【GT300マシンフォーカス】ポイントはリヤのジオメトリー変更。正常進化のホンダNSX GT3“Evo22”

2022年7月27日(水)17時0分 AUTOSPORT web

 スーパーGT300クラスに参戦する注目車種をピックアップし、そのキャラクターと魅力をエンジニアや関係者に聞くGT300マシンフォーカス。2022年シーズンの第4回は、ARTAがGT300クラスに投入する『ARTA NSX GT3』が登場。この2022年シーズンにはエボリューションモデル“Evo22”に進化を果たしたホンダNSX GT3について、チーフエンジニアの岡島慎太郎氏に話を聞いた。


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 2代目『NSX』は生産拠点がアメリカだったこともあり、2016年に北米で先行販売が行われ、翌2017年から日本での販売も開始された。レーシングマシンである『NSX GT3』においても、インディカーシリーズをはじめとしたアメリカにおけるホンダレーシングの前線基地であるHPD(ホンダ・パフォーマンス・ディベロップメント)が開発を行い、イタリアのJASモータースポーツで製造が行われ、日本国内における車両販売やサービス体制、パーツ供給などについてはM-TEC(無限)が担当している。同じく日本メーカーのニッサンGT-RニスモGT3やレクサスRC F GT3が純国産GT3マシンであるのに対し、NSX GT3はどちらかというと輸入車GT3マシンと言える、特殊な“日本車”である。


 NSX GT3は、北米では2017年からアキュラブランドで走り始めていたが、ホンダNSX GT3としてのスーパーGTデビューは1年遅れの2018年からだ。翌2019年には、新ターボチャージャー、最新のボッシュ製ABSなどを採用したEvo(エボリューション)モデルが登場。なかでもフロントスプリッター、リヤバンパーとディフューザーの見直しによるリヤのダウンフォース不足改善の効果が大きかった。2019年、ARTAではそれまで使用していた『BMW M6 GT3』から『NSX GT3 Evo』にマシンをスイッチし、高木真一/福住仁嶺によってGT300クラスのタイトルを獲得している。


 そして2022年、NSX GT3は『Evo22』へ、さらなる進化を果たした。


 Evo22によるアップデートポイントは多岐に渡る。だが、ARTAでは欧米での耐久レースを見越した燃料タンクの拡大、車室全体を冷やすエアコンシステムなどのアップデートは見送った。LEDの配置が変更されたヘッドライトは、軽量化もなされていることから導入したかったというが、デリバリーが遅れていることもあり現状では変更されていない。


 ARTA NSX GT3における“Evo22化”は、インタークーラー、スプリングレート、リヤのジオメトリー、レインライトの大型化である。


 インタークーラーは、これまで市販車と同じ樹脂製のものをそのまま使っていたが、金属製に変わった。ちなみに、NSX GT3はハイブリッドシステムの排除、エンジンマウントの構成などで市販車とは異なる部分もあるが、エンジン自体は量産モデル同様にアメリカ・オハイオ工場の生産ラインで組み立てている。市販車でも潤滑システムにドライサンプ式を採用していることもあり、GT3車両のなかでは市販車色が強い一台だ。


 金属製への変更は、「吸気温度を下げることによるノッキング対策が理由と聞いています」と岡島エンジニア。「実際、レース中の吸気温度は下がっています」。コアサイズは変わっておらず、パワーが大きく向上するほどのものではないようで、基本的にはノッキング対策による信頼性の向上が狙いなのだろう。ただ、夏場における吸気温度の上昇を抑えられればパワーダウンを防げるはずで、ここは夏場の富士ラウンドでの最高速に注目したい。

リヤのエンジンルームまわり
搭載されるエンジンは3501ccのV6ツインターボ
金属製に変更されたインタークーラー


 Evo22化によるトピックはリヤのジオメトリー変更だ。なお、NSX GT3のジオメトリーはバリアントではなく、「調整幅が増えた」ということではない。「ホモロゲートされたジオメトリーが変わった」というのが正しい。


「ロールセンターが上がり、アンチフォースは増加する方向になり、リヤの全体的な動きが減りました」(岡島エンジニア)


 前後の車両姿勢の変化を抑制できるようになり、ブレーキング時のリヤリフトが改善されたという。ただし、それによってセッティングの見直しも余儀なくされた。「単純にこれまでと同じスプリングやダンパー、バンプラバーの使い方では、ちょっと対応できないです」と岡島エンジニア。


 スプリングはこれまで、前後それぞれでホモロゲートされた5種類のレートからしか選ぶことができなかった。しかし、今年からのレギュレーションでその縛りがなくなり、自由にレートを変更できるようになった。セッティングの幅が広がったわけだが、「スプリングレート、ダンパーの減衰力調整、バンプラバーの当て方など、まだ探っている状況です」とのこと。

フロントサスペンションまわり
ARTA NSX GT3のリヤサスペンションまわり


「NSX GT3の車両特性、キャラクターが変わるほどではないですが……」と岡島エンジニアは言うが、それほどにリヤのジオメトリー変更による変化は大きかったということだろう。そこにはタイヤ特性とのマッチングの影響もありそうだ。ブリヂストンタイヤを装着するARTA NSX GT3に対し、ヨコハマタイヤユーザーのUPGARAGE NSX GT3は第1戦岡山で2位表彰台と早々に結果を残している。


 そのことに対し、「あくまで僕のイメージですが、ヨコハマタイヤのほうが構造の剛性が強いように感じていて、足が動かない方向にいったとき、タイヤのキャパシティがあるのかもしれないです」と岡島エンジニアは予想した。


 今季、UPGARAGE NSX GT3では若手の太田格之進が起用されたが、NSX GT3を知り尽くした小林崇志がいる。一方、ARTA NSX GT3はベテランと若手という組み合わせは同じながら、武藤英紀と木村偉織は今年初めてNSX GT3でGT300に参戦する。この違いも大きいのではないか。ただ、タイトル争いの常連であるARTA NSX GT3がこのまま黙っているはずはない。NSX GT3が得意とする富士、鈴鹿、SUGOでの巻き返し、そして同じNSX GT3を使う最大のライバルである2台の戦い。どのような結果になるのか、残り5戦も目が離せない。

冷却系の補機類などが収まるフロントベイ
ブレーキはフロント6ポッド、リヤ4ポッドのブレンボ製を装備
ARTA NSX GT3のコックピット
ARTA NSX GT3のステアリングとスイッチ類
シートはスパルコ製
ARTA NSX GT3のチーフエンジニアを務める岡島慎太郎(左)
土屋圭市エグゼクティブアドバイザー(左)と話す木村偉織(中央)と武藤英紀(右)
2022スーパーGT第3戦鈴鹿 ARTA NSX GT3(武藤英紀/木村偉織)

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