「安全に楽しく走る」基本がパーフェクトな優等生のあるべき姿。フォルクスワーゲン・ゴルフR【ベース車両一刀両断!!】
2020年5月5日(火)10時30分 AUTOSPORT web

モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。
今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第17回目(番外編)フォルクスワーゲン・ゴルフR編をお届けする。
すでにモデル末期を迎えた7代目ゴルフ。多くのスポーツモデルは多少の犠牲を払っているが、GTIの上に位置するゴルフGはどうなのか?
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フォルクスワーゲン(VW)の新型ゴルフが2019年10月24日、全世界に公開された。8代目にあたるこのゴルフの日本導入は、2020年夏頃と思われ、まだ半年以上は現行モデルの販売が続くことになる。
VWは2015年、排ガス規制をクリアするための特殊なソフトウェアを使用していた事件“ディーゼルゲート”が発覚。VWは優等生だと思われていただけに、そのダメージは甚大だった。現行の7代目ゴルフも、その渦中にあった。
個人的にではあるが、ディーゼルゲートはドイツ自動車業界の技術力の相対的な低下が根底にあると思う。
とはいえ、商品としての自動車技術では、現在のところドイツはラップリーダーである。それはごく普通のスタンダードモデルに乗れば明確だ。
ゴルフは幅広いバリエーションを持つが、今回紹介するゴルフRは、そのスペシャルモデルだ。特別なのは外観や装備だけでない。たとえば最大出力310psを誇る2.0リッター4気筒ターボエンジンだ。
VWやアウディでは同排気量のTSIエンジンを広く採用しているが、それらとはその中身は別物だ。とくにクランク周りの設計が異なるようで、エンジンの回転音が違い、回転フィールもシャープである。
排気音はV8のような迫力で、耳でもパワフルさを感じさせる。その正体は合成音で、スピーカーから出しているのだが、回転数やスロットル開度、エンジン負荷などに応じ違和感が少なくなるように仕上げられている。
パワーは4WDシステム『4motion』で路面に伝えられる。これはリヤデフに装着された電子制御クラッチによって後輪へのトルク配分を決めるシステムで、最大50%のトルクが後輪へ伝えられる。
レスポンスも良く、もし最大加速が必要なら無遠慮にアクセルを踏み込むだけでいい。さまざまな電子制御がパワーを無理のないレベルにセーブしてくれる。
■高性能&ラグジュアリーがR、GTIはスポーティなホットハッチの見本
Rの乗り味はGTIとはまったく異なる。スポーツハッチ的なダンピングの効いたものではなく、サスペンションがゆったりとストロークするグランドツーリングカー志向。これは、可変ダンパーを“スポーツ”に切り換えても基本的には同じだ。
つまり、この310psの高性能マシンは、ごく普通のゴルフとしても使える。コンビニに買い物に行くのも苦痛ではないし、猛々しい排気音は室内だけに響いていて、外には影響しない。エンジンのモード如何で大人しくすることもできる。
というわけで、ゴルフRは高性能でもあり、ラグジュアリーでもある。ベースモデルの2倍という価格(約580万円〜)も納得できるレベルだ。
ただし、スポーティなゴルフが欲しいなら、GTIを選択したほうがいい。GTIの軽快な動きはホットハッチの見本で、VW流の高いスタビリティの上に成立させている。
個人的には、可変ダンパーのつかない17インチタイヤモデルがベスト。ただ、モデル末期ということで、現在はGTIパフォーマンスというエボリューションモデルが展開されていて、これが245psのパワーと19インチタイヤを身につけている。熱さでいえば、それが最上だ。
スポーティモデルの良さは、単に高性能というだけではない。ドライバーの思いどおりに動くことはとても重要で、それは人間が扱うあらゆる道具にとってもっとも優先されるべき要素だ。
次元の低い乗り心地志向や、カタログを飾るための燃費、見栄え最優先で本質部分を値切って安物感満載にするコスト管理など、言い訳をたくさん用意するナマクラなスタンダードモデルでは、運転する楽しみを得にくい。
だが、ゴルフはスタンダードモデルから充分にスポーティであり、ドライバーが知覚を駆使して安全に楽しく走れる道具として仕上げられている。
単純な技術力はともかく、そうしたクルマ作りに対する姿勢で、日本メーカーは追いつく日が来るのだろうか?
■フォルクスワーゲン ・ゴルフR 主要諸元
車体 | |
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車名型式 | ABA-AUDJHF |
全長×全幅×全高 | 4275mm×1800mm×1465mm |
ホイールベース | 2635mm |
トレッド 前/後 | 1535mm/1510mm |
最低地上高 | 130mm |
車両重量 | 1510kg |
乗車定員 | 5名 |
駆動方式 | 4WD |
トランスミッション | 7速DSG |
ステアリング | 電動パワーステアリング |
サスペンション前/後 | マクファーソンストラット/4リンク |
ブレーキ 前/後 | ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク |
タイヤサイズ | 225/40R18 |
エンジン | |
型式 | DJH |
形式 | 直列4気筒DOHCインタークーラー付きターボ(4バルブ) |
排気量 | 1984cc |
内径×行程 | 82.5mm×92.8mm |
最高出力 | 228Nm(310kgm)/5500ー6500rpm |
最大トルク | 400Nm(40.8kgm)/2000ー5400rpm |
使用燃料 | 無鉛プレミアムガソリン |
タンク容量 | 55L |
auto sport 2019年11月15日号 No.1518より転載