シーズンオフ技術解説:20年で飛躍的進歩を遂げたF1エンジン。メルセデスが誇る耐久性の高さに迫る
2018年12月11日(火)13時12分 AUTOSPORT web
2018年シーズン、コンストラクターズチャンピオンシップ5連覇を達成したメルセデスは、パワーユニットの耐久性において圧倒的な安定感を見せた。前年と比べても年間で使用できるコンポーネントの数が厳しく制限されている中で、彼らの誇る耐久性はどのようにして築き上げられたのだろうか。
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1基のレーシングエンジンをここまで長く使い続けることは、F1GPの長い歴史でもこれまでなかったことだ。ほんの1年前と比較しても、エンジン寿命は約40%伸びている。
しかも驚くことに、パフォーマンスも同時に向上している。メルセデスV6ハイブリッドの生みの親アンディ・コーウェルが、その秘密を語ってくれた。
ここでもう一度おさらいすると、2018年はICE(エンジン本体)、ターボコンプレッサー、MGU-H(熱エネルギー回生システム)が年間3基、そしてMGU-K(運動エネルギー回生システム)、ES(エナジーストア)、CE(コントロールエレクトロニクス)は年間2基しか使えない。つまりICEなどの3ユニットは、2017年には1基あたり5戦で交換できたのに対し、今季は7戦使い続けなければならなかった。さらにMGU-Kやバッテリーは、10〜11戦の耐久性が要求された。
そんな中でメルセデス製パワーユニットの信頼耐久性は、群を抜くものだった。
■2018年シーズンのパワーユニット使用状況
ドライバー | チーム | パワーユニット | V6 | Turbo | MGU-H | MGU-K | ES | CE |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
ハミルトン | メルセデス | メルセデス | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
ボッタス | メルセデス | メルセデス | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 |
ベッテル | フェラーリ | フェラーリ | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
ライコネン | フェラーリ | フェラーリ | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
リカルド | レッドブル | ルノー | 5 | 6 | 5 | 5 | 4 | 4 |
フェルスタッペン | レッドブル | ルノー | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 |
ペレス | フォースインディア | メルセデス | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
オコン | フォースインディア | メルセデス | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
ストロール | ウイリアムズ | メルセデス | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
シロトキン | ウイリアムズ | メルセデス | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
ヒュルケンベルグ | ルノー | ルノー | 5 | 6 | 5 | 4 | 4 | 4 |
サインツJr. | ルノー | ルノー | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 |
ガスリー | トロロッソ | ホンダ | 8 | 8 | 8 | 6 | 3 | 3 |
ハートレー | トロロッソ | ホンダ | 8 | 8 | 8 | 7 | 3 | 4 |
グロージャン | ハース | フェラーリ | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
マグヌッセン | ハース | フェラーリ | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
バンドーン | マクラーレン | ルノー | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 | 3 |
アロンソ | マクラーレン | ルノー | 4 | 4 | 4 | 4 | 3 | 3 |
エリクソン | ザウバー | フェラーリ | 4 | 3 | 3 | 2 | 3 | 2 |
ルクレール | ザウバー | フェラーリ | 3 | 3 | 3 | 2 | 2 | 2 |
■20年で飛躍的に進化したF1エンジン
「20年前のF1と比較すると、F1エンジンの開発の歴史には感慨を覚えざるを得ない」と、コーウェルは言う。
「当時は金曜日に1基、土曜日の朝に1基、予選用に1基を投入。さらに決勝当日には、朝のウォームアップ用に1基、レース用に1基と、1台あたり5基のエンジンをGP週末に投入していた。年間16戦だったら、80基ということになる。それが今はシーズンを通じて、たった3基なんだからね」
「そして予選時とレースでのパワー差は、20年前に比べれば非常に少ない。その意味するところはエンジンの長寿命化のために、パワーを抑えたりはしていないということだ」
「設計から開発、パーツ製作、メンテナンスに至るまで、実に緻密な作業を行ってきたおかげだと自負している。CAD(コンピューター支援設計)を始めとするコンピューターによる開発サポートが大きかったし、パーツの材質の進歩、表面仕上げの精度や潤滑油の飛躍的な進化も無視できない」
(技術解説その2に続く)