大ピンチを乗り越えた東洋大「20年連続シード」の快挙の根源、“嫌な予感”からアンカー薄根が1秒をけずりだす

2025年1月11日(土)6時0分 JBpress

(スポーツライター:酒井 政人)


シード権争いは壮絶なアンカー勝負

 青学大が大会新記録で駆け抜けた今年の箱根駅伝。シード権争いも“超ハイレベル”になっただけでなく、熾烈な争いが待っていた。

 復路鶴見中継所のタスキリレーは8位が東洋大、9位が帝京大、10位が順大。この3校の差はわずか11秒だった。さらシード圏内まで11位の東京国際大が21秒差、12位の日体大が26秒差につけていた。

 20年連続シードを目指す東洋大の酒井俊幸監督はアンカー薄根大河(2年)に「最初の1kmを速く入るように」という指示を出す。薄根は2分50秒切りのペースで突っ込むも、後続チームが猛追してきた。

 2.4km付近で東京国際大・大村佳紀(3年)が順大に追いつくと、5.6km付近で東洋大と帝京大にも並び、4チームが集団となったのだ。このうち1校だけがシード権を手にできない“サバイバルレース”になった。4校の集団は崩れることなく進んでいく。「嫌な予感が当たったなと思いました」というのは酒井監督だ。

「薄根はラストが強いタイプではないんですよ。正直、これはきついと思いました。どの大学もシード権を獲得するんだという覚悟を感じましたし、なかでも帝京大の1年生(小林咲冴)はすごく積極的でしたね。薄根はどれだけ溜めて、最後いけるのかという状況でした。あのような展開は恐怖心も出てくるんですけど、それ以上に走れなかった選手やチームの存在が、ラストスパートを苦手とする彼の背中を押したのかなと思います」

 集団に動きがあったのは22km付近。東京国際の大村がスパートすると、東洋大と帝京大が競り合い、順大が少し遅れる。

 大手町のゴールは8位が東京国際大で、1秒遅れで9位の東洋大、さらに1秒遅れで10位の帝京大。順大は217.1kmを走って、シード権に7秒届かなかった。


1秒をけずりだした鉄紺のアンカー

 4校によるシード権をかけたアンカー決戦。東洋大の10区薄根大河(2年)の心臓は走る前からバクバクしていた。ラスト勝負は「まったく自信がなかった」からだ。そして恐怖心と戦っていた。

「追いつかれた時点でずっと怖かったんです。自分のなかで5kmぐらいからずっときつくて、もしかしたらシード権を落とすんじゃないかなという思いが頭のなかを過りました。でも『その1秒をけずりだせ』というチームスピリットと、4年生が大手町のゴールで待っていると思うと、最後は1秒をけずりだすことができました」

 ラストが弱い男の渾身のスパートが炸裂。帝京大を突き放して、総合9位でゴールに駆け込んだ。

「本当に意地ですね。絶対に負けないと思って走りましたから。安心できたのはゴールしてからです。4年生の『ありがとう!』という言葉を聞いて、ホッとしました」


エース不在の窮地を乗り越えた

 前回まで19年連続でシード権を獲得してきた東洋大だが、今回は窮地に追い込まれていた。エース格の石田洸介(4年)がアキレス腱を痛めたため出場が難しくなると、2区に登録していた梅崎蓮(4年)も12月末に突発性のアキレス腱痛が発生。酒井監督は「途中でリタイアもあり得るかもしれない」と前回2区で8人抜きを演じた主将を外す決断を下したのだ。

 急遽、1〜3区の選手を入れ替える苦しいオーダーになった。2区の緒方澪那斗(3年)で19位に沈み、暗雲が垂れ込めたが、鉄紺が意地を見せる。当初復路に起用予定だった3区の迎暖人(1年)が区間8位と好走。さらに前回10区区間賞の岸本遼太郎(3年)が4区を区間3位と快走して、15位から9位まで順位を押し上げたのだ。5区の宮崎優(1年)も踏ん張り、9位を死守して往路を折り返した。

「2区が変わると、本当はバタバタ崩れてしまうのですが、急遽、変更した選手たちがよくシード圏内で持ってきてくれたと思います」と酒井監督は往路の選手たちを称えた。さらに復路も粘りの継走を披露する。

 7区の内堀勇(1年)で12位に転落するも、8区の網本佳悟(3年)が区間2位と踏ん張り、9位に押し戻す。そして9区の吉田周(4年)で8位に浮上した。アンカー決戦でどうにか総合9位を確保して、継続中の記録としては最長となる“20年連続シード”を獲得した。

「20年連続シードを確保できた安堵感はありますが、シード権のラインが非常に高くなっています。今回は4区の岸本、8区の網本。ふたりが区間3番、同2番で順位を上げてくれたのが良かった。シード権を取るレベルになると大きなブレーキが少ないので、区間賞に近い走りがないと大きく順位を上げられません。そういう快走を導いていけるように、チームを進化させなければいけないと感じましたね」(酒井監督)

 実際、どれぐらいハイレベルだったのか。今回は11位の順大が10時間55分05秒。このタイムは過去3大会でいえば5位相当になる。“高速化”が進む箱根駅伝。東洋大の“連続シード”が強烈な輝きを放つようになってきた。

筆者:酒井 政人

JBpress

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