対照的?青学大のWエース、本番で120%の力を出せるメンタル術と今後の野望

2024年2月9日(金)8時0分 JBpress

文・撮影=酒井政人

 太田蒼生(3年)と黒田朝日(2年)。今年の箱根駅伝は青学大のWエースが度肝を抜く爆走を披露した。彼らの「強さ」は、アディダスの『ADIZERO ADIOS PRO EVO 1』 という〝スーパーシューズ〟のアシストだけではない。

 2人は独自のメンタル術を持っており、本番で自分の持ち味をいかんなく発揮した。


狙ったレースで120%の力を出せる太田蒼生

 太田は最もアオガクらしい選手といえるだろう。明るくて、ノリが良くて、注目を浴びる舞台ほど、燃え上がる。箱根駅伝のピーキングがうまい青学大のなかでも、その能力は突出している。

 3区太田は抜群のスピードを持つ駒大・佐藤圭汰(2年)を追いかけて、5㎞を13分51秒、10㎞を27分26秒で通過。これはトラックの自己ベスト(10000m28分20秒63)を大きく上回るタイムだ。

「あまり深く考えていませんでしたね。なるようにしかならないですから」と笑い飛ばしたが、箱根駅伝という舞台では、スピードキングに負けない自信を持っていた。

「一年に1回。ここに合わせて調整しているので100%。いや120%を狙って出せたかなと思います。佐藤選手には(箱根駅伝の)経験の差で勝てたかなという部分がある。レース戦略と状況判断もうまくきましたね」

 太田は21.4㎞を59分47秒で走破。この記録はハーフマラソンに換算すると58分56秒ほど。下り基調のコースとはいえ日本記録(1時間00分00秒)を大きく上回るものだ。

 このパフォーマンスは、「素直に化け物だなと思います」と黒田が表現するほどだった。

 1年時は3区で区間歴代3位(当時)、2年時は4区で同3位。太田は箱根駅伝で3年連続して快走したことになる。1・2年時は出雲と全日本の出場はなく、昨年は全日本7区を区間5位と好走しているとはいえ、箱根駅伝では毎年、異次元の走りを見せてきた。

 なぜ、このような離れ業が可能なのか。太田の言い分は実に面白い。

「もちろん調整はしていますし、一発狙っていますよ。でも一番大きいのは、モチベーションだと思いますね。箱根駅伝で活躍したという気持ちもありますし、凄く楽しみだな、という部分が大きいんです。だから世界陸上とかオリンピックの方が箱根よりもいいパフォーマンスができると思います。気分が爆上がりしますから」

 目立ちたがり屋のお祭り男。それが太田蒼生の「強さ」になっているようだ。では、どのように調子を上げているのか。もしくはゲン担ぎや、ルーティンはあるのか。太田は意外な答えを口にした。

「どちらかというと、『特別なことをしない』ことを大切にしています。試合前になると、いろいろやろうと考えている選手が多いと思うんですけど、僕は逆ですね。普段から振れ幅が大きくならないように心がけています」

 レース前日、元日夜の食事も「王将でバカ食いしました」と明かす。餃子定食を頼んだだけでなく、チャーハン、唐揚げ、肉野野菜炒めなどをチームメイトとシェアしたという。これも太田にとっての〝日常〟なのだ。


緊張しない男・黒田朝日

 一方、花の2区で区間賞を獲得した黒田も独自のスタイルを持っている。腕時計はつけずに出走。タイムは気にせず、自分の感覚を大切にしているのだ。

 太田は1学年下の黒田の強さを、「何も考えてないところです」というが、感覚的に100%以上のパフォーマンスを発揮する術を知っているのかもしれない。

 黒田は太田以上に本番でしっかりと走る選手だからだ。特に今季は駅伝だけでなく、トラックも外すことなく好走を連発してきた。

「トラックのスピードは僕の方があると思うんですけど、練習の消化率は太田さんと同じくらいですかね。僕自身、普段の練習で、レースみたいな走りができるかと言われるとそうではありません。箱根の後も、原晋監督から『なんでそんなに走れるん』と不思議がられたぐらいですから(笑)」

 今回の箱根駅伝は初出場で、エース区間の2区に抜擢された。相当、プレッシャーがかかる場面だが、黒田はさほど緊張しなかったという。

「僕自身、あまり緊張はしないタイプなんです。どんなときでも基本的には自分のことしか見えていません。性格的なものも大きいかもしれませんが、その時々の環境や空気感に自分が左右されることはあまりないので、レースの安定感は自信がありますね」

 ちなみに人生で一番緊張したのは、「高校入試の面接」だという。

 では、プレッシャーに弱い人は、どのように対応すればいいのか。

「緊張するときは、自分のなかでうまくいきそうな予感があるからだと思うので、緊張しているんだったら、うまくいく証拠だと考えればいいのかなと思います」

 緊張を〝ワクワク感〟だとポジティブにとらえると、人生が変わるかもしれない。


次なる野望は対照的

 箱根駅伝の大活躍でますます注目を浴びることになる青学大のWエース。今後はどこに向かっていくのか。

 太田は今春のマラソン挑戦を見送ったが、1年後にはマラソンで鮮烈デビューを飾るつもりでいる。

「来年は東京で日本人トップを目指したいですね。今年も箱根直後の故障がなければ、(出場予定だった)大阪で2時間6分前後は狙えたかなと思っています。これから1年練習を積んでいけば、もっと上げていける。2時間5分半を狙えるレベルに持っていきたいと思っています」

 来年の2025年9月には東京で世界選手権が開催される。箱根駅伝のスター選手が自国大会に出場することになれば、世間は黙っていない。周囲が騒げば騒ぐほど、太田のモチベーションは上がっていく。

 将来的の目標を訪ねると、「オリンピックの金メダルです!」と大胆発言が飛び出した。

「世界トップは2分台、1分台が当たり前です。それぐらいで走らないと世界では戦えません。正直、日本のマラソン界はレベルが低いと思うので、その常識を変えていきたい」

 箱根駅伝のパフォーマンスと、大舞台での強さを考えると、太田の言葉は決してビッグマウスとはいえないかもしれない。

 デッカイ夢を語った太田に対して、黒田の目標設定は真逆ともいえるものだった。

「新年度はトラック、駅伝とも今季以上の走りを念頭に置いてやろうかなと思っています。トラックだと目指すは自己ベストですけど、具体的なタイムはありません。昨年のトラックシーズンは3000m障害をメインにしていました。でも来季はそのときに一番走っている種目がメインになるんですかね。特に世界を目指すというのは今の自分にはなくて、その時々でやりたいように競技ができれば、それでいいのかなと思っています」

 お祭り男の太田に、自然体の黒田。キャラが異なる青学大のWエースは、2024年度も学生駅伝の〝主役〟を担うことになりそうだ。

筆者:酒井 政人

JBpress

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