『いすゞ・ジェミニ』カローラ&シビックに挑んだ“遊撃手”【忘れがたき銘車たち】
2025年5月28日(水)17時30分 AUTOSPORT web

モータースポーツの「歴史」に焦点を当てる老舗レース雑誌『Racing on』と、モータースポーツの「今」を切り取るオートスポーツwebがコラボしてお届けするweb版『Racing on』では、記憶に残る数々の名レーシングカー、ドライバーなどを紹介していきます。今回のテーマは全日本ツーリングカー選手権(JTC)のディビジョン3を戦った『いすゞ・ジェミニ(JT190/191型)』です。
* * * * * *
グループAという車両規定のツーリングカーによって争われた全日本ツーリングカー選手権(JTC)。1985年よりシリーズがスタートしたJTCは、シリーズの開始当初から数年は日本車、外国車混成の多彩な車種がバトルを繰り広げていたものの、その状況は最後までは続かなかった。
まず最高峰クラスのディビジョン1においては、1990年にBNR32型の日産スカイラインGT-Rが登場して選手権を席巻すると、やがて同クラスはR32 GT-Rのワンメイク状態になっていった。そのひとつ下のディビジョン2も、E30型のBMW M3が1987年にデビューして以降、どんどんとM3の参戦台数が増え、シリーズが終焉する1993年頃にはM3だけのクラスになっていた。
そんななか、最後までワンメイク状態にならなかったのがディビジョン3だった。1600ccまでの車両が対象の同クラスでは、トヨタ・カローラレビン(/スプリンタートレノ)対ホンダ・シビックという2車種が、JTC終焉の1993年まで熾烈な戦いを繰り広げていたのだ。
そのため、ディビジョン3では、カローラとシビック以外の車種が付け入る隙はないようにも思えたのだが、果敢にもこの2車に挑戦した車両が現れた。それが『いすゞ・ジェミニ』だった。ジェミニは、元々3ドアハッチバックのJT150/151型の1.5リッターターボエンジンを搭載するモデルが1986〜1987年にディビジョン2クラスを戦っており、クラス上位を得るなどの実績を持っていた車種だった。
それから1年のブランクを経た1989年に今度はディビジョン3へ1.6リッターDOHC16バルブNAエンジンを搭載するJT190型のイルムシャーというモデルがエントリーを開始する。しかし、ディビジョン3ではやはりカローラ&シビック勢の壁は高く、ジェミニは1989年、翌1990年に合わせて数戦へスポット参戦したものの、完走もままならぬという状況であった。
そして、1990年の最終戦インターTECラウンドになると、JT191型へと進化したジェミニが参戦。ベースに選ばれたのはJT190型と同様に1.6リッターのDOHCのNAエンジンを搭載したJT191F型のイルムシャーというモデルで、ボディのデザインが一新されてサイズも大きくなった。
このJT191型は、同型の参戦4戦目である最終戦インターTECラウンドでクラス最下位であったものの、ついに完走を記録した。その後、1992年の最終戦インターTECにて、前年の同ラウンドの予選ラップタイムを3秒上回り、さらに決勝ではクラス9位でチェッカーフラッグを受けるなど、着実な進化も見せた。
そんなジェミニではあったものの、やはりカローラ、シビックと対等に戦える速さは発揮できなかった。JTC最終年度の1993年では唯一第3戦スポーツランドSUGOラウンドに参戦。しかし、結果は予選落ちに終わると一足早くJTCから姿を消すことになってしまうのであった。