阪神・高寺 9回2死から“山田太郎”級プロ1号「振り負けないように」 プロ36打席目で
2025年5月14日(水)5時15分 スポーツニッポン
◇セ・リーグ 阪神1—1DeNA(2025年5月13日 ハードオフ新潟)
阪神・高寺望夢内野手(22)が13日、DeNA戦(新潟)で記念すべきプロ初本塁打を放った。22年10月2日のヤクルト戦以来となる先発抜てきに“一発回答”。0—1で迎えた9回2死からの第4打席だ。3番手右腕・入江からプロ通算36打席目で待望のアーチを描いた。チームは13年ぶりとなった新潟での一戦は今季5度目となる延長戦の末に2度目の引き分けに終わった。
1点劣勢で迎えた9回2死。土壇場で試合を振りだしに戻したのは、高卒5年目・高寺だった。1ボールから真ん中に入った直球を、迷いなく振り抜く。弾丸ライナーで飛んだ打球は、右翼フェンスギリギリをかすめるようにスタンドイン。プロ36打席目にして初アーチが飛び出した。漫画のような展開で“秘打”を見せつけ、新潟に集まった2万1211人の視線を一身に集めた。
「ストレートがいいピッチャーだったので、振り負けないようにしようと。それが入って、追いつけたので。良かったです」
プロ初となる遊撃での先発だった。これまで遊撃の座を守っていた小幡が左下肢の負傷で前日12日に出場選手登録を外れた。巡ってきた絶好のチャンスで見事な“一発回答”。上田西(長野)時代の1年秋に北信越大会準決勝・啓新(福井)戦で適時打を放つも敗戦を喫した苦い思い出が残る舞台で躍動した。
名作野球漫画「ドカベン」の作者・水島新司氏を生んだ新潟の地で、“山田太郎”級のアーチを放った。ただ、それだけではない。5回無死一塁、7回無死一、二塁で見事に犠打を成功。ドカベンの作中に登場する殿馬一人が「うまい」にかけて得意としていた秘打「コシヒカリバント」ばりの名技を見せた。22歳の若虎は山田にも、殿馬にもなった。
圧倒的な打撃センスを持ちながらも、性格は天然。藤川監督からは春季キャンプ時に「ちょっと宇宙人ですけどね」と言われるほど。しかし、野球のこととなれば「理論派」に一変。練習や試合の後、1時間30分以上も打撃を映像で見返す。スロー再生にしたり、一時停止したり。“エア素振り”での確認作業も欠かさない。
「自分が悪くなっている時は、構えが猫背気味になっていることが多い。常に良い姿勢で立てているかチェックしている」
自身の打撃のブレをなくすため、タブレット端末とにらめっこする毎日。高寺は言う。「ファームで打てて、1軍で打てないはダメなので。場所や局面がどうだろうと常に同じ打ち方ができるように」。だから、あと1死で連勝が止まるという場面でも、変に力が入ることはなかった。今春キャンプの野手MVP。自分が何度も見返してきた打撃フォームで、最高の結果を残した。
(松本 航亮)
◇高寺 望夢(たかてら・のぞむ)2002年(平14)10月17生まれ、長野県上田市出身の22歳。上田西では甲子園出場なし。高校通算31本塁打。20年ドラフト7位で阪神入団。22年に1軍デビューし8試合出場も23、24年は出場なし。今春、沖縄・宜野座キャンプの野手MVPに選ばれ、初の開幕1軍入りで3年ぶりの1軍出場。1メートル78、76キロ。右投げ左打ち。
▽殿馬一人(とのま・かずと)水島新司氏作の野球漫画「ドカベン」に登場するキャラクター。走攻守にセンス抜群の不動の2番・二塁。ピアノの腕も超一流で打席でも「チック、チック」とリズムを口ずさむ。回転しながら打つ「秘打・白鳥の湖」、ファウルライン上に打球が止まるセーフティーバント「秘打・G線上のアリア」などの「秘打」が得意。