なぜ長谷部誠は評価され続けるのか? ドイツで異彩を放つ39歳が語った“成長”「喜びを感じていたい」【現地発】

2024年1月3日(水)7時0分 ココカラネクスト

サッカーとともに、毎日を誰よりも謳歌する

39歳となっても現役を続ける長谷部。ブンデスリーガでのキャリアは16年目を迎えたが、いまだチームからの信頼は厚い。(C)Getty Images

長谷部誠はいまも健在だ」という話を続けて何年になるだろう。

 そろそろ引退か——と、この5年間に何度も囁かれたが、当たり前のようにフランクフルトと契約更新を重ね、当たり前のようにブンデスリーガの舞台で活躍している。いまや長谷部は世界最高峰のリーグで契約を自動延長できる権利を持つ男と言えよう。監督もコーチングスタッフも、首脳陣も、そしてチームメイトもファンもただただ称賛を送る。果たして、この凄さに相当する形容詞がこの世にあるのだろうか。

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 どれだけ褒められ、評価されても、長谷部はいつも長谷部のままだ。毎日のルーティンは変わらない。

 余裕をもって練習場につき、ケガ予防のためのストレッチを入念に行い、全身をほぐす。練習に100%で取り組むための準備に時間を割く。そして練習が終わると、必要なタイミングに応じてマッサージを受け、それが終わったらさっと帰路に就く。その所作はまさにスマートそのものだ。

 フランクフルトで鍼灸師としてマッサージや鍼灸などの治療を行い、長谷部ら選手を支えている黒川孝一氏が「長谷部さんはいつも練習を100%でして、一番楽しそうにやっている」と教えてくれたことがある。彼の言葉にあるように長谷部はサッカーとともに、毎日を誰よりも謳歌している。

 それでいてプレーに対する気持ちはいまも熱く、自己評価の基準はいまも厳しい。フライブルクとの昨シーズンの最終戦後に長谷部は「個人的にも少し波が結構あった」と反省点にあげていた。

 もっとも、長谷部はブンデスリーガ全選手の中でもパフォーマンスのムラが極めて少ない選手として評価されている選手である。昨季もチーム事情によって控え起用が続いた時でさえ、途中からピッチに立てば、普段通りのプレーを披露。数多くのドイツ・メディアから絶賛されたものだ。

 全国紙『Frankfurter Allgemeine』で65年以上もの記者歴があるハルムート・シェルツァー記者が、長谷部という選手を次のように表現してくれたことがある。

「洗練さ、視野の広さ、技術の正確さ、そしてチームメイトへの影響力。これはプレイスレスなもので、これ以上に評価できないほど素晴らしいものだ。ハセベのプレーはクラシカルなリベロようで、かつてのフランツ・ベッケンバウアーのようなプレーだ。ポジションの呼び名は変わってきても、彼がみせてくれるプレーというのはそうなんだよ。私はみんなにいつも言っている」

 22人の選手が立つピッチには、どちらのチームにも特徴があり、思惑がある。そして、それぞれの選手が瞬間ごとに駆け引きをし、相手を揺さぶろうとする。こうして様々な要因が連続的に重なり合えば、偶発的な要素も生まれる。

 だが、長谷場はすべての現象を最高峰OSでスキャンし続けているかのように次に何が起こるかを知り当てていく。推測精度と対応力が極めてハイレベルなのだ。絶妙だと思われたパスが相手FWへと渡る直前に、スッと姿を現した長谷部が華麗にボールをインターセプトをし、テレビの解説者が「ハセベはすべてをお見通しだ」と苦笑いをする光景を幾度も目にしてきた。

 にもかかわらず、当の本人は「もう少しシーズン通してコンスタントにやっていけたらよかったな」と反省の弁を口にする。

選手としてどうあるべきかを示すだけでなく、人としてどうあるべきか

今季はベンチを温める日々が続くが、それでも長谷部はピッチに立てば、全力でチームのために汗をかく。(C)Getty Images

 昨季、長谷部に「自身としてはどこまでさらに成長できると思っているのか?」と尋ねてみたことがある。彼の返しはこうだった。

「うーん、そうですね。今シーズンもやはりプレーヤーとしての学びはあったし、そのなかでまだまだ自分の中でもっとできるなっていう感覚がある。それを持っていないとそれ以上は望めないと思う。それは引き続き来シーズンに向けてやっていきたい。こういう日々の練習でも競争があるなかでサッカーができることに、やっぱり非常に喜びを感じています。この喜びを来シーズンも感じていたいなっていうのはあります」

 ブンデスリーガのベテラン選手との間でも39歳の日本人の去就は話題になる。昨年4月に行われたボルシアMG戦後のミックスゾーンで、長谷部がこんな話をしてくれた。

 試合後にボルシアMGのキャプテンのラルス・シュティンデルと談笑していたことを報道陣に尋ねられた長谷部は、「そうですね、彼とは(指導者の)ライセンスを一緒にやったんで。そういう関係性です」と明かしたうえで、「『いつまでやるんだ』みたいな(苦笑)。いつもそんな感じで言ってきますけどね」と笑った。

 ドイツで16年目となった今季は新加入のドイツ代表DFロビン・コッホが安定感のあるパフォーマンスを発揮している影響もあり、長谷部の出番はここ数年で一番少ない。フランクフルトの調子が上がらない秋口に起用され、それをきっかけに勝てるようになるという過去数シーズンのように出場機会は訪れないのかもしれない。

 それでも長谷部は現状を受け入れ、味方のゴールに本気で喜び、失点に本気で悔しがる。そして短い時間でもピッチに立てば、自分にできる最大限のプレーを見せていく。まさにプロ選手としての理想像を体現するのだ。プロフェッショナルとはどういうことかを示す模範としてフランクフルトの幹部からの評価が高いのはうなずける。

 ちょっとした活躍で浮足立って勘違いしがちな若手選手たちが、長谷部の立ち振る舞いや考え方を間近で触れられることがどれだけ貴重なことか。彼らは選手としてどうあるべきかを示すだけでなく、人としてどうあるべきかの生き字引とともにロッカールームで過ごすことができるのだから。

[取材・文: 中野吉之伴 Text by Kichinosuke Nakano]

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