ソニー仙台FCの解散で明らかになった“実業団サッカー”の限界

FOOTBALL TRIBE2024年10月2日(水)18時0分
ソニー 写真:Getty Images

Jリーグの優勝・残留争いが佳境を迎える中、9月27日、サッカー界に衝撃的なニュースが流れた。1968年発足の“アマチュアの名門”であるソニー仙台FCの、今2024シーズン限りでのJFL(日本フットボールリーグ)退会と解散が発表されたのだ。


ソニー仙台は、プロリーグと区別するために1992年に発足し1998年にその役目を終えた旧JFL(ジャパンフットボールリーグ)に参戦し、その後に改組され1999年に発足した現在のJFLにも初年度から参戦している。


現在のJFLで初年度から活動を続けているのは、ソニー仙台の他に、静岡県浜松市と本拠地とし天皇杯では毎年のようにJクラブを撃破する強豪のHonda FC(本田技研工業フットボールクラブ)、東京都武蔵野市を本拠地とする横河武蔵野FCの、3クラブのみだ。


Honda FC同様に「Jリーグを目指さない地域密着型クラブ」を標榜し、実業団クラブながらも下部組織も有していたソニー仙台。同クラブの解散は、1つのサッカークラブの消滅だけにとどまらない影響を、地元や日本のサッカー界にもたらすことは間違いない。




サッカーボール 写真:Getty Images

実業団チームにおける働き方モデルに変化


特に、地域のサッカーコミュニティーの崩壊、育成クラブの消滅、そしてアマチュアクラブ経営の在り方という面で、ネガティブな影響は免れない。「仙台にはベガルタがあればいいじゃないか」という声もあろうが、事はそんなに単純なものではない。


解散発表前からその気配はあった。ソニーグループの電子機器製造会社がブルーレイディスクなどの記録メディア事業から撤退し、宮城県多賀城市にある工場で、約670人の従業員の4割にあたる250人程度の人員削減を行うことを発表していたのだ。


まず、「ソニー」と聞けば、デジカメやスマホ、テレビやブルーレイレコーダーなどのデバイス機器をイメージするだろうが、グループ全体の中で、現在その割合は約30%程度に過ぎない(※ソニーグループ株主向け2023年度報告書参照)。今や主力事業は「プレイステーション」に代表されるネットゲーム事業や音楽配信、映画製作および配給、銀行業、保険業にシフトしているのだ。


家電や電子機器製造事業を縮小させる中、「午前は工場で働いて、午後から練習」といった実業団チームにおける選手の働き方のモデルも根底から崩れつつある。


その傾向は、サッカーに限った話ではない。社会人野球界では、それが顕著に表れている。社会人野球の最高峰の大会は、戦前からの歴史がある「都市対抗野球大会」だが、予選に参加した企業チームは1978年に179あったものの、2021年には97にまで減少している。その間、バブル崩壊などで廃部に追い込まれたチームは枚挙に暇がない。


今回、解散するソニー仙台や、Honda FCは、こうしたチーム運営をモデルとしている。よって、ネットで多く聞かれた「時代の流れ」といった声も“むべなるかな”といえよう。


日本サッカー協会 写真:Getty Images

地域密着型クラブが抱える経営上の課題


今回のソニー仙台の解散の報は、地域密着型クラブが抱える経営上の課題も浮き彫りにした。スポンサーや経済基盤が弱いクラブにとって、安定した運営は非常に難しく、ソニーのような世界的大企業の支援を受けても長期的な存続が難しいことが明らかにされたのだ。


他のアマチュアクラブにとっても、経営基盤をどう強化するか、地域社会とどのように持続的な関係を築くかが、今後の大きな課題となる。それが不可能と分かった時点で、ソニー仙台と同じ決断を下すクラブが出てきても不思議ではない。


また、JFL全体にとって、ソニー仙台の退会はリーグレベルや魅力に影響を与えるだろう。長い歴史を持ち、2015シーズンにはJFL優勝も果たし、Jリーグ入りを目指すクラブにとって“門番”と呼ばれたクラブが解散することは、リーグにとっても悪影響しかない。


この“事件”を契機に、JFLや地域リーグ全体でのクラブ運営モデルの見直しが促される可能性もある。企業に頼ったクラブ運営だけではなく、地域コミュニティーが主体となってクラブを支えるモデルや、ファンとの協力による持続可能な運営方法の模索が進むだろう。


ソニー仙台が解散を発表する前段で、クラブチームとしての存続を模索したのかどうかは不明だが、半世紀を超える歴史にあっさりとピリオドを打った決断には、やや冷酷な印象を受ける。




ソニー仙台の解散は、日本のサッカー界にとって1つの時代の終わりを告げるものであり、同時に新たなクラブ経営の手法を模索する契機ともなり得るだろう。さらに、Jリーグ昇格を目指すクラブと、そうではない企業クラブを同一リーグで戦わせることへの疑問の声が上がる可能性もある。


地域サッカーの未来をどのように築いていくか、そして「プロとは何か」「アマはどうあるべきか」といった双方の在り方も含め、今後の日本サッカー界の重要なテーマとなるだろう。

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