『べらぼう』一流絵師・北尾重政と勝川春章の共作を成功させた蔦重。豪華な遊女紹介本にさらなるプレミアをつけた狙いとは

2025年3月10日(月)12時30分 婦人公論.jp


(写真提供:Photo AC)

現在放送中のNHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』。横浜流星さんが演じる主人公は、編集者や出版人として江戸の出版業界を支えた“蔦重”こと蔦屋重三郎です。江戸のメディア王と呼ばれた重三郎は、どのようなセンスを持ち合わせていたのでしょうか?今回は、書籍『蔦屋重三郎の慧眼』をもとに、総合印刷会社でアートディレクターやデザイナーの経験を持つ時代小説家・車浮代さんに、重三郎の仕事術について解説していただきました。

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信用が信用を連れてくる


絵師・北尾重政の北尾派の対極として、並び立っていた絵師の一門が、勝川春章の率いる勝川派だった。若き頃の葛飾北斎も弟子入りしていた、超一流の一派である。

蔦重はキャリア初期の出版、『青楼美人合姿鏡(せいろうびじんあわせすがたかがみ)』で、この二人を共作させることに成功した。おそらくは普段から相談役として親しくしていた重政が、蔦重の出世作を支援しようと、春章を紹介したのだろう。

おかげで蔦重は、のちの北斎を含む一流絵師たちを人脈に迎えることができた。むろん、その価値がある人間だと重政が見込んだからの結果である。

どんな仕事だろうが真剣に向き合い、常に最高をめざす。見る人はちゃんと見ている。そこから大きな商売が始まっていく。

「人にすすめたい」と思える商品をつくる


北尾重政と勝川春章という、二大一門を率いる大物絵師が共作した『青楼美人合姿鏡』とは、どんな本だったのか。

簡単にいえば、「遊女たちの紹介本」である。二人の絵師が才能を思う存分に発揮し、その美しい姿を描いた。豪華カラー本である。

ただ、遊女だからといって、妖艶な姿を描いたのではない。日常の遊びに興じ、普段の生活を過ごす、「ありのまま」の彼女たちの姿だ。

この本には、教養のある遊女たちが詠んだ句も掲載している。顧客も知らない、彼女たちの顔。出来上がった本書を見た遊女たちは、どのように感じただろう。

よりたくさんの人に、見てもらいたい。そう思ったのではないか?

遊郭や遊女たちから資金を集め、宣伝のためにつくったと考えられる豪華本。

だからこそ蔦重は、彼女たち自らが「人にすすめたい」と思える本になるよう力を尽くしたのだ。

プレミアをつける


人気絵師二人を用いた、オールカラーの三冊組。しかも「美濃紙」という高級な紙を使用した豪華本が、『青楼美人合姿鏡』である。

蔦重はこの本にさらなる「豪華装丁」を施した、プレミア版もつくったとされる。一体誰が、この超豪華バージョンを所有したのだろう。


(写真はイメージ。写真提供:Photo AC)

むろん遊女たちの、一番の馴染み客だ。「どうだ、俺はこの豪華本を贈られた人間なんだぞ」と。彼らにとっては、その本を持っていることが、「自分こそ一番」の証明になったわけだ。吉原通にとっては、なんとしても所有したい本になった。

「このプレミア本は、いったい誰がつくったのか?」
「あの吉原の若い版元、蔦屋じゃないか?」

そんなふうにして、蔦重は評判を築く。超豪華だからこその威力である。

※本稿は、『蔦屋重三郎の慧眼』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。

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