卓球王国、打倒中国のキーパーソンは? 元世界ベスト8が語る日本女子代表「トップ5の凄み」
2025年4月1日(火)11時30分 ココカラネクスト

日本卓球界を牽引する5人は個性豊か。中国勢の牙城を崩すべく鍛錬に勤しんでいる。(C)Getty Images
この20年で著しい成長を遂げている卓球日本女子。近年は早田ひな、伊藤美誠、平野美宇という2000年生まれの黄金世代トリオがチームを牽引し、さらに16歳の怪物・張本美和、昨年大ブレークを果たした20歳の大藤沙月らが台頭。絶対王者・中国に次ぐ選手層の厚さを誇り、今年5月に行われる世界卓球(個人戦)でも日本チームのメダルラッシュが期待されている。
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自身も日本代表として活躍し、世界卓球女子シングルスベスト8という輝かしい経歴を持つ加藤美優さんに、日本女子主力5選手のプレースタイル、強みを語ってもらった。
まず1人目は、パリ五輪で2つのメダルを獲得した日本女子のエース・早田ひな(24歳/日本生命所属/WR5位)。その魅力は166センチの恵まれた体格から繰り出すパワフルなドライブで、加藤さんも「中国選手と同じくらい質の高いボールを打つことができる選手。フィジカルが強くてリーチも長いため、ボールに威力がある。また台から下がったラリーも強く、不利な状況になってもフィジカルを活かして巻き返す力があります」と語る。
またこの数年でサービス、レシーブなどのテクニックにも磨きがかかり、よりバランスに優れたスタイルに進化。「あまり注目されないのですが実はブロック力も非常に高く、下がっても、前でも相手の攻めをしのぐ技術があり、そういう面でも中国選手に近いなと感じます。私も何度も対戦していますが早田選手のバックサイドに強いボールを打つと高確率でバックカウンターが来るので苦戦しました」と守備力の高さについても評価。「ブロックやサービスがいいと取りこぼしが少なくなるし、近年安定して成績を残せているのはそういった部分での成長があるからだと思います」と説明した。
2人目は、日本男子のエース・張本智和(智和企画)の妹、張本美和(16歳/木下グループ所属/WR6位)。パリ五輪では団体戦メンバーに選出され銀メダルを獲得すると、昨年10月のアジア選手権団体戦では中国から2勝をあげてチームの優勝に貢献。前陣でのスピーディーな両ハンド攻撃は中国チームも警戒する完成度だ。
「早田選手と同様に中国選手のプレーに近いと感じる選手です。張本選手は高い打点で打つので上から突き刺すような感じがあり、回転量もピッチの早さもすごいので受ける側としてはかなりプレッシャーがあります」と加藤さん。またコース取りも非常にうまく「積極的にコースを変えるところも相手からするとかなり嫌ですね。女子の対戦だとバック対バックのラリーを何本か続けてから……という展開が多いのですが、張本選手は早い段階からストレートを狙うこともあり、コースが読みづらいという特徴もあります。厳しくコースを突いて相手を振り回すプレーは本当にすごいし、中国選手でもあのスピードにはなかなか対応できないと思います」と加えた。

エースに成長した早田を筆頭に、日本勢は着実に力をつけている。(C)Getty Images
続いては、巧みなサービスとダイナミックなバックハンドを武器に世界ランキングを半年で125位から8位までジャンプアップさせた大藤沙月(20歳/ミキハウス所属/WR8位)。ダブルスでも横井咲桜(ミキハウス)と組んでアジア選手権優勝などの好成績を残し、女子ダブルス世界ランキングでは1位になっている。
「大藤選手の特徴はサービス。同じフォームで違う回転を出すのがうまく、回転量の差はそこまで大きくはないのですがかなり取りにくい。またバックドライブも大きな武器で、あそこまでパワフルに振れる女子選手はなかなかいません。サービスがうまいので相手のレシーブがバックサイドに集まりやすく、しかも3球目バックドライブも威力がある。だから相手としては“いいレシーブをしなければ”と固くなり、さらにサービスが効きやすくなるという相乗効果があります」
4人目は東京五輪の混合ダブルスで日本卓球界初の金メダルを獲得した伊藤美誠(24歳/スターツ所属/WR9位)。パリ五輪の代表争いに敗れ、不調の時期もあったものの「大魔王」と呼ばれた以前の強さを取り戻しつつある。
「最近の試合を見るとまたスマッシュが増えている印象です。一時期はドライブを多く使っていましたが、左右に大きく振り回されたり、後ろに下げられる苦しい展開になりやすかった。今は回り込んで攻めるときはほぼスマッシュで、足の動きもいいし、前より俊敏になっている感じがあります」
また伊藤はバック面に独特の回転を生み出す表ソフトラバーを貼る異質型で、鋭さと回転の変化を兼ね備えたバックハンドも武器のひとつ。何度も対戦経験のある加藤さんも「個人的にはレシーブでのバックフリックが怖かったですね。少しでもサービスがあまくなると一発で打ち抜かれてしまいますが、あれは絶対取れません」と語った。

“元同僚”たちの活躍に加藤さんも期待を寄せる。(C)CoCoKARAnext
最後5人目は、黄金世代のひとり、平野美宇(24歳/木下グループ所属/WR15位)。「ハリケーン」と評される超高速両ハンドを武器に、2017年の世界卓球では女子シングルスで日本勢48年ぶりの銅メダルを獲得している。
「近年はフィジカルの部分がすごく向上しているように感じます。以前は大きいスイングに身体がついてこなかったり、何本か打って体勢が崩れることがありましたが、フィジカルとフットワークが良くなり、大きいフォームでも崩れず連続で打てるようになっている印象です」
卓球ではフォアハンドとバックハンドのどちらで打つか迷う「ミドル」を突くことがコース取りのセオリーだが、対ミドルでの進化があるとも語る。
「最近はフォアミドルのボールを広角に打ち分けるテクニックが武器になっています。ミドルのボールをフォアハンドでシュートっぽく打つのがすごく良いですね。早い打点で打つので相手も対応が難しいですし、それに加えてカーブっぽく巻き込んでフォアサイドを狙う時もあります。対ミドルはバックハンドだけだと限界があるのでやはりフォアで打てると強いし、そういう面でこの技術はすごくいいと思います」
最後に「打倒中国のキーパーソンとなるのは誰か」と聞いたところ、「張本美和選手ですね」と加藤さん。「何年か前に対戦した時にかなりの衝撃を受けました。この年齢でこんなプレーができるのかと。頭もすごく良くて、技術だけではなくて戦術面も高い能力があります。まだ16歳ですしこれからどこまで強くなるのか楽しみです」と期待を寄せた。
[取材・文:渡辺友]