辻発彦氏 巨人・甲斐を直撃取材!「もう一回、野球選手として勝負かけないといけないなって」
2025年2月15日(土)5時30分 スポーツニッポン
ソフトバンクから巨人にFA移籍した大分出身の甲斐拓也捕手(32)が、同じ九州の佐賀出身の辻発彦氏(66=スポニチ本紙評論家)の直撃取材に答えた。正捕手としてセ・リーグ連覇と13年ぶりの日本一に貢献することを期待され、レジェンド捕手だった阿部慎之助監督(45)が現役時代につけた背番号「10」を背負う男が、移籍に揺れた際の胸中や、セ、パの野球の違いなど本音を語った。(取材・構成 浅古 正則、小野寺 大)
甲斐 辻さん、コーヒー、どうぞ!
辻 さすが!気が利くなあ(笑い)。
甲斐 本日は、よろしくお願いします!
辻 よろしく。甲斐は俺が(西武の)監督をやっていた時から試合に出ていた。オールスターでも一緒になって、いろいろとお話しさせてもらうようになったね。まずはFA。迷ったでしょ?
甲斐 本当に迷いましたね。
辻 だろうな。俺もFAじゃないけど、移籍は38歳の時。決断は勇気がいるね。
甲斐 大分出身で、(古巣が)地元球団みたいなところがあったので。親も(住んでいる場所が)近いし、奥さんも福岡の人やしって、いろいろと考えました。最後の最後まで。
辻 メジャーに行くって感覚じゃない?九州から出るって。
甲斐 辻さん、本当にそうだと思います!それで(古巣で同僚だった)千賀(現メッツ)に相談して。「めちゃくちゃ悩んでる」と話したら「何を悩むの?」と言われて。「帰ろうと思ったら、2時間で帰れるじゃん。しかも、日本語も通じるでしょ。何不自由なく暮らせるじゃん」と。「確かに」と思って。何を俺は、東京と福岡で考えてるんやろ、と思いましたね。
辻 なるほどね。自分の中で“何かを変えたかった”という思いは?
甲斐 それもあります。「このままだったら、年数がたって終わるのを待つだけだろうな」と思っていたので。だったらもう一回、野球選手として勝負かけないといけないなっていうふうには思いました。
辻 捕手はやることが多い。巨人に入って、また新たな作業が増えると思う。
甲斐 大変ですね。ホークスにいた時は、何年もやっているので、僕の言葉には、ある程度の信用があった。でも、新しい場所で、最初から信用してくれないだろうな、という難しさも凄く感じている。伝え方の難しさも感じながらやっている感じですね。
辻 甲斐の動きをみんなが凄く見ていると思うよ。ブルペンの姿であったり、言葉であったり。投手陣は受けてみてどう?
甲斐 凄く力のある若い投手が多い。それと、タイミングをずらしたり、クイックで投げたりとかを自分たちでやっている。パ・リーグにはない器用さを持っている投手が多いと思います。
辻 セ・リーグの野球というのはまた全然、違う。細かいよね。8番になったら、敬遠も増えるんじゃない?
甲斐 セ・リーグの野球をもっと知りたいと思ったのが、去年の(DeNAに敗れた)日本シリーズだったんです。(セ・リーグ本拠地でDH制がない場合の)8番が、物凄く難しいと感じた。9番に投手が入ることによって、むやみに振れない打席が増えたりとか。“8番ってこんなに難しいんだ”と思いました。
辻 巨人に実際に入ってみて、イメージと変わった?
甲斐 どうだろう…。ちょっと違うかもしれないけど、東京ドームでジャイアンツと試合した時に“うわ、ここがプロ野球だな”って思ったんです。
辻 俺も巨人と初めて日本シリーズをやった時に、やっぱり(心臓が)バクバクしたもんね。
甲斐 何か特別感がありましたね。
辻 でも、巨人でも変わらずに泥くさくやってよ。
甲斐 泥くさくやりますよ。そのつもりっす!
辻 甲斐は凄くしたたか。ポロってしても、一生懸命、捕りに行かず、ランナーを見る(けん制する)もん。それだと(次の塁に向けて)走れない。センスはそこだと思うな。外から見ていて凄いと思ったよ。痛い目に遭ったけど(笑い)
甲斐 ありがとうございます!ちゃんと見てくれているんですね。
辻 移籍して、いろいろなことが勉強になると思うし、何歳までやるか分からないけど、やっぱり野球観は変わると思うよ。将来的に監督はどう?
甲斐 ヘッドコーチで来てくれますか?(笑い)
辻 つえ突いてでも行くよ(笑い)。でも、楽しみだね。体も強いし。巨人に入って、どういうふうになるか。頑張ってね。
甲斐 ありがとうございます!頑張ります!
≪“土台作り”投手陣と積極的に交流≫伸び盛りの若手が多い投手陣を知るため、甲斐は宮崎キャンプでは精力的に動いた。今キャンプを「ジャイアンツの野球を知る土台づくりの機会」と設定し、キャンプインから横川、京本、石川、2日目は開幕投手候補にも挙がる山崎や2年目左腕の又木と最初の2日間で計5人の球を受けた。エース・戸郷や守護神のマルティネスらの球も受け「本当に良い投手が多い」と納得顔。各投手と話し込み、アドバイスを送る場面も多かった。きょう15日から始まる沖縄キャンプでは実戦も増えてくるだけに「より会話が大事になってくる」と見据えた。
【取材後記】甲斐は本当に悩んだと思う。九州生まれで九州の球団に育ててもらった。球団への思い、ファンへの思い、家族への思い…。自分も同じ九州の出身。東京に出て行くのに、重い決断が必要という気持ちはよく分かる。その上で決めた移籍。応援したいと思う。
私は95年のオフに西武を自由契約となり、ヤクルトに移籍した。違うリーグ、野球観の微妙な違い。「あれが西武から来た辻か」と周囲に見られる重圧。苦しさもあったが新天地で野村野球を学び、セの猛者たちに挑めるうれしさが上回った。コーチ時代も含め、移籍によって失ったものなど何もない。全てがその後の野球人生の糧となった。
巨人というチームは求められるものが多いが、それに応えられるだけの体力、技術に加えて育成からはい上がった泥くささもある。「優勝」の2文字を成就した甲斐と、オフに笑顔で再会したい。