【レースフォーカス】表彰台に立った3人のインディペンデントライダー。最終戦リタイアのミルを襲ったトラブル/MotoGP第15戦

2020年11月24日(火)8時25分 AUTOSPORT web

 ポルトガルのアウトドローモ・インターナショナル・アルガルベで2020年シーズンのMotoGPは幕を下ろした。今回は最終戦で表彰台に立ったトップ3ライダー、中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)の2020年シーズン、そしてMoto3クラスでタイトル争いを演じた小椋藍(Honda Team Asia)に迫っていこう。


■表彰台に立った3人のインディペンデントチームライダー


 まずは最終戦ポルトガルGPで表彰台を獲得した3人のライダーから。ミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)が優勝、2位をジャック・ミラー(プラマック・レーシング)、3位をフランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)が獲得し、インディペンデントチームのライダーが表彰台を独占した。今季は実に9人ものウイナーが誕生し、さらに15戦中8戦でインディペンデントチームのライダーが優勝を飾っているシーズンだった。これまでの強さの定石とは違ったシーズンを象徴するような表彰台の顔ぶれだったと言える。


 優勝したポルトガル人ライダーのオリベイラにとっては母国グランプリ。アウトドローモ・インターナショナル・アルガルベはアップダウンが激しく、ブラインドコーナーも多い。攻略が難しいコースだと言われている。2年前に現地を訪れた際の記憶を引っ張り出してみると、メインスタンドからは丘の上の11コーナーから急激に下って12コーナーに入るのが正面に見え、その眺めにメインストレートからの高低差を感じることができる。


 10月上旬にはこのサーキットでテストが行われたが、MotoGPマシンによる走行ではなかった。MotoGP初開催のサーキットで、ライダーたちは初日からリヤやフロントを浮かせながらマシンを走らせ、特にフロントタイヤを路面に接地させることに腐心しているようだった。


 オリベイラはそのポルトガルGPで、予選で最高峰クラス初のポールポジションを獲得。決勝レースではスタートから他を寄せつけず、ポール・トゥ・ウインを飾った。そのペースは圧巻で、2周目を終えて2番手を走っていたモルビデリに対し、1秒以上の差を築いていた。モルビデリはオリベイラの速さに「2周の間、後ろについて走って、彼がこの週末の、そして今日のベストライダーだとわかったよ」と、決勝後の会見で述べた。まさに他の追随を許さぬ速さだった。


 ただし、母国グランプリとは言え、それが過剰に有利に働いたわけではない、というのがトップ3の見解である。


 オリベイラは「僕がこのサーキットについて違った知識を持っていること、特に風のなかでのライディングを知っていることについては同意するよ」としながらも、「でも、どのくらいアドバンテージがあったのかはなんとも言えない。金曜日にはみんないつもよりも長いプラクティスを行ったわけだし、スーパーバイクとは乗り方がまったく違うんだ。経験豊富なライダーが後方でフィニッシュして、まったくサーキットを知らない人が前でフィニッシュした。つまり、通常のグランプリだったということだよ。誰が勝つのか、勝たないのかという点ではね」と言う。


 2位のミラーは同地でのレースは初めてだったそうだが、「もちろん、サーキットを知っていることは役に立つよ。でも、ミゲールが言ったように、ここでレースをしたことがあるライダーがいるけれど、僕はまったくその経験がなかったわけだからね」と同意。


 モルビデリはミサノ・サーキットでの過去の経験をコメントに交えた。「僕はミサノでR1に乗って、それからMotoGPバイクで走ったことがあるけれど、それはまったくの別ものだったよ。まったく違う世界だった。彼は2016年にここでレースをしていた。僕もそれを見ていたよ。ここでほかのバイクで走ったかどうかは知らないけれど、ストックバイクなどで走ったとしても、それはMotoGPバイクとはまったく違うバイクということだ」


「同じサーキットで、スーパーバイクで走ったとしても、MotoGPとは違うスポーツだし、やり方も違う。まったく新たに合わせていき、自分をリセットしていかないといけない。ミゲールは今週、とても素晴らしい仕事をした。バイクをうまくセットアップしたんだ。彼がサーキットを知っているというのはそんなに重要ではなかったと思う。今日、彼は最強だった」


 オリベイラがこの日のベストライダーとして圧倒的な優勝を飾ったことを裏付けるものであるとともに、オリベイラとモルビデリのコメントは、MotoGPマシンを未経験のサーキットで走らせることがとても難しいものだということをうかがわせ、また、たった3日間で順応するライダーについても、嘆息すべきだとあらためて感じられるものだった。なにしろ、コースに慣れながらバイクのセッティングを模索し、フロント、リヤそれぞれ4タイプからのタイヤ選択──今大会では前後のハードタイヤにシンメトリー、アシンメトリーの2種類のタイヤが用意された──を行っていたのだ。初日2回のフリー走行は70分と長めに設定されたとはいえ、ハードな週末だったに違いない。


 さて、ポルトガルGPの結果により、コンストラクターズタイトルが確定した。この最終戦ではスズキのコンストラクターズタイトルがかかっており、3冠なるかと注目されていたのだが。ミラーが2位を獲得し、ミルがリタイア、アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)が15位となったことで、コンストラクターズタイトルはドゥカティが獲得。スズキはタイトルを逃し、さらにはヤマハにもポイントを逆転されて3位となった。


 前戦でチャンピオンを獲得したミルはこの週末に苦しんでおり、予選ではまさかの20番グリッド。予選では電子制御に問題を抱えていたということだ。そして決勝レースでは、1周目3コーナーでフランセスコ・バニャイア(プラマック・レーシング)と接触。このとき、ミルのマシンの左側とバニャイアの右腕が当たったという。バニャイアはその後、リタイアした。


 さらにその後、ミルは同じコーナーでヨハン・ザルコ(エスポンソラーマ・レーシング)と接触し、大きくポジションを落とすと、16周目にピットに戻りリタイア。予選の電子制御のトラブルは解決したものの、決勝レースでは別の問題が発生していた。


 ミルは「ペッコ(フランセスコ・バニャイア)には謝らないといけない。ちょっとアグレッシブすぎた」と反省を述べ、それから「ザルコがフロントに当たったからなのか、ペッコとの接触なのか、影響がどちらによるものだったのかわからないのだけど、それからトラクションコントロールがなくなった。トラクションがあるところとないところがあり、とても危険だった。タイヤが消耗していくと、どんどん悪くなっていった。それでリタイアしないといけなかった」とリタイアの理由を説明した。ミルには少々ほろ苦い、2020年シーズンの幕引きとなった。


■中上、“今季ベストレース”だった5位フィニッシュ


 中上はポルトガルGPの初日と予選日のフリー走行4回目にそれぞれ転倒を喫した。ともに4コーナーでの転倒で、左手をグラベルで打ち、予選ではコーナーによっては痛みを感じたときもあったのだとか。


 ただ、決勝レースではその影響を感じさせない走りを見せた。11番グリッドからスタートし、トップ3が抜け出すと、しばらくは4番手以降が大きな隊列のような形での展開が続いた。中上はしばらく10番手から9番手付近を走行し、終盤の残り5周、1コーナーで6番手を走っていたカル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)がコースアウトすると、続くコーナーで6番手に浮上。そしてこの周にドヴィツィオーゾを交わして5番手にポジションを上げた。この時点で、4番手のポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)とは3秒ほどの差があったのだが、中上は終盤にもかかわらずその差を詰め、最終的に4位フィニッシュのP.エスパルガロから0.692秒差の5位でチェッカーを受けたのだった。


 レース後、中上に今季のベストレースを尋ねると、この日のレースをひとつに挙げた。「レース中のパフォーマンスには満足しています。レース中にはかなりバトルしましたし、集団のトップでフィニッシュできてうれしいです。それに、ポルととても近かった。いいレースだったと思います」


 そして「あとは、アンダルシアGPもよかったです」と、もうひとつのベストレースを付け加えた。アンダルシアGPは、中上がマルク・マルケスを参考にしたライディングスタイルに取り組み始めた最初のレースで、それが奏功し4位フィニッシュを果たしたレースである。


 中上は今季、表彰台、そして優勝にも迫る走りを見せてきた。予選では1度のポールポジションを獲得し、フロントロウには4度並んだ。最終的なランキングは最高峰クラスでのベストとなる10位。飛躍のシーズンを送ってきたことは疑いようがない。「いい結果を出した時には、ホンダからのプレッシャーをすごく感じた」こともあったという。今季、ホンダは未勝利に終わっている。そのプレッシャーは、あるいはホンダライダーとしての宿命のようなものだったのかもしれない。


 少々話が脱線してしまうが、2020年シーズン、M.マルケスを欠いたホンダは上述のように未勝利に終わったばかりか、コンストラクターズタイトルではランキング5位。チームタイトルとしてもレプソル・ホンダ・チームが9位、LCRホンダが8位という結果だった。まさにM.マルケス、ただひとりが背負ってきたものの大きさを露呈した気もするのだが……。ともあれ、中上の話に戻ろう。中上は、こうシーズンを振り返っている。


「いくつかのレースでは、優勝を目指しました。でも、優勝について考えるのが初めてでしたから、マネジメントが難しかったです。外部からのプレッシャーも大きかった。いろいろなことをコントロールできませんでした。でも、昨年よりもいいフィーリングがあったと思います。たくさんトップ4、5フィニッシュできました。もちろん、表彰台は逃してしまいましたけれど、テルエルGPではポールポジションでしたしね」


「タフなシーズンではありましたが、なにしろほぼ毎週レースがあったので、翌戦に向けて準備をするのが難しい状況ではありました。でも、全力を尽くしたと思います。いいレースがあり、悪いレースもありました。でも2020年シーズンのパフォーマンスについては、満足しています」
 最高峰クラス4シーズン目の来季は、ファクトリーライダーと同じスペックのマシンが供給されることが決まっている。「うまくいけば、来年はチャンピオンシップ争いができるかもしれません」と言う。その言葉が力強く現実味を帯びる。


■Moto3クラスでタイトル争いを繰り広げた小椋藍


 Moto3クラスでは、最終戦ポルトガルGPまでタイトル争いが持ち越された。そしてそのタイトル争いのひとりに名を連ねていたのが、小椋藍(Honda Team Asia)だ。小椋は最終戦を前に、トップにつけるアルベルト・アレナス(Gaviota Aspar Team Moto3)に対し8ポイント差のランキング2番手につけていた。


 最終戦では、5番グリッドからのスタート。アレナスは6番グリッドスタートだった。序盤は上位にポジションを上げた小椋。やがて2番手をトップとする集団のなかで、接戦を繰り広げながら9番手付近を走行する。この集団にはアレナスも含まれており、終盤の残り4周では、小椋はアレナスとのオーバーテイク合戦を演じた。それは小椋の気持ちがあらわれているような走りだった。


 最終的に小椋は8位フィニッシュ。アレナスは12位となり、この結果により4ポイント差でアレナスがMoto3クラスのチャンピオンを獲得。そして、ランキング3番手につけていたトニー・アルボリーノ(Rivacold Snipers Team)が5位でフィニッシュしたことで、ランキング2位となり、小椋は同ポイントながら優勝回数の差で、ランキング3位でシーズンを終えた。


 motogp.comで公開されている日本人ライダーのコメント動画より、小椋のコメントを抜粋しよう。


「スピードが足らず、タイトルをねらうには厳しかったです。もう少しいい結果で最終戦を終えたかったのですが。リスクを負って、トライするところはトライしました。できるなかでベストに近いことはできました。シーズンをとおしてうれしく思っています」


 2年間、Moto3クラスで戦った小椋は、2021年シーズンはMoto2クラスに昇格。IDEMITSU Honda Team Asiaから参戦することが決まっている。惜しくもMoto3クラスでのタイトル獲得はならなかったが、来季はMoto2クラスでのチャンピオン争いを見せてくれるだろう。

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