私が女性消防団員になった理由。

2024年1月27日(土)11時0分 ソトコト


「田舎に移住したら、消防団に入らないといけない」という話を聞いたことがある人、多いのではないでしょうか? それは事実か否か。第25回全国女性消防操法大会で優良賞を受賞した、館山市消防団女性消防部のみなさんに、ふだんの活動や入団した理由について話をうかがいました。


消防団って、どんな活動をしているの?


田舎で暮らしていると、防災無線で「〇〇エリアで火災発生」というアナウンスが流れることがあります。すると地域の消防団がいち早く消火作業に向かい、それは普段から訓練をしているイメージもありますが、実際の活動内容はどういったものなのでしょうか。館山市のサイトにある消防団のページをチェックしてみました。



【平常時】                              


・火災から住民を守るための火災予防や広報活動    


・災害活動力を高めるための消防訓練            


・消防機械器具の点検等                     


・行方不明者の捜索      


【災害時】


・火災や風水害などの災害に出動           


・地震災害における住民の救護活動や避難誘導


・災害現場の情報収集、広報及び警戒活動


館山市ホームページ(https://www.city.tateyama.chiba.jp/anzen/page100070.html)

火災だけでなく、風水害や地震災害時にも出動し、地域住民を守るために訓練を続けている様子がうかがえます。市のサイトに「女性団員歓迎」の文字がありましたが、全国的に女性の消防団員数はどのくらいいるのでしょうか。


「消防防災・震災対策現況調査」によると、平成2年1,923人だった女性消防団員数は右肩上がりに増え続けていて、令和2年には27,200人になっています。



消防団の組織の活性化や地域のニーズに応える方策として、女性消防団員を採用しようという動きも全国的に広まっています。 女性の持つソフトな面をいかして、住宅用火災警報器の普及促進、一人暮らしの高齢者宅の防火訪問、住民に対する防災教育及び応急手当の普及指導等においては、特に女性消防団員の活躍が期待されています。また、消火活動や後方支援、操法訓練にも参加しています。


消防庁ホームページ(https://www.fdma.go.jp/relocation/syobodan/activity/women/success/

館山市消防団女性消防部の始まりと、集まったメンバー


写真提供:館山市消防団女性消防部

千葉県館山市では女性部を作ろうと動いていた市の消防団員が、同級生の子どもを持つ親たちに声をかけ、説明会を開きました。「災害時に見ているだけの被災者にならず、自ら動いてくれる女性団員が必要」という団長の話を聞いて共感した母親たち。彼女たちが中心となり、2018年4月に11人で館山市消防団女性消防部のスタートを切りました。


何ができるか自分たちで考え、市の広報紙で防災知識啓発を行い、Facebookでは「館山市消防団女性消防部」のページを立ち上げ、活動を紹介しています。2019年に発生した令和元年房総半島台風では、地域の人たちとともに炊き出しを行い、老人宅を訪問して物資を届けたり、2000人を越える避難所での手伝いをしたりしながら成長していきました。


炊き出し訓練の様子。写真提供:館山市消防団女性消防部

そんな活動のお陰か、台風後に志願者が現れるように。地域のために何かやりたいという人たちに、「一緒にやりませんか?」と声をかけ、現在は19人で活動しています。活動している人は、地元が10人、移住者が9人のほぼ半々。年代の内訳は以下の通りで、60歳で定年を迎えます。


2023年10月現在。

全国女性消防操法大会へ出場


消防技術を競い合う2023年の全国女性消防操法大会に、千葉県代表として初めて出場することになった館山市消防団女性消防部。軽可搬ポンプを使った5人1組の消防操法で、タイムと規律、正確性を競います。


軽可搬ポンプを使った訓練。

10月の大会に向けて、1月から週に2回の夜間練習をスタート。夜間と昼間の練習を見学してみると、ピシッと整列して腹の底から声を出し、チーム揃った動作や全力で走る姿など、自分が今まで接したことのない世界がそこで繰り広げられていました。


ホースを目指す場所に投げる練習を何度も繰り返していた。

出場する人だけでなく、それを支える女性消防部や館山市消防団、市役所の人々。大人になってもこれほど真剣に全力で取り組むことができるのかと、驚きと尊敬の気持ちが自然と湧いてきます。


ホースを投げ終えるとすぐに回収し、巻き取って練習に使えるよう準備する関係者たち。

大会に向けて全力で努力し、力を出し切った結果、館山市消防団女性消防部は44チーム中8位で優良賞を獲得しました。大会に出た感想を聞いてみると、「一言でいえば楽しかった」と言います。その言葉の裏には、プライベートの時間がとれなかったり、普段から怪我をしないように注意し、全力で練習できるために体力を温存したり、家族の理解がないとできないという苦労がたくさんあり、それらを全力で乗り越えてきた結果の言葉なのだと想像します。


写真提供:館山市消防団女性消防部

努力と引き換えに手に入れたのは、仲間との団結力。「女性操法というチャレンジでチーム内のコミュニケーションが増え、一人一人との信頼関係も深まり、とても実のある経験でした」と、出場メンバーの一人である松田莉奈さんは話してくれました。


私が消防団に入った理由


それぞれ仕事や家事、子育てをこなしている彼女たち。月に2〜3回夜に集まり、防災や応急手当について学び、アイデアを出し合い、ときには近隣の学校へ防災講義に行くこともあるそうです。貴重な時間を割いて消防団に入り、活動しようと思ったのはなぜなのでしょうか。


夜に集まって応急手当指導のミーティング。

もともと、消防団の活動が身近だったという井田友海さんは、女性消防部員の友だちから食事に誘われ、ご飯を食べに行ったら入団の紙を渡されたそうです。


「『元気で動けるうちに、やれる人がやれる仕事をやればいい』て言ってくれて、確かにそうだと思った。活動すると大事なことがたくさんあって、身近な人を助ける知識も身に付きました。色んな人と関われてやりがいも感じているけど、始まりはナンパでした(笑)」


井田さんのように、現役の女性消防部員に誘われて消防団に入った人もいますが、市役所に貼ってあったポスターを見て、すぐに申し込んだという人もいます。


「女性消防部員を募集しているポスターを見て、女性でもなれるんだって思ってその場で申し込みました。もともと消防団員に興味はありませんでしたが、ポスターを見てかっこよくて、憧れを抱きました」


消防団の活動は、なんとなくハードなイメージが先行していましたが、実際に話を聞いてみると「できるときに、できる人が、できることを」という考えのもとに動いていて、家族を第一に考え、次に地域のことを考えて無理なく両立できるように活動をしていました。消防団で活動することによって、家族を守るための防災知識も学べるという好循環になっているようです。


意見を出し合い、避難所開設キットをまとめる作業も実行中。どの作業も、防災の知識が身に付きます。 ※避難所開設キットは、最初に避難所に集まった人たちが協力しあいながら避難所を開設できるよう、指示書や必要最低限の用具を一つの箱にまとめたもの。

田舎に移住したら、消防団に入らないといけない?


移住して10年以上になる私は、消防団に入らないかという声を一度もかけられたことがありません。女性ということもあるかもしれませんが、周囲の男性移住者に聞いてみると、「移住して地域に馴染んだころに声がかかった」という人やそうでない人もいるので、「必ず入らないといけない」わけではなさそうです。


ここで、なぜ田舎に消防団があるのかを、少し考えてみましょう。


「田舎は消防団がいないと火事が消えないんです。都会はそんなことはないと思いますが、地方へ行くほど財政状況なども相まって、常備消防だけでは消防車の台数も人も十分ではないのです」と、消防団の実情について話してくれたのは、館山市消防団女性消防部長の川名まひろさん。


館山市消防団女性消防部長の川名まひろさん。

消防団がない状態で大きな火災が起こったとき、消火に必要な消防車の台数が近隣の市町村から集まるまでに、かなりの時間を要します。近くに消防団があって、すぐに団員が駆けつけて消火にあたってくれるというのは、田舎で“安心安全”に暮らすために必要不可欠なこと。消防団員の減少は、自分たちの“安心安全”を脅かす危機的状況へと直結しています。


川名さんも「誰かが自分の仕事やプライベートの時間を割いて、地域を守っています。消防団だけではなく、田舎だからこそ、この地域で暮らす人たちがそれぞれに役割を担いながら、協力していかなければならないと思うんです。消防団もその役割の中の一つだと思います」と話してくれました。


移住先で、地域のために自分ができる役割は何か。その答えが見えているなら、できるときにできることを実践していきたいですね。「地元を知るには消防団に入るのが一番」という声もあるので、積極的に消防団に入って、地域に溶け込むのも一つの手かもしれません。





館山女性消防団Facebook:https://www.facebook.com/tateyama.shoubou.jsb/?locale=ja_JP


取材協力:館山女性消防団と館山市消防団のみなさま
写真:館山市消防団女性消防部、鍋田ゆかり
文:鍋田ゆかり

ソトコト

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