山本雅史監督に聞く、TEAM GOHとレッドブルF1での役割「基本は日本、スーパーフォーミュラがベース」

2022年3月9日(水)14時0分 AUTOSPORT web

 ホンダF1のマネージングディレクターとして昨年、マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)のワールドチャンピオン獲得をサポートし、ホンダに30年ぶりのタイトル獲得をもたらした立役者のひとりである山本雅史氏。今年1月いっぱいでホンダを退社し、自らの会社『MASAコンサルティング・コミュニケーションズ』を立ち上げ、F1ではレッドブル・パワートレインズと契約、そして国内ではスーパーフォーミュラに参戦するTEAM GOHの監督に就任することになった。


 3月7日から2日間、鈴鹿サーキットで行われた今年最初のスーパーフォーミュラ公式合同テストの場で、山本雅史氏に改めてTEAM GOH監督就任の経緯、そしてレッドブル・パワートレインズでの役割について聞いた。


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──改めましてになりますが、TEAM GOHの監督に就任することになった経緯を教えて頂けますでしょうか。


山本雅史監督「経緯としては、僕は昨年はF1に行っていたのでチームの詳しい事情はわかりませんけど、レッドブルカラーで2017年から参戦してくれていたM-TECHの15号車のクルマが、昨年末でメンテナンスを担当していたセルブスさんとの関係が白紙になったところからですね。最終的にはホンダのモータースポーツ部がTEAM GOHさんのチームが立ち上がることと、メーカーとしては野尻智紀選手の連覇を狙いたいところで、野尻選手はM-TECHで集中して1台で走ってほしい、TEAM GOHでレッドブル・ジュニアドライバーとのプロジェクトをしっかりとやりきろうとホンダさんが決めました。そのなかで12月中には僕がホンダを辞めることは社内ではオープンになってウワサになっていたようで、そのウワサを嗅ぎつけたのか(苦笑)、12月末にはチーム代表の池田(和広)さんと、オーナーの郷(和道)さんから話を頂きました」


──オファーが来てから、どのように決断したのですか。


「話を頂いてすぐにテレビ会議で1時間くらい、いろいろな話をさせてもらいましたね。その中で、本当にホンダを辞めるのであればTEAM GOHを手伝ってほしいという話を頂いて、レッドブル・パワートレインズと僕の契約の関係もあるので、最終的にはホンダのモータースポーツ部長の長井(昌也)さんに入ってもらい、僕とDr.(ヘルムート)マルコと3人でテレビ会議をして、最終的にはDr.マルコも『レッドブルの若手ドライバーの面倒を見てくれるのならいいじゃないか』と。そこで最終的に決めました」


「監督という立場ではないですけど、実はいくつか他のチームからもお話を頂いていて、うれしい限りでしたが、僕がスーパーフォーミュラを手伝えるというのはレッドブルとの契約がある以上、レッドブルのチームしか関われない。僕はたいしたことはできないですけど、最終的にはレッドブルの関係がメインなので、レッドブルの支援があるチームでできればということで郷さんと池田代表の依頼に合意するに至りました」


──今季のドライバーはふたりとも新人になりますが(佐藤連、三宅淳詞)、スーパーフォーミュラでのTEAM GOHのコンセプトを教えてください。


「もともと佐藤連君は僕がホンダに在籍していたときから、長井部長とDr.マルコと話をして決まっていました。三宅君に関してはやはりオーナーの郷さんが若手ドライバーか、またはズバ抜けた速さをもっている外国人ドライバーを希望していて、そこには僕も同意していました。そこはやはりふたつの要素があって、やはりこのTEAM GOHから世界に通じるドライバー育成をしたい。もうひとつは速い外国人ドライバーを連れてきて、日本のこのスーパーフォーミュラを掻き回してもらって、そうしたらカテゴリーとして元気が出るじゃないですか。そこは郷さんも『そうだよね』と完全に僕と意気投合している部分ですし、池田代表も同じ考えですし、レッドブルとしても同じ方向です。もちろん、三宅君に決まるまでには他の外国人ドライバーの候補もいましたし、僕もコンタクトを取っていました。そになかで最終的に三宅君に決まりました。


──外国人ドライバーとの交渉には、新型コロナ予防の入国、ビザの問題がありますが影響しましたか?


「もちろん、外国人ドライバーに関してはその影響はありました。それに今年のシーズンは昨年と違って有効ポイント制ではないので、開幕戦から出れないと厳しい。僕がF1で海外にいたときから『スーパーフォーミュラに乗りたい』というドライバーの声は聞いていましたし、来てくれたら話題性もあるし面白いなというドライバーは候補に挙がっていました。やはり2017年に(ピエール)ガスリーが日本に来て最終戦までチャンピオン争いしたように、良い意味でああいう刺激は必要だよねというのは僕と郷さん、池田代表の3人の考えに共通していますね。そういう考え方も合意して、1月に『監督をやらせて頂きます』と。


──どんなイメージのチームにしたいですか?


「やっぱり『育成したい』と言えどもレースは勝負ごとなので、時にはギクシャクはあってもいいけどチーム全体がまとまって、最後はやっぱりドライバーだから。スーパーフォーミュラはドライバーズ・レースですし、ドライバーが気持ちよくレースができる環境を作り上げたいですね。チーム全体が底上げできて、今年の若いふたりがいい結果を出してくることはもちろんですけど、他のチームのドライバーが『TEAM GOHで走ってみたい』と言われるくらい存在感のあるチームを作りたいですね」


──今の山本監督の役割として、スーパーフォーミュラのカテゴリーでホンダの若手育成を担うというわけではない?


「そこは違いますね。僕は元ホンダですけど、メーカーとしてはこのスーパーフォーミュラは育成の場とはしないと思いますし、僕も個人的にメーカーは育成の場とするべきではないと思います。チームは常に向上心を持って上昇志向でやっていかないといけないなかで、メーカーが『ここは育成の場所ですよ』と入ってくると学校みたいになってしまう。日本のトップカテゴリーとして、ここは勝負ごとをする場所なので、勝たなきゃいけない。メーカーが育成するのであれば、それはF3くらいまでだと思っています」


──今年はF1の方の仕事もありますが、スーパーフォーミュラの現場にはどのくらい来る予定ですか。


「もちろん、全戦来ます。スーパーフォーミュラの合間を縫って、F1には年間で5〜6戦行く予定です。基本は日本ベース、スーパーフォーミュラがベースになります」


──レッドブル・パワートレインズとの仕事での役割はどのようなものになるのですか?


「まだ正直、クリスチャン(ホーナー代表)とDr.マルコから最終的な指示をもらっていない(苦笑)。Dr.マルコからはテレビ会議で『F1でやってほしいことがいっぱいある』という割にはクリスチャンも新車のことで忙しいようでいろいろ滞っていて、とりあえずは『レッドブル・パワートレインズ・アドバイザー』というタイトル(肩書き)になるようです。また現場に行ったときにいろいろ具体的な話になると思います。


──これまでのホンダという大きな看板といいますか、サラリーマンというしがらみを外れて、何か心境などで変わった部分は感じていますか?


「僕はこれまでホンダにいたからといって、言い方は失礼かもしれないですけどサラリーマン、サラリーマンしていなかったから(苦笑)と、みなさんは言うのですが、僕は普通にやっていました。僕自身はモータースポーツは勝った負けたの世界ですし、自分と同じ所属のドライバーが最後に表彰台の真ん中に立ってほしいという思いもあるので、そこはホンダにいたときも、今も変わっていないです。僕自身は変わっていないけど、ひとつだけ言えるのは、会社に行かなくていいじゃないですか。だから時間が自由ですよね。24時間、すべてが自由に使える。結局、奥さんには『結局、会社辞めても家にいないよね』って(苦笑)。ホンダを辞めてもあまり変わっていないかな。これまでは会社のルールを守らなきゃという意識がありましたけど、それがなくなって、そこくらいですかね。さらにフレキシブルに動けるようになった分、みんなから『身体に気をつけろよ』と言われるけど、まさにそうですね。


──自由度が高まって、チーム作りに時間を割ける。


「いやね、TEAM GOHはホントにいいチームなんですよ。ルーキーふたりだけど、スーパーアドバイザーとして(伊沢)拓也と岡田(秀樹)さんがいるでしょ。もう完璧ですよ。拓也はドライバー目線でいろいろ分かりやすくアドバイスしてくれるし、岡田さんはきめ細かい。僕はもう何もすることがないくらい(苦笑)。何かあったときに僕が包んであげれば、すごくいいチームになると思います」


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 昨年末にF1でタイトルを獲得した際には「この2年、家に居なかったし、忙しかったし、本当にのんびりしたい」と話していた山本雅史氏。このオフ、実際にのんびりできたのは「コロナの影響もあるので年末年始と3日間くらい」だったというが、早くもスーパーフォーミュラの場でエネルギッシュに活動する姿が見えた。「みなさんが喜んでくれるなら何かやれることをやりたい。何か役に立てるなら」と、根っからのモータースポーツ愛を前面に、TEAM GOHとともに今年のスーパーフォーミュラ、そして日本のレースの大きな刺激になってくれそうだ。

佐藤蓮(TEAM GOH)


#55 三宅淳詞(TEAM GOH)

TEAM GOHの監督に就任した元ホンダF1マネージングディレクターの山本雅史氏

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