井上尚弥の”圧巻KO劇”を識者はどう見た?井上の第二の師匠が見解「遠距離もフルトンの土俵ではなかった」

2023年7月26日(水)17時42分 ココカラネクスト

8ラウンドTKOでフルトンを沈めた井上。階級を上げてパワーが増した印象だ(C)Getty Images

 やはり”モンスター”は”モンスター”だった。

 7月25日に東京・有明アリーナで行われたタイトルマッチで、WBC&WBO世界スーパーバンタム級2団体統一王者のスティーブン・フルトン(米国)と対戦した井上尚弥(大橋)が、8ラウンドTKO勝ちで4階級制覇を成し遂げた。階級を上げて迎えた初戦という難しい試合であったにも関わらず、難敵を退けたチャンピオンの戦いぶりは、まさに圧巻だった。では、識者の目に井上の勝利はどう映ったのか。ロンドン五輪ボクシング・フライ級日本代表であり、井上が「第二の師匠」として慕う、須佐勝明氏に話を聞いた。

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 強い、そのひと言です。1ラウンド目から驚かされました。フルトンが得意とする遠距離でも優位に戦いを進めていた。フルトン選手は遠距離が得意なので、ある程度駆け引きになるのかなと思ったんですが、冒頭から井上選手のジャブが当たり、相手のパンチが当たらない展開。遠距離の駆け引きでも勝っていたので、この試合は負けないだろうなと、その時点で感じました。

 井上選手は階級を上げた初戦という気負いもなく、自分のリズムでボクシングをしていました。試合は3ラウンドくらいまではフルトンがちょっと下がって戦っていたんですが、4ラウンドくらいから切り替えて前に出て行くようになると、それに対して井上選手はガードを低くして懐を深くして入らせないように対応していました。

 このあたりの駆け引きが本当に頭脳戦になっていたので、凄く面白かったですね。遠距離はフルトンの土俵だったはずが、井上選手の土俵になっていました。だから、フルトンが前に出るという予想外の構図ができたんです。

 井上選手はジャブボディーを突いて、そこから右ストレートを上に返し、最後はフックで倒しましたが、途中のラウンドでもフルトンが結構被弾してる場面がありました。パンチのもらい方がどんどん悪くなっていたんですね。それでだいぶダメージが蓄積していたということです。フルトンとすれば、なかなかポイントも取れないし、ボディーを効かされてガードを下げさせられたところで上のストレートですから、もう完勝ですよね。

 ただ、フルトンも強かったと思います。フルトンとしては距離を取って戦いたかったはずですが、分が悪いとみるや前へ出て食いつき、ポイントを取ろうとした。最後はKOされましたが、採点を挽回しようと勇気を持って前に出てきたし、さすがチャンピオンだと感じさせてくれました。

 リングに上がる前からの言動を含めて、やっぱり王者の戦い方というか、勝ちに徹する精神状態の持っていき方というか、そういうのが垣間見られたと思います。試合中も少しでも流れを引き寄せようとして前に出ている。井上選手を相手にすると、普通なら途中でしのぐことで精一杯になる選手が多いんですが、フルトンは勝ちを狙いながら8ラウンドまで行った。やはり強いチャンピオンでした。

 井上選手はこの勝利で4階級制覇になり、次の試合ではWBAスーパー・IBF世界スーパーバンタム級統一王者のタパレス選手との4団体統一戦になる見込みです。タパレス選手の試合をそこまで見たわけではないですが、基本的に好戦的で結構パンチを振って相手を自分のペースに巻き込んでいくタイプ。井上選手がしっかり準備すれば、まず大丈夫でしょう。

 井上選手本人は35歳まで現役を続けると言っていますし、タパレス選手に勝ったらまた階級を上げてフェザー級に挑戦するのではないでしょうか。今の状態を見ていると、その上のスーパーフェザー級でもベルトを獲れる雰囲気を感じます。今回の身体つきを見ても問題ないし、期待は高まりますね。

[文/構成:ココカラネクスト編集部]

【解説】須佐勝明(すさ・かつあき)

1984年、福島県生まれ。会津工業高校から東洋大学へ。2012年、自衛隊体育学校所属時にロンドン五輪に出場。ロンドン五輪ミドル級金メダリストの村田諒太は東洋大学の1学年後輩にあたる。株式会社AYUA代表取締役。日本ボクシング連盟理事。SUSAGYM会長。アジアコーチ委員会委員長。共同通信社ボクシング評論担当。会津若松市観光大使。ほか。

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