600年続く福岡県の八女茶栽培、「八女伝統本玉露」は手間がかかりすぎて生産農家が減少。最も美味しく味わうには「冷ます」のが大事?プロが教える楽しみ方

2024年2月13日(火)12時30分 婦人公論.jp


高級茶葉「八女伝統本玉露」の品質と、茶葉の味わいを楽しめる美味しい淹れ方とは——(『八女茶——発祥600年』より)

高品質な玉露の生産地である福岡県八女。そこで作られる八女茶の栽培方法は室町時代から受け継がれ、600年を迎えました。全国きっての高級茶葉「八女伝統本玉露」の品質と、茶葉の味わいを楽しめる美味しい淹れ方とは——

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究極の味わいを生み出す伝統技術


濃厚な滋味、「覆い香」と呼ばれる青海苔のような特有の香り、そして、艶のある鮮緑色—このような玉露の特徴は、被覆栽培という茶樹に覆いをかける栽培法によって生まれます。

被覆栽培の第一の目的は、お茶の品質を高めることにあります。遮光することで、葉のアミノ酸類、特にうま味に関係するテアニンが増加します。

そもそも玉露の栽培には手間と時間がかかります。その栽培過程において、昔ながらの技法を用い、さらに丹念に手間をかけ作られるのが「八女伝統本玉露」です。第一部—49八女伝統本玉露には厳格な生産条件が必須とされます。とりわけ大きな特徴である栽培要件には、次の3点があります。

1.自然仕立て栽培
自然仕立てとは、茶樹の枝を自然に伸ばす仕立て法のことで、剪せん定ていを行うのは収穫後の1回のみ。こうすることで茶樹本来の力が生かされ、芽の一つひとつに十分な養分が送られます。

2.天然資材を用いた被覆栽培
茶樹を直接覆わずに、棚を用いる被覆栽培。八女伝統本玉露の場合は、稲わらなどで編んだ天然資材を用います。これにより、被覆内の温湿度が芽の生育に最も適した条件となります。

3.手摘みによる収穫
昔ながらの「しごき摘み」で、新芽の柔らかい部分だけをていねいに収穫。二番茶は摘まず、1年分の養分を一番茶だけに集中させます。

ほかにも定められた生産条件があり、八女茶の流通拠点であるJA全農ふくれん茶取引センターに上場され、共販されるものを「八女伝統本玉露」としています。

このように手間と時間をかけて作られるからこそ、八女伝統本玉露は日本最高峰の玉露としてその地位を認められているのです。

高い評価を裏付ける品質へのこだわり


八女地域の玉露は、古くから山間地域を中心に栽培されてきたため、他産地に比べると生産量が少なく、全国的な知名度が高まらない状態が続きました。産地として存在感を示すためにも、他産地を圧倒するような高品質の玉露を生産しなければならないという背景があったのです。

1970年代半ば以降、ほかの玉露産地では機械化を推し進め、効率的な生産体制をとるようになりますが、八女はそうした動きとは一線を画し、品質へのこだわりと伝統的な技法を守り続けることで差別化を図ってきました。

全国の生産者がお茶の出来ばえを競う「全国茶品評会」で毎年、農林水産大臣賞を受賞するようになったのは、こうした取り組みによるものです。

玉露部門における最高峰・農林水産大臣賞を初受賞するのは1967年。特に平成に入ってからは、毎年のように同賞や、入賞した玉露が一番多い産地に贈られる産地賞を受賞しており、名実ともに八女に伝統本玉露ありとの高い評価を得ています。


『八女茶——発祥600年』(監修:福岡の八女茶 発祥600年祭実行委員会/中央公論新社)

日本茶で初のGI登録


2015年、八女伝統本玉露はGI(地理的表示)保護制度の第5号として登録されました。

全国に流通する農産品や食品のなかには、「神戸ビーフ」や「夕張メロン」のように、地域の風土に根づく独自の環境や、古くから伝わる製法によって作られる唯一無二の個性を持つものがあります。

GIはそれらを知的財産として保護する制度として創設され、八女伝統本玉露の登録は、日本茶で全国初となる栄誉あるものです。

立地条件や伝統的な栽培方法、高い加工技術と組み合わせて作られていること、また、長年にわたって、全国茶品評会などで高く評価されてきたことがGIの認定につながったのです。

「八女伝統本玉露」の条件
(1)自然仕立て(かまぼこ型でない)の茶園
(2)肥培管理が十分行われた茶園とする
(3)被覆は棚掛けの間接とし、稲わらを使った資材とする
(4)被覆の期間は16 日以上とする
(5)遮光率95 パーセント以上
(6)摘採は手摘みとする
(7)茶葉が硬化しないよう、適期に摘採する
(8)生葉(なまは)管理に注意し、欠陥なく製造されたものとする

登録に向けての活動は、八女伝統本玉露推進協議会が推し進めてきました。生産者、茶商、行政により構成されています。

あまりにも手間や経費がかかることから、八女伝統本玉露に携わる茶農家は減少傾向にあります。GI登録前から「八女伝統本玉露を守り抜く」ことへの危機感がありました。このことから、生産・流通・行政が一体となって、ブランド化を推進してきたものです。

さらなる向上を目指して


また、GI登録後も、さらなるブランド力向上を図るため、徹底した品質管理を行っています。

JA全農ふくれん茶取引センターに上場された八女伝統本玉露のうち、GIマークを付けられるのは、最高級で希少価値があると認められた製品だけ。内部規定では、入札でのキログラム単価に基準を設けています。

それほど、GIマーク付きの八女伝統本玉露は、産地全体で責任を持って消費者へと届けられているのです。

さらに、八女伝統本玉露が八女全体のブランド化を牽引する"看板"として先頭に立ったことで、海外を視野に入れた新たな取り組みがすでに始まっており、ブランド力強化のために臨んだGI登録は、次なる挑戦への大きな足掛かりとなっています。

ひと手間で極上の風味


●美味しく淹れる【煎茶】


煎茶(『八女茶——発祥600年』より)

●用意するもの

茶葉……人数×2〜3g
急須
湯飲み茶碗
お湯……70〜90℃程度

さわやかな香りに加えてうま味・甘味・渋味があるのが煎茶の特徴です。お湯の温度は上級煎茶で70℃、中級煎茶で80 ~90℃が適しています。

●淹れ方

(1)しっかり沸騰させた湯を茶碗8分目まで注ぎ、冷ます(または、湯冷ましで冷ます)。茶葉を急須に入れる(1人分で2〜3gが目安)

(2)冷ました湯を急須に注ぎ、1分ほど(深蒸し茶の場合は約30秒)おいて、茶が浸出するのを待つ


(『八女茶——発祥600年』』より)

(3)少量ずつ茶碗に注ぐ。数人分を用意するときは、同じ濃さになるように廻し注ぎをする

(4)最後の一滴までしっかり注ぎ切る


(『八女茶——発祥600年』より)

※急須に湯が残っていると、茶の成分が浸出し、二煎目、三煎目の味が落ちる

※二煎目、三煎目は湯を入れてから15秒ほど待つ

●美味しく淹れる【玉露】


玉露。少量を口に含むと出汁のような濃いうま味を感じる(『八女茶——発祥600年』より)

●用意するもの

茶葉……人数×3〜5g
急須
湯冷まし小ぶりの茶碗
お湯……50〜60℃程度

玉露がもつ特有のうま味を楽しむには、低温のお湯でじっくりと時間をかけて、テアニン(うま味成分であるアミノ酸の一種)を浸出させるのがポイントです。

●淹れ方

(1)しっかり沸騰させた湯を、急須または湯冷ましに入れて冷ます。上茶の場合は50℃、並茶の場合は60℃くらいが目安

(2)冷ました湯を玉露用の小ぶりの茶碗に7分目(約20ml)ほど注ぐ。残った湯は捨てる
(3)茶葉を急須に入れる。1人分で3~5gが目安


(『八女茶——発祥600年』より)

(4)冷ました湯を急須に注ぎ、2〜3分おく

(5)茶碗に廻し注ぎをして、最後まで注ぎ切る。おいしく味わえる温度は35~40℃くらい


(『八女茶——発祥600年』より)

※二煎目は、冷ました湯を入れて30秒ほど待つ

※本稿は、『八女茶——発祥600年』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。

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