勢いだけではなかった「史上最大の下剋上」 なぜDeNAはセ3位から日本一になれたのか? 関係者が舌を巻く緻密戦略【独占】
2024年11月16日(土)7時0分 ココカラネクスト
悲願であった日本一を達成し、三浦監督は笑顔で宙を舞った。(C)産経新聞社
「史上最大」と評された下剋上を達成した要因は?
「チームがどんどん、より1つになってきたなと。グラウンドで戦っている選手だけでなく、ベンチにいる選手、ブルペンにいる選手、スタッフが全員同じ熱量で戦えているなと日々感じてました」
レギュラーシーズンを3位で終えたDeNAの三浦大輔監督は、クライマックスシリーズ(CS)の激戦を勝ち抜いた際に、そう確かな手応えを口にした。
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その手応えは大きな結果に結びついた。阪神と巨人を破った勢いのまま挑んだソフトバンクとの日本シリーズ。本拠地で連敗スタートながらも敵地で3連勝を果たすと、再び戻ってきた横浜スタジアムでパ・リーグ王者に11-2で快勝。“ハマの番長”は歓喜の輪の中心で5回宙に舞った。
決して万全のチーム状況ではなかった。正捕手の山本祐大がレギュラーシーズン後半に右尺骨を骨折し、エースの東克樹もCSのファーストステージで左太腿裏の肉離れと、昨季の最優秀バッテリーを欠いた。さらにシリーズ中には4番のタイラー・オースティンも自打球で打撲と主力がこぞって満身創痍だった。それでもCSでMVPを獲得した戸柱恭孝に代表されるようにバックアップが大活躍。まさに“ワンチーム”となっての戴冠劇だった。
では、「史上最大」と評されたセ・リーグ3位からの下剋上を達成した要因は何か。三浦監督は「特にポストシーズンから日本シリーズでの一体感っていうのはね、選手だけじゃなくスタッフも全員で出せたのかなと思います。全員が本当に毎日毎日出し切って、いっぱい、いっぱいのところで最後までよく戦ってくれたと思います」と精神的な強さを分析する。
これに同調するのは、指揮官と同様に26年前の日本一を現役戦士として戦った鈴木尚典バッティングコーチだ。「CSからは今までにない一体感。選手だけではなく、スタッフ含めてのチームとしての一体感というものは、すごく強く感じましたね」と内部での空気感の違いを実感したという。
繰り返し語られた「一体感」。この背景には、「回数が増えていた」というミーティングの影響があった。「試合前に全員一回集まって意思統一することもやっていました」と明かす鈴木コーチは、話し合いの中で行われた勝利に向けたベクトルの再確認がプラスに働いたと強調した。
ペナントレースでは今年も夏場の勝負どころで大型連敗を喫し、首位とは大きく水を開けられた。昨季も勝てば優勝の交流戦最終戦や、勝てば2位となるペナント最終戦など勝ちきれなかったチームの幻影がよぎらなくもなかった。
不安は小さくなかった。それでも意思統一を図り、ブレなかったチームは今ポストシーズンで変貌した。守備では自然と細かなミスが減り、投手陣もピンチを凌ぎきる逞しさがあった。攻撃陣も後ろにつなぐ意識が徹底され、若手とベテランの力がマッチ。不利と言われた下馬評を覆し、泥臭く勝ち星をもぎ取った。
「ちょっと塁上を賑わしても、0点で帰ってくればいい」
無論、一時の勢いや一体感だけで日本一を掴めるほど、プロ野球は甘くない。
前出の鈴木コーチは「他球団はわかりませんが、うちは細かい色々なデータとかをしっかり出してますね。やるのは選手ですけど、そういうバックアップもしっかりできてると思いますよ」と首脳陣も重要視するアナリストの存在をフォーカスした。
綿密なデータ収集の影響を受けたのは打撃陣だけではない。相川亮二ディフェンスチーフ兼バッテリーコーチも「アナリストさんとバッテリーの感性がいい結果につながったんじゃないですかね」と語る。
「“イタチごっこ”じゃないですけれども、やった、やられたというなかで失点をしない。ちょっと塁上を賑わしても、0点で帰ってくればいいわけですからね」
相手チームを丸裸にし、肉を切らせながら骨を断った。実際、CSファイナルステージでは見逃し三振を「20」も奪取。日本シリーズでもピンチで6球連続チェンジアップを選択するなど、バッテリーは相手の想像の上をいく配球で相手打線を翻弄した。
「より追求した」(相川コーチ談)というバッテリーミーティングではアナリストから提供されるデータを軸に緻密な作戦を練った。
「ゲーム中でもこいつはこっちの方がいいんじゃないかとか、ここはインコースはやめといた方がいいぞとかっていう話は当然しました。最低限でこうした方がいいんじゃないかっていう提案は、コーチとして当たり前のことだと思うので」
その上で相川コーチは「決めるのはやっぱり本人たちなんで。最後の部分はやっぱりバッテリーの感性」とプレーヤーを称える。
「ミーティングでインコース行けと言っても、攻め方は何種類もあるじゃないですか。例えば3球のうち2球行けって言っても、初球なのか中間で行くのか、最後に行くのか。3球の中でもその人たちによって違いますし。ピッチャーもそうですよね。そこに意思決定するのはピッチャーなんで。バッテリーの意思決定がうまく反映されたからこその結果だと思います」
1勝の重みが増すポストシーズンの戦いは、三浦監督が就任時に掲げていた「選手、コーチ、スタッフ。そしてファン」が一丸となって戦う“横浜一心”の志が実を結んだ結果に他ならない。その精神的な要素に加え、データ分析に重きを置き、コーチにアナリスト出身者を登用するなど、他球団にはないユニークな試みが花を開いたことも重要なファクターだったと言えるだろう。
ようやく『勝ちきれない』という足枷を解いた三浦ベイスターズ。それでも指揮官は、「あれがゴールではないですし。143試合戦った中で今年は3位だったわけですから、誰も満足してません」と強調する。
「そこ(リーグ優勝)が来季の目標であることが大前提ですから、継続して進化し続けていかないといけないですね」
下剋上の先へ。目指すものは、もうひとつしかない。
[取材・文/萩原孝弘]