NHKの「ネット受信契約(案)」が“ダークパターン”過ぎて見過ごせない件 一度“同意”したら取り消せない、は取り消しか
2024年11月30日(土)16時38分 ITmedia NEWS
NHKは、「ご利用意向の確認」画面で「同意して利用する」ボタンを押した人は、これまでのテレビ放送でいう「テレビを設置した状態」となり、受信契約をしなければならない契約義務が発生するとしている。説明もなしに義務を負わせるなど普通はとんでもないことだが、さらにNHKの説明会に参加したAV Watchの記事によると、同意ボタンの「クリックの取り消しはできない」という主旨の発言があったという。例えば小さな子どもが誤ってボタンを押してしまったとしても契約しなければならなくなってしまう。
しかし、改正放送法第20条の3では、NHKの必須業務全てに対し「誤受信防止措置」を講じることを定めている。NHKは、視聴を目的としない者が誤ってその受信を開始することを防止するための措置を講じなければならない。
そこでNHKに「同意ボタンを押す(クリック)の取り消しをできなくする合理的な理由があれば教えてください。この措置は誤受信防止措置の設置義務に反していないのでしょうか?」と質問したところ、以下の回答があった。なお、回答中の(1)は、後で触れる受信料金発生のタイミングに関する質問と回答だ。
「(1)にお示ししたように、受信開始の確認ボタンはテレビの設置と同じ意味を持つことを十分に理解してから押していただくものと考えています。『テレビを設置した状態』になれば、ご理解いただき、ご契約をしていただくという、放送と同じ流れを想定しています。一方、そのような状態ではないのに、誤って押してしまった場合についても、無理やり契約を行うということではありません。現在検討中ですが、別途、対応することになると考えています。いずれにしましても、受信契約の対象となるサービスの受信開始の際の手続きなどは、なるべくわかりやすくお伝えしようと現段階でのイメージを作成したもので、今後も検討を続けます。放送法の規定に則り、それぞれの手続きの際に視聴者・国民の皆さまに誤解が生じることのないよう、さらに詳しい検討を進めてまいります」(全文ママ)。
一度「同意」したら取り消せない、は取り消しになったようだ。
●ボタンを押すと翌月から受信料が発生か
放送法では「NHK放送を受信できる設備を設置した者は、NHKと受信契約を結ばなければならい」と定められている。そしてNHKの放送受信規約では、テレビを設置した翌月から受信料の支払いが発生すると規定している。
仮にボタンを押したことで、テレビを設置した状況になるとすれば、契約を交わしていなくてもボタンを押した翌月から受信料が発生するという解釈もできる。1度誤ってボタンを押してしまうと、いつか受信料を割増料金(倍額)で請求されるかもしれない。記憶になくても「押していない」証明は困難だ。
NHKに「ボタンを押した瞬間(編集部注:正確には“翌月”から)から受信料は発生している、と捉えるべきなのでしょうか?」と質問したところ「受信契約の対象となるサービスであることを確認していただいたうえで、受信を開始した状態が、放送で言えばテレビを設置した状態にあたり、受信契約の対象となります」(全文ママ)という回答があった。質問には答えていない。
●解約のハードルの高さもダークパターンか
NHKは、解約方法についてもテレビのそれを踏襲しようとしているようだ。NHKの説明会に参加したPhileWebの記事内容を元に、NHKに「解約方法の『視聴できる端末を何も持っていないことを何らかの形でわかるようにしていただく』という部分の“端末”は、スマートフォンやPC、タブレットなどを含むと思ってよろしいですか?」と確認したところ、以下の回答があった。
「解約にあたっては、ご利用のインターネット接続機器が受信契約の対象でないことを確認させていただくことになると考えています。テレビを撤去して放送受信契約を解約される場合に、他のテレビがないかお尋ねしているのと同じように、世帯の中で受信契約の対象となる機器が他にないか、スマートフォンやパソコン、タブレット端末を含めてお尋ねすることになりますが、確認方法など手続きの詳細は検討中です。視聴者・国民の皆さまに分かりやすい手続きとなるよう検討を進めてまいります」(全文ママ)
●「妨害(Obstruction)」に当たる可能性
このように解約のハードルを上げて解約しにくくする行為もダークパターンの可能性がある。2022年にOECD(経済協力開発機構)が出したリポート「ダーク・コマーシャル・パターン」にまとめられている類型でいえば「妨害(Obstruction)」に当たる可能性が高い。妨害は「ある行為を諦めさせる意図で、タスクの流れやインタラクションを必要以上に困難にする」(国民生活センターの資料より)ことだ。近年はサブスクや通信サービス会社の解約方法が分かりにくいサイトデザインなども問題になった。
そもそもネットサービスにおいて各アカウントの利用状況はサービス事業者のシステムで確認できて、ユーザー宅の端末を調べる必要などない。それがもっとも早く確実で利用者の理解も得られる。なによりスマートフォンは1人1台に近いレベルで普及し、生活必需品になっている。個人的にNHKの方法論は、“スマホを人質をして契約継続を迫っている”ようにみえる。
●NHKの存在意義は?
NHKは、基本的にテレビと同じ契約スキームをネット契約に持ち込みたい考えのようだ。しかし半世紀以上前のテレビ黎明期につくられた手法を、現代のネット契約に持ち込むのは多分に無理がある。
前編の冒頭で取り上げたように、すでに2割を超える国民がテレビとはあまり縁のない生活をしている。にも関わらず、まるで視聴者を確保するためにネット上に“罠”を張ろうとしているかのようだ。
仮に今回の契約手順(案)がそのままの仕様でサービスが始まったとしたら、ダークパターン対策を進めている総務省など各省庁は面目がつぶれ、NHKの倫理観、その存在意義に疑問符を付ける国民が増えることになるだろう。