インディ500予選落ちの悪夢から復活の勝利を挙げた不屈の男ヒンチクリフ

2018年7月20日(金)11時4分 AUTOSPORT web

 ユーモアたっぷり、早口でジョークを連射するジェイムズ・ヒンチクリフ。カナダのトロントの出身の現在31歳のインディカードライバーだ。会見やインタビューでの彼は聴く者を惹きつける。


 ジュニアフォーミュラ時代にはインターネット上に仮想の”ヒンチタウン”を作って自らメイヤー(市長)となり、レース活動の紹介し、スポンサーを募集していた。


 インディカーデビューは2011年。前年のインディライツで3勝してランキング2位。才能を認められ、シーズン2戦目からだったが、今はなき名門ニューマン・ハース・レーシングからエントリーすることになった。


■波乱万丈のインディカー人生


 ヒンチのインディカーキャリアは、この後なかなかスムーズに進んでいかなかった。まずはニューマン・ハースの活動休止することになった。その前にアンドレッティ・オートスポートへと移籍できたのは幸いだった。そして、2年目の2013年に彼はセント・ピーターズバーグ、ブラジルのサンパウロ、アイオワで優勝。近い将来にチャンピオンになる素材との評価を掴んだ。


 ところが、今度はアンドレッティ・オートスポートがスポンサーに騙されたりもあって体制縮小を余儀なくされ、ヒンチが割りを食うことに。


 またもやレギュラーシート喪失の危機となったヒンチとサインしたのは、サム・シュミット・モータースポーツ(現シュミット・ピーターソン・モータースポーツ)。シモン・パジェノーをチーム・ペンスキーにさらわれたからで、一転ヒンチはチームのエースとして走ることになった。


 その期待に応え、移籍間も無くニューオリンズで優勝。しかし、インディ500のプラクティス中に大クラッシュ。モノコックを突き破ったサスペンションアームが刺さり、病院へ担ぎ込まれた。失血死の可能性もあったが一命を取り留めたヒンチは、リハビリ生活に入った。


 現場復帰は翌年に持ち越された。怪我の前と同じパフォーマンスが発揮できるかは誰にもわからなかった。しかし、ヒンチ自身はもちろん、チームも彼の完全復活に賭け、それに応えてヒンチは開幕5戦目のインディアナポリス(ロードコース)で3位フィニッシュして表彰台に上った。そして、一年前に悪夢のような事故に遭ったインディ500を迎えたが、なんと予選でポールポジションを獲得する快挙を達成した。


 2017年には復活後の初勝利をロングビーチで記録したヒンチ。地元トロントでは前年に続いて2年連続の3位フィニッシュで表彰台に上り、大歓声を浴びた。


 そして今シーズン、2018年のヒンチはチームメイトに同郷のロバート・ウィケンスを迎えた。ヒンチ自身がチームに、「絶対に損はさせない。自分のサラリーをいくらかカットしてもいいからロバートを起用して欲しい」と交渉したと言われている。

シュミット・ピーターソンでコンビを組むヒンチクリフとウィケンス


 そして、彼の言葉通りにウィケンスは開幕戦ポールポジション獲得に始まる目覚ましい快進撃を続けている。


 その一方で、ヒンチのレース人生は相変わらずの波乱万丈ぶりだ。自身7回目の挑戦となるインディ500で今年はまさかの予選落ちを喫した。

インディ500予選アテンプトに向かうヒンチクリフ


 ユニバーサルキット装着マシンのセッティングに悩まされたのは事実だった。インディカー経験のないエンジニアとのコンビという点もそこには影響していた(そのエンジニアはインディ500でチームを離脱)。しかし、ルーキーのチームメイトが予選を通過できたのに対して、ヒンチは決勝に進めないことになった。


 予選落ちのいちばんの原因はマシントラブルにあった。しかも、それが起きたタイミングが最悪だった。アタックへと出たヒンチクリフのマシンは、コースインしたところでタイヤの空気圧センサーが外れ、ホイールとハブの間で暴れ回ったために大きな振動を発生させた。ヒンチはピットに戻って修理を受けたが、アタックをもう一度行う時間は残されていなかった。

うなだれるヒンチクリフ。インディ500ポール獲得経験もある彼の予選落ちはIMSに衝撃を与えた


不屈の強さを見せるカナディアン


 ヒンチをサポートするスポンサーのアロウ・エレクトロニクスはスピードウェイのターン1内側に巨大なブースを建て、大勢のゲストを招くことになっていた。そのレースにヒンチは出られなくなった。しかし、スポンサーもシュミット・ピーターソン・モータースポーツも彼をサポートし続けた。


 予選落ちは大き過ぎる試練だが、ヒンチはそれに打ち砕かれることなく、次のレース、残りのシーズンでの活躍に目標を移し、インディの予選落ちから2カ月も経たないうちにアイオワで大逆転の優勝を記録した。


「あんなこと(予選落ち)があった後だけに、この勝利には特別な意味がある。優勝して地元トロントでのレースを迎えられるなんて最高だ!」とヒンチは喜んだ。

チェッカー後にドーナツターンで勝利を喜ぶヒンチクリフ


 トロントでは惜しくも3年連続の表彰台を逃したヒンチだったが、チームメイトのウィケンスの後ろの4位でフィニッシュ。トップカテゴリーで成功するドライバーたちが共通して備えているのが、地元で好成績を残す勝負強さ。ヒンチにもそれがある。

トロントのサイン会でも大人気のヒンチクリフ


 ティーンエイジャーの頃から同じカテゴリーで競い合い、親友となったウィケンスをチームメイトに迎えたことは、ヒンチにとって大きなプラスとなるだろう。ウィケンスの能力が高いのは間違いなく、彼と情報を全面的に共有してマシンを作り上げて行くことができる。


 不屈の男とオールドルーキーのカナダ人コンビで戦うシュミット・ピーターソン。今シーズンのインディカー後半戦でもレースを盛り上げてくれるだろう。


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