールを持ち上げて上からかぶせて梱包していた。高い位置から手作業で梱包していたのに比べて大幅な効率化が図れているという。
その後、群馬工場内の物流センターで保管されることになる。同物流センターは、2016年に完成したもので、センター内は2段積みができるようになっており、最大で1万台のエコキュートを保管することが可能だ。
I@012.jpg,エコキュートは群馬工場の物流センターから全国に出荷されることになる。屋根の上には太陽光パネルが設置され、敷地内の他の太陽光パネルをあわせて、1740kWの発電ができる|
同工場では、実感型ショールーム「ユクリエ」も開設している。三菱電機の給湯機事業の歴史や最新技術について触れることができる場所となっている。「ユクリエ」の様子を写真で紹介しよう。