低重心化と空力追求した現行型ニッサンGT-R GT3。KONDO RACING平峰「コーナーの安定性は旧型から向上」/GT300マシンフォーカス

2019年10月30日(水)18時57分 AUTOSPORT web

 14車種29チームがしのぎを削る2019年のスーパーGT300クラス。そのなかから1台をピックアップし、マシンのキャラクターや魅力をドライバー、関係者に聞いていく連載企画。2019年シーズン第5回目は、GT500でも勝利を挙げてきた名門KONDO RACINGとともに、GT300クラス参戦を果たした現行モデルとなる2018年型『ニッサンGT-RニスモGT3』をチョイス。新規参戦チームのエースを託された平峰一貴に、マシンのインプレッションを聞いた。


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 GT300クラスへのデビュー以降、一貫してランボルギーニをドライブしてきた平峰は、この2019年から心機一転。近藤真彦監督率いるGT300新規参戦のKONDO RACINGに移籍し、現行型GT-R GT3のステアリングを握ることとなった。

2019年、新たにGT300クラスへ参戦を開始したKONDO RACINGに加わった平峰一貴


 その平峰は、JLOCから参戦したスーパーGTでの活動と並行して、スーパー耐久(S耐)では2016年からKONDO RACINGよりGT3カーで争われるST-Xクラスに参戦。初年度にはシリーズチャンピオンも獲得し、都合3シーズンにわたってチームやGT-Rとともに戦ってきた。


 平峰がS耐で3シーズンをともにしたのはGT-Rは“15spec”と呼ばれる1世代前にあたる旧型モデルだったが、この2019年はGT300新規参戦のチームとともに“18spec”と呼ばれる現行型でシリーズを戦うことになった。同じGT-RニスモGT3ながら、性能面ではやはり大きく異なるフィーリングだという。


「15年型GT-RにはS耐で3年間乗らせてもらって、タイヤメーカーも2年間がヨコハマ、最後の1年がピレリでした。15年モデルは今の新型に比べると、全体的なバランスで言えばフロント周りで少しダウンフォースが少ない」


「ただ、メカニカルな部分での剛性はしっかりあって、うまくセットを合わせれば今でも非常に速いクルマです。変なクセもなく、しっかりとパワー感のある非常にいいクルマでした」


 2012年登場の初代GT3モデルから数えて3度目の“エボ”となった現行の18specは、フロントバルクヘッド部分の剛性強化やサスペンション取り付け部やアームスパン見直しによるジオメトリーの最適化、エアロ刷新などの細かな改善に加えて、最大のトピックスとなったのがエンジンのドライサンプ化。これにより、車両重心を大幅に下げることに成功している。


「それに対応した足周りの変化によっても、15年型に比べて安定性が増してタイヤの接地感がリニアになって、より多くタイヤの接地面を使えているという風に感じています」


「あとは僕が一番この18年モデルに乗って感動したのはシフトです。ミッションも変わっているんですよ。それによって、15年型に比べてシフトアップもダウンもすごくスムーズなんです。とても感触がいい」


 エンジンのドライサンプ化によるマウント位置の160mm引き下げに合わせて、リヤに位置するトランスアクスルのミッションもXトラックの横置き汎用品にスイッチ(同時にプロペラシャフトも変更)。これによりさらなる小型化と低マウント化が可能となった。


「15年型はちょっと(シフト時の作動)音もデカかったですけど、例えばドライバーがシフトダウンしてブレーキングに入った際に、シフトショックが大きいとやはりクルマの挙動は多少なりとも乱れてきます」


「それが何十周も続くと、例えばタイヤ無交換作戦を採りたいときでも、少しずつタイヤに負担が掛かっていくということにもなります。(18年型GT-Rは)そういう機械的な部分でも進化してて、かつドライバーの操作もしやすいのが強みです」

リアライズ 日産自動車大学校 GT-R(フロントビュー)
リアライズ 日産自動車大学校 GT-R(サイドビュー)
リアライズ 日産自動車大学校 GT-R(サイドビュー)
リアライズ 日産自動車大学校 GT-R(リヤビュー)


■スーパーフォーミュラ戦うKONDO RACINGならではの道「とにかくダウンフォース重視」


 そうした車体側の進化に伴って、より性能比率が高まったのが空力の分野だ。GT3の最新潮流でも、ダウンフォースはもはや無視できないメインストリームとなっているが、この18specもトレンドに沿った進化を遂げている。


「15年型に比べると、まずダウンフォースは全体的に増えている。とくにフロント周りはスプリッターの設計も変わって、高速コーナーでの安定性がすごく上がっています」

2018年型のニッサンGT-RニスモGT3は空力面でも大きく手が加えられた
2018年型のニッサンGT-RニスモGT3は空力面でも大きく手が加えられた


「開発段階ではフロントがかなりシャープに入ってくれる分、リヤを振り回してしまう傾向にあったみたいですが、そこはニスモの開発担当のみなさんが仕上げてくれて、今はすごく安定しています」


「リヤのダウンフォースもしっかり感じられて、コーナーでの安定性は15年型GT-Rに比べてかなり向上しているんじゃないかと思いますよ」


 それに加えて、歴代のGT-Rが耐久で強さを誇ってきた要因、「セットアップ変更に素直に反応する」個性も、この最新モデルにしっかりと受け継がれているという。


「乗ってて非常に楽しいし、ドライバーの思ったとおりに反応してくれる。コンディションによってアンダーステアやオーバーステアが出てしまっても、セットアップの変更を加えるとしっかり反応を示してくれる。その反応の良い悪いは別として、例えば車高などをいろいろと試すと、その影響がすごくわかりやすいんです」


 空力性能の向上=車高変動に敏感になる、というイメージが一般的だが、このGT-Rでもその傾向は避けられない状況。それでいて、これまでのGT-Rは「足をしっかりと動かして、路面を捉える」という、ハコ車のセオリーに即した特徴を備えていた。


 しかし平峰とKONDO RACINGは、こうした18specの特性をもとに他陣営とは異なる方向性にトライしている。


「GT-Rを使っている他チームが実際にどうセットアップしているかまでは分からないですけど、ダウンフォースではなくてメカニカル重視のセットアップをしているチームが多いかなという印象があります」


「対する僕たちはとにかくダウンフォース重視。レイク角もそうですし、車高についてもどこまで攻めていけるかという範囲や領域があるので、そこをうまく掴みたいと思ってやってきました」


 開催各コースのスピード域も違えば特性も異なるものの、基本はダウンフォースを最大限に活かすポイントを追求しつつ「あとはタイヤのキャラクターによって足周りを合わせる」方向性でセットアップの進化を重ねてきた。


 しかしこれも変更範囲の少ないGT3では諸刃の剣で、ダウンフォース重視で硬めのセットアップを採用すれば、それ以外の微調整にはタイヤ性能への依存度が高まることも意味している。


「そうなんですよね。タイヤへの負担という点では、GT-Rは(メルセデス)ベンツやランボルギーニ、ポルシェなどとに比べたら少し大きいのかなというのはあります。ただ、基本チーム自体がスーパーフォーミュラやGT500もやっているので、ダウンフォースが大事だというのは重要な部分で、ぼくたちの共通認識です」


「とくに新型になった18年型GT-Rではクルマの下面やフロントのスプリッターを筆頭に、いろいろな部分で空力性能がアップしてるので、そこをうまく利用していきたいという考え方ですね」


 この確固たる方針により、チームはクラス参戦初年度ながら最終戦までタイトル争いの輪に加わるなど、つねに戦えるところを見せつける内容の濃いシーズンを過ごしてきた。

チームは第2戦富士でポールポジションを獲得してみせた


「(好調を支えている要因の)1番はシーズンのかなり早い段階(第2戦富士)でポールポジションを獲れたということ。それと2回目の富士も重たい状態でQ1トップが獲れましたし、Q2でも(サッシャ・フェネストラズが)いい仕事をしてくれた」


「スピードに関しては、他のチームより(テストでの走行)距離が少ない割にいい状態じゃないかなとは思います。もちろん、これに満足しているわけじゃないですけどね」


 ちなみに平峰が所属するKONDO RACINGといえば、やはり近藤真彦監督の存在は外せない。

チームの指揮を執る近藤真彦監督


 S耐参戦時代から近藤監督とともに戦ってきた平峰も「やはり近藤(真彦)監督に初めてお会いする前は、すごく緊張したんですよ。レース業界では普通に監督としてお仕事されてますが、サーキットの外に出たら簡単にお会いできる人じゃないですから」という。


「それなのに初めてお会いしたのは僕がトランポで着替えてる最中だったんです。奥でほぼ“すっぽんぽん”の状態で。外から『おつかれさまです、どうぞ』とか声が聞こえたので、そのときは『誰か来たんだな』くらいに思っていたので、まさか監督だとは……。ほぼ全裸で『初めまして、平峰です』って挨拶しました(笑)」
 そんな近藤監督のもとで走るのは、「ドライバーだけの仕事に集中させてもらえるので、とてもやりやすい」とも語る。


「ドライバーのメンタルや気持ちの部分を理解されていて、もちろん監督自身もレースを走られていた方なので、その点では本当に優しいです。もちろん甘やかすという意味じゃなくて、ドライバーの立場を考えた優しさがあります。一方で、集中するときは本当にみんなをその空気にさせてくれますし、やはり勝ち方を知っている方だと」


 2018年にはスーパーフォーミュラでチームチャンピオンに輝き、2019年はニュルブルクリンク24時間レースへの参戦も開始するなど、確実にチームとしての戦闘力は高まっている。


 また2019年のシリーズ戦最終戦が行われるツインリンクもてぎは、平峰が2018年に自身初のポールポジションを記録したトラックであり、その流れを踏まえた今季の戦いぶりに手応えを感じているという。


 何より、大排気量自然吸気エンジンを積み、長いストレート後半での伸びを武器としたランボルギーニ・ウラカンGT3とは異なり、最高速への到達時間が異次元の速さを誇るツインターボ、VR38DETT搭載のGT-Rで戦うもてぎだけに、ストップ・アンド・ゴーでの勝機は高いはずだ。

第4戦タイではクラス2位表彰台を獲得。最終戦でもチャンピオン獲得権を残す


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