7年ぶりの1-2を達成したミシュランの進化のポイント。結果以上に「タイム差に誇り」【スーパーGT第3戦GT500決勝】

2021年8月29日(日)12時0分 AUTOSPORT web

 2021年のスーパーGTでは、GT500クラスに参戦する2台のニッサンGT-RニスモGT500にタイヤを供給するミシュラン。8月21〜22日に鈴鹿サーキットで開催された第3戦では、2台ともに予選Q2に進出し、決勝では見事にMOTUL AUTECH GT-Rが優勝、そしてCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rも2位でフィニッシュし、2014年第5戦富士以来のワン・ツーフィニッシュを達成した。


 そんな第3戦後、ミシュランで長年スーパーGTタイヤの開発を担当する小田島広明モータースポーツダイレクターに、レースの感想やトップ争い、また今回のタイヤ開発状況などについて話を聞いた。


 同じく鈴鹿サーキットで開催された昨年の第6戦以来となる勝利の美酒を味わった小田島氏は、まず「ホッとした」と切り出し、タイヤメーカーとしての胸の内を明かした。


「同一車種の中でのタイヤ競争を、きちんとタイヤメーカーとして戦うということが大前提の中で、今回の鈴鹿は“GT-Rが非常に強いレース”という印象が強かったと思いますが、そのなかにもタイヤメーカーの競争の縮図があります。そこで優位性を示すことができたのかなと思います」


 続けて、23号車MOTUL AUTECH GT-Rがソフトタイヤで3番手、3号車CRAFTSPORTS MOTUL GT-Rがミディアムタイヤで7番手につけた予選については「公式練習と予選から、日曜日の天気を見越して選択肢が別れたところもありますが、どちらも間違っていたかと言うとそうではなく、狙いの部分とドライバーの好みの部分が出ました」と振り返った。


「どちらのスペックを選択しても、優位になる可能性とリスクテイク(危険を承知で行う)をしなくてはいけません。ですが、どちらのチームも選んだタイヤを見るとリスクよりもメリットのほうが大きい、使いこなす自信があるという選択になりました。なので、どちらのスペックもきちんとチームの要望どおり機能したということは、タイヤ供給側としては非常に満足しています」

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 MOTUL AUTECH GT-R(松田次生/ロニー・クインタレッリ)


 そんな予選を経て迎えた日曜日の決勝レースは、気温31度、路面温度43度という週末最高気温を記録した。これは予選時と比べると路面温度は10度以上(予選日の気温はQ1開始時27度、路面温度31度)温度が上がっている状態だ。そんな決勝に23号車は第1スティントをソフトで挑むことになったが、小田島氏はタイヤについて「正直ちょっとキツい領域に入るかな」と心配していたという。


「実際は30度ちょっとの温度域でも予選のようにフルプッシュをすると、やっぱりちょっとグニャグニャ感といいますか、剛性不足のようなソフトタイヤのウィークポイントが見え隠れしている状態でした。そのことを松田(次生)選手からフィードバックを受けたロニー(クインタレッリ)選手もその気配を感じたのか、予選ではうまくタイヤをマネジメントしてくれて、きちんと1周をまとめてくれました」


 23号車がそのような状況でもソフトを選んだ理由は、予選時の天気予報にあった。


「(予選時の)日曜日の天気予報が『決勝の第1スティントで少し雨がぱらつく』というのがありました。そうなると、そういった状況でもソフトの方が熱的に維持できます。チームがそういった視点でソフトを選んだので、我々としては『そこまで見据えるなら良いのではないか』ということで否定しませんでした」


 一方の3号車はミディアムを選択したが、こちらについては「ミディアムのほうがタイムもしっかりと出るしレースペースも安定する。そして温まりについての問題もあまり感じられない」という理由での選択となった。

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 CRAFTSPORTS MOTUL GT-R(平手晃平/千代勝正)


■高負荷サーキットではピックアップ対策に加えブリスターへの対応も


 予選と決勝第1スティントでは両マシンのタイヤ選択が別れたが、レース中にはミディアムを履く3号車のフィードバックが23号車に伝えられたことにより、第2スティントは「天気も大丈夫だろう」という判断で23号車もミディアムへスイッチとなった。


 そしてレース後半には、トップのCRAFTSPORTS MOTUL GT-Rと2番手のMOTUL AUTECH GT-Rによるミシュラン同士の首位争いが繰り広げられた。小田島氏はこのとき「やはり後ろから迫ってくるほうが勢いもありますし、正直どこかで追いつかれるだろうな」と思いながらレースを見ていたという。


「しかし、何よりも(ミシュランを履く)3号車と23号車が後続の24号車(リアライズコーポレーション ADVAN GT-R)を大きく引き離していました。通常のレースでトップ争いをしている2台が、3番手以下を大きく引き離すことは鈴鹿ではあまりないことです。そういった意味では、タイヤメーカーとしては非常に誇りに思えるレースだなと感じていました」


 レースは23号車が3号車をオーバーテイクして優勝を飾り、2位に3号車が続いてミシュランがワン・ツーフィニッシュを達成。結局23号車は3位でフィニッシュした24号車に20秒差をつけフィニッシュとなった。レース中のタイヤ状況については、ペースに影響のあるようなピックアップはどちらのスペックでもなかったとのことだ。

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 トップ争いを繰り広げるCRAFTSPORTS MOTUL GT-RとMOTUL AUTECH GT-R


 続けて小田島氏は、鈴鹿に持ち込まれたタイヤの進化ポイントについて聞かれると、即座に「ブリスター対応」と答えた。


 ブリスターとは、タイヤコンパウンド内の温度が異常に上がって火ぶくれができ、高速で回転するタイヤの遠心力によって火ぶくれ部分の表面のゴムが飛び散り、タイヤの表面にくぼみができてグリップダウンを招いてしまう現象だ。このブリスターへの対策については詳しく言えないとしながらも、以下のように語っている。


「やはりピックアップへの対応とともに、タイヤの大きなグリップダウンの要素がブリスターです。特に鈴鹿のようにタイヤへの負荷が大きいサーキットでブリスターが出てしまうと、著しくタイムが落ちてしまうこともあります。全体ではピックアップへの対策をしていますが、高負荷レンジのサーキットではブリスター対策もしています」


 ひと言に“ブリスター対策”というとタイヤコンパウンドを硬めにするイメージがあるが、小田島氏によると「必ずしも硬いゴムにしてブリスターに対応できるかと言うと、そうではない」という。


「単純に硬いゴムにしてスライドが大きくなってしまうと、そのスライドによってまた熱が出て、熱が出たところでブリスターになってしまうという悪循環もあります。ですので、ソフトのゴムでもきちんとスライドを抑えて伝達が適切にできていて、温度マネジメントができていればブリスターというのは防ぐことができます」


 最後にスポーツランドSUGOで行われる第5戦について「事前のテストや準備ができていない状態ですし、昨年もレースが開催されていないので、ちょっと手探り的な要素が大きくなると思います」と語った小田島氏。ワン・ツーフィニッシュで勢いに乗るミシュランが“魔物が住む”と言われるSUGOでどんな戦いを見せてくれるか注目だ。

2021スーパーGT第3戦鈴鹿 フィニッシュ後にタイヤをチェックするロニー・クインタレッリ(MOTUL AUTECH GT-R)
2021スーパーGT第3戦鈴鹿ではニッサンGT-Rが表彰台を独占。そのなかでミシュランがワン・ツーフィニッシュを達成

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