スラヴ民話の魔女バーバ・ヤーガとは? すり鉢に乗って飛び、子どもたちを捕食し…

2023年3月6日(月)18時0分 tocana

 天使か悪魔か——。スラヴ民話では恐ろしくもあり慈悲深くもある謎の老婆「バーバ・ヤーガ」の話が語り伝えられている。


スラヴ民話の魔女バーバ・ヤーガとは?

 スラヴの民間伝承に登場するバーバ・ヤーガ(Baba Yaga)は愛に満ち溢れた母性の象徴である一方、子供を誘拐して殺して食べる邪悪な魔女でもあるという二面性を持つ。出くわした人間を支援したり妨害したりし、彼女の家の敷地に足を踏み入れた人間を殺して調理して食べたりもする。


 魔女はホウキで空を飛ぶが、バーバ・ヤーガはすり鉢に乗り、すりこぎ棒を持って飛行する。


 その名前の由来は不明だが、バーバは「老婆」または「祖母」に近い意味で、ヤーガは「ヘビ」から「邪悪」までの意味を持つという。記録に残るバーバ・ヤーガの物語は1755年が最初のものだが、口述伝承や絵画などではさらに昔からその存在が語られてきた。


バーバ・ヤーガの設定

 バーバ・ヤーガの最も一般的な描写は、1人の老婆または3人の老姉妹として描かれ、全員がやせっぽちで、鋭い鉄の歯を持ち、鼻が長く突き出ているという外見だ。


 魔女がホウキに乗っているのに対し、バーバ・ヤーガはすり鉢に乗って移動し、すりこぎ棒を操縦桿と杖の両方の用途で使っている。


 バーバ・ヤーガに関する物語はたくさんあるが、その舞台のほとんどは森の奥深くにある彼女の一軒家の中で起きている。


 伝説によると彼女の家は人間の骨で作られたフェンスに囲まれ、屋根には鶏の頭があり、鶏の脚を柱にした高床式の家屋になっている。


 バーバ・ヤーガについての物語では通常、彼女の家の敷地に足を踏み入れた者が殺されて家の中にある大きなオーブンで調理されて食べられてしまうというパターンだ。


 このような旺盛な食欲にもかかわらず、バーバ・ヤーガは常にやせっぽちの人物として描かれ「骨ばった人」というあだ名さえつけられている。



うるわしのワシリーサ

 バーバ・ヤーガをフィーチャーした有名な物語の大半は彼女自身の話ではなく、物語の“主人公”を中心に展開している。そしてその主人公の性格や言動によってバーバ・ヤーガは人助けをする慈善家にもなれば、人食い魔女にもなるのだ。


「うるわしのワシリーサ(Vasilisa the Beautiful)」として知られる物語の主人公であるワシリーサは母親から貰った魔法の人形を持つ美しいシンデレラタイプのキャラクターである。


 不幸にも母親が亡くなった後、父親は意地悪な2人の娘を持つ性悪女にだまされて再婚してしまった。継母とその娘たちはことあるごとにワシリーサに意地悪をしたが、ワシリーサはその度に魔法の人形の助けを借りて切り抜けてきた。


 ワシリーサの父親が長い出張に出かけると継母は家を売り、3人の娘を森の中のコテージに移し、娘たちに終わらせるのは不可能な仕事を与えた。


 コテージのロウソクが燃え尽き、意地悪な継母の娘たちはワシリーサにバーバ・ヤーガから灯りになるものを貰ってくるように言いつけた。


 森の中を探しまわった末にババ・ヤーガに会ったワシリーサだったが、灯火と引き換えに数日を費やす一連の困難な仕事が課された。魔法の人形の助けを借りて、ワシリーサは意気揚々とすべての仕事を片付け、ババ・ヤーガから渡された不気味なドクロのランタンに灯った火を持ってコテージに戻ると、不思議なことにこのランタンの火は継母とその2人の娘に襲いかかり火だるまにして苦しめ、灰になるまで焼き尽くしたのだった。


 こうして悩ませる存在がいなくなったワシリーサは王に見初められてファーストレディーとなり、旅から戻った父親も加わって幸せに暮らすというハッピーエンドで話は終わっている。


「うるわしのワシリーサ」の中で、バーバ・ヤーガはワシリーサにとっての救世主と、継母たちの命を無残に奪う処刑人の両方を体現している。ランタンがなければ、ワシリーサは悪意のある義理の家族の中に閉じ込められたままだったはずである。その不憫なワシリーサを救ったバーバ・ヤーガではあるが、その方法は残酷を極めるものであった。


 バーバ・ヤーガがしたことはワシリーサの解放を手助けするという行為をある意味では超えており、バーバ・ヤーガの恐ろしい本性が垣間見えたかのような印象を残している。


バーバ・ヤーガと農民の子供たち

 バーバ・ヤーガをフィーチャーした別の寓話では、暴君的な継母の犠牲になった2人の不幸な農民の子供が登場する。この物語では、邪悪な継母が子供たちをバーバ・ヤーガの住処に送り、彼らを完全に始末してくれることを期待する。


 バーバ・ヤーガによって試練を与えらえた子供たちだったが、機知に富んだ彼らはバーバ・ヤーガが無視して邪険に扱った動物、植物、物によって脱出を助けられる。黒ネコはババ・ヤーガからは餌を与えられておらず、子供たちが隙を見て餌を与えていたので、彼らの脱出計画を助けた。彼女に無視された門はババ・ヤーガを締め出し、森の木々でさえ彼女の行く手を塞いだ。


 子供たちは無傷で家に帰ることに成功し、事情を知った父親は残酷な継母を追放し、子供たちを守ることにしたのだった。ここでのバーバ・ヤーガの役割は子供たちにとっての障害物であり、最初に子供たちに苦難を与えただけである。


 そしてこの話では動物や自然がバーバ・ヤーガに逆らった点も興味深い。こうしたことをはじめ、彼女が多くの異なる役割を担い、相反する特徴を示していることは、研究者が彼女を分類するのが難しいと感じる理由の1つであるということだ。


 こうしたバーバ・ヤーガの謎めいた性格が、伝説における彼女の存在を魅力的にし、学術研究の対象にもなっている理由であるという。彼女のあいまいな性質は、彼女が登場するさまざまな物語で悪意のある魔女として行動するのか、それとも慈悲深い救世主として行動するのか、その都度読者に疑問を投げかけているのである。


 スラヴの民間伝承として語り伝えられ、『ロシア民話集』にも登場しているバーバ・ヤーガだが、そのキャラクターの魅力が多くの注目を集めていることは間違いない。ハリウッドやディズニーが食指を伸ばすことがあるのか気になるところだ。



参考:「Ancient Origins」ほか

tocana

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