「布団に8時間以上いる人は死亡リスクが高い」国内最高峰の研究で分かった〈睡眠休養感〉と〈時間〉の“知られざる関係”

2025年1月26日(日)7時0分 文春オンライン


健康長寿の秘訣は睡眠時間の長さだけではない……。国内最高峰の研究所、国立精神・神経医療研究センターで睡眠・覚醒障害研究部室長を務める吉池卓也氏が明かした、適切な睡眠の取り方とは?



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「7時間も寝たのに、体が休まった気がしない」


 朝起きて、「昨晩は7時間も寝たのに、体が休まった気がしない」と感じることがあります。これを睡眠研究の世界では「睡眠休養感がない」と表現します。最近の研究で、健康状態と睡眠休養感が大きく関係していることがわかってきました。また不思議なことに、長時間寝ても、睡眠休養感が上がるわけでもないのです。


 ただし、自分が本当に何時間寝たのか、正確に答えられる人は、実は少ないものです。「11時に寝て、朝6時に起きたから、7時間寝ました」と答えられても、それは「11時に布団に入って、6時に床から出た」ということ。寝付くまで多少は時間がかかりますし、本人が気づかないだけで夜中に眠りから覚めることもあります。「寝床にいる時間」(床上〔しょうじょう〕時間)=「睡眠時間」ではない、と理解してください。



朝目覚めたときの睡眠休養感が重要 Ⓒイメージマート


 前述した通り、睡眠時間は年齢とともに短くなりますが、55歳くらいから床上時間が延びていくことがわかっています。歳をとるほど、実際に眠れる時間よりも、長く寝ようとしているわけです。


床上時間8時間以上の人は、死亡リスクが高まる


 ところが、シニア世代で床上時間が8時間以上の人は、死亡リスク(総死亡率)が高まることが、私たちの研究で明らかになったのです。


 私が所属する国立精神・神経医療研究センターで、睡眠の質と量が、寿命と健康にどのように関係しているのか、約6000人(40歳以上)を平均11年間、追跡調査したデータをもとに分析しました(結果は、2022年1月にイギリスの科学誌『サイエンティフィック・リポーツ』で発表)。


 着目したのは、実際の睡眠時間、床上時間、睡眠休養感の関係です。実際の睡眠時間と床上時間を明確に区別するために、携帯型脳波計を使って、脳波を測定しました。本当に眠っているのか、横になっているだけなのか、その違いは脳波で区別できます。


 加えて、参加者には朝目覚めた時に睡眠休養感を5段階で申告してもらいました。起床直後に回答してもらうことで、さまざまなバイアスを避けることができるからです。


床上時間が長いのに睡眠休養感がないと死亡リスク増


 この調査の結果、わかったのは、シニア世代は、睡眠時間が短くても死亡リスクは高まらないが、床上時間が長いのに睡眠休養感がないと死亡リスクが増すということです。


「床上時間が7〜8時間で、睡眠休養感あり」の人を基準にすると、「床上時間が8時間以上で、睡眠休養感なし」の人は、1.57倍も死亡リスクが高まります。しかし、「床上時間が8時間以上」でも「睡眠休養感あり」だと、死亡リスクは1.14倍に抑えられました。


 では、働き盛り世代ではどうでしょうか。「睡眠時間が5.5〜7時間で、睡眠休養感あり」の人を基準にすると、「睡眠時間が5.5時間未満」の人では死亡リスクが明らかに高まっていました。そのうち「睡眠休養感あり」の人で1.34倍、「睡眠休養感なし」の人は1.54倍にも死亡リスクが跳ね上がっていました。


 また、働き盛り世代では床上時間と死亡リスクの間に、はっきりとした関係性は見られません。つまり、働き盛り世代は、床に長くいても寿命にあまり影響がないものの、6時間を切るような短い睡眠時間で睡眠休養感がないと、かなり健康に害を及ぼすのです。(構成 石井謙一郎)



※本記事の全文は「文藝春秋 電子版」に掲載されています(「 睡眠休養感を高める 」)。全文では、シニア世代の平均的な睡眠時間、体内時計の加齢による変化、睡眠休養感の重要性、良い睡眠のために避けるべき三大物質、布団の中でしてはいけないことなどについて詳細に語られています。



〈特集〉睡眠は最高のアンチエイジング 記事一覧


#6  グッスリ快眠は寝具選びから(埼玉県立大学教授・有竹清夏)
#5  睡眠休養感を高める(国立精神・神経医療研究センター・吉池卓也) この記事
#4  睡眠薬は劇的に変わった(国立精神・神経医療研究センター・松井健太郎)
#3  世界的睡眠研究者の熟睡法(東京大学大学院教授・上田泰己)
#2  カラダは睡眠中に修復される(早稲田大学睡眠研究所所長・西多昌規)
#1  7時間睡眠を取り戻す12のメソッド(筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構機構長・柳沢正史)



《私の不眠解消法》
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(吉池 卓也/文藝春秋 2025年2月号)

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