選手生命の危機を乗り越えプロ初優勝を挙げた自転車・男子ロードレースの床井亮太をインタビュー
2025年4月24日(木)6時0分 スポーツ報知
ゴール前の激戦を制し両手を挙げて喜ぶ床井
4月5〜6日に開催された自転車ロードレース「第48回チャレンジサイクルロードレース大会」(報知新聞社ほか主催)男子エリートの部でプロ初優勝を決めた床井亮太(26)=レバンテフジ静岡=が、スポーツ報知のインタビューに応じた。体調不良で昨夏以降はレースを離れ、復帰を果たした今季序盤に念願の勝利を挙げた中堅選手は、今後さらなる飛躍を目指す。(協力・日本自転車競技連盟)
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選手生命の危機を乗り越え、見事に栄冠をつかんだ。この大会には通算4度目の出場。2年前は最後のゴール前勝負まで粘りながらも7位。その悔しさも一気に晴らした。
「シーズン序盤なので、いいスタートが切れるかどうか、かなりウェートを置いたレース。勝ちたいと思っていたレースで勝てたことは、自信につながる」
メイン集団から先頭集団を追う展開。最終周回で先頭の4人をとらえ、ゴール100メートル手前からの上り坂勝負に競り勝った。先頭集団で奮闘した、同じレバンテフジ静岡に所属の高梨万里王(23)が3位。ワンスリーフィニッシュは、チームの地元での勝利に花を添えた。
「チームとしてのプランはなかったけど、声を掛け合いながら、その場その場で状況に対応した。自分の指示通りに動いてくれたチームメートのおかげで、脚を残した状態のままスプリント勝負に臨めた。上りでのスプリントは練習で常にやっていたから結構、自信はあった」
突然、絶望の淵に落とされた。昨年6月頃から、強い腹痛に悩まされた。体に全く力が入らず、満足な練習ができなくなった。明確な原因は分からず、医者からは当初、治療方法が不明な難病と言われた。
「腸内の出血とか検査の数値を見ると間違いなく難病だったと思う。重いギアを踏むとおなかが痛くて練習どころではなかったし、ランニングもできなかった。もう選手生命を半分諦めていた」
本格的な練習ができなかった間、宇都宮市内の自宅から12キロほど離れた農家に通ってイチゴの収穫を手伝うなど、競技から距離を置いた生活をしばらく送った。
「何も考えずに一人で黙々と作業をしていると、時間が早く過ぎるように感じて…。監督やコーチ、チームの仲間から『待っているから』と声をかけてもらったことも支えになった。いろんな先輩からも自転車に乗れないときのトレーニング方法とかアドバイスをもらった」
何種類か薬を試すうちに次第に症状が安定。発症から約半年後、やっと昨年末から通常の練習に復帰できた。
「合う薬を飲んで探した。仲間内にとらわれない関係性を作ろうと、自転車関係以外の人と関わったのも復帰に役立ったと思う。3〜4キロ落ちた体重は元に戻っているし、おなかの痛みはなく通常に近い状態。回復したのは、奇跡だと思っている」
今回の勝利は、支えてくれた周囲の人たちへの恩返しでもある。
「チームにとっても所属選手が優勝したのは初めてのこと。うちはアットホームな雰囲気が強くて、地元で勝ったことをファンがすごく喜んでくれた。『ここまで耐えてきて良かったね』という声を多くかけていただいて、うれしかった」
大学時代からコーチをしてもらっている、元プロロードレーサーの鈴木真理氏(TRUTH BIKE)にも最高の報告ができた。
「レース展開をインターネットで情報収集してくれていたみたいで、落ち着いてから電話で報告すると『1周目から先頭付近を走っていて不安だったけど、耐えて良かったね』と言われた」
所属3年目の現チームでは、日本人選手の中で最年長。若いチームメートをけん引する立場ながら、気負いはない。
「周りを引っ張るとか若手に指導するタイプじゃないので、やりたいことをやってチームを振り回している。監督は『それが一番いいのじゃないか』と言ってくれているので自由にやっている」
次の目標はJプロツアーでの活躍。そして、「全日本選手権ロード」(6月21〜22日、静岡・日本サイクルスポーツセンター)での雪辱だ。
「まずはJプロツアーで表彰台に立つこと。チームの状態がいいから、もう1勝できたらうれしい。チームの地元、静岡での全日本選手権は、去年は早々にリタイアしてしまった。今年はトップ選手に食らいつくような、いい走りがしたい」
復帰明けの今年は雌伏の一年。来年、再来年での飛躍へ向けて力を蓄える。
「チームは今年、国内レースに専念する方針。自分にとっても焦らずゆっくりできるのは、ありがたい。でも、これから国際レースに出るためには、全日本選手権でUCI(国際自転車競技連合)ポイントを取れる順位に残らないといけない。今はそこを一番、目指している」
◆床井 亮太(とこい・りょうた)1998年12月11日、栃木県宇都宮市生まれ。26歳。作新学院高から自転車競技を始め、作新学院大3年の2020年1月にロードレースチーム「シマノレーシング」に加入。同年9月の「2020全日本学生個人ロードレース大会」で6位。2023年から「レバンテフジ静岡」に所属。169センチ、59キロ。血液型B。