漁村集落・赤崎でのぞいた能登の暮らし。

2023年3月22日(水)6時0分 ソトコト

石川県羽咋郡志賀町、そして赤崎ってどんなまち?


石川県羽咋郡志賀町の赤崎地区は、能登半島西岸にある漁村集落です。かつては漁師町として栄え、当時を偲ばせる美しい家並みを今に残しながら、約90世帯が暮らしています。








アクセスは、金沢市街からは車で約1.5時間。東京からだと、羽田空港から能登空港へ飛び(所要フライト時間は約1時間)、そこからふるさとタクシーを利用して40〜50分ほどです。


遠洋漁業で財を成し、贅沢に造られた民家を宿に。「TOGISO」。





赤崎で「TOGISO」という名の宿を営むのが、東京との2拠点生活をしながらオーナーを務める佐藤正樹さん(42)と、管理人として埼玉県から家族で移住してきた中島誠康(よしやす)さん(28)です。「TOGISO」という屋号の由来は、この地域の旧町名「富来町(とぎまち)」に由来します。





佐藤さんが海の近くで古民家を探していたところ、偶然インターネットでTOGISOになる物件を見つけました。内覧に来たときに赤崎の街並みにほれ込み、『赤崎の景観を次世代に引き継ぐプロジェクト』の拠点として「TOGISO」をつくりました。とはいえ東京で仕事を持つ身の佐藤さんは、赤崎に常駐することができません。そこで管理人を募集し、エントリーして埼玉県から家族で移住してきてくれたのが中島さんです。














夏の赤崎のようすはこちら ⇓ 。


「TOGISO」滞在で体感する冬の能登。





2月下旬、風は強く移ろいやすい天候。真冬の天候はやはり厳しい?


筆者が赤崎を訪れたのは2023年2月24日。冬に北陸を訪れるのは初めて。能登半島ということもあり「さぞかし寒いのだろう……」としっかり防寒の準備をして訪れましたが、思いのほか天候に恵まれました。東京とさほど変わらない暖かな時間帯もあるほど。日本海沿岸地域特有の変わりやすい天候で、日が差したり曇ったり、雪が降ったり強風が吹いたり、刻々と移り変わる天候に驚くも、春の足音がそろそろ聞こえてきそうな雰囲気。


TOGISOで管理人として常時暮らしている中島さんに、「能登の本気の冬はどうだった?」と聞くと、「赤崎での初めての冬は訳あって1人で過ごしていたので、宿泊客がいない日はとても寂しかったです。日があまり差さないので、ご近所さんもあまり外出はしません。人のと交流が減ったことも寂しさを増幅させました。夜寝るときは強風の音や荒波の音が聞こえて、耳栓をしないと安眠できませんでした」と、慣れない冬模様に四苦八苦した様子でしたが、同時に自然の負荷に耐えながら暮らすことで、この集落をつくってきた先人たちの偉大さを感じることができたとも話します。


「春のよろこびを知ることができるのは、厳しい気候で暮らした者の特権」


そう感じたという中島さんは、冬の洗礼を乗り越えたからなのか、移住して1年足らずとは思えないくらい地域に馴染んでいるように見えます。今では地域の消防団にも所属し、その縁もあって別の古民家を近隣の方の紹介で、自宅として購入した中島さん。はじめての能登の冬に戸惑いつつも、着実に「赤崎での暮らし」を自分のものにし始めています。











豊かな海がもたらす、赤崎周辺で獲れる冬の食材。





赤崎がある志賀町の特産品は、農産物なら「コシヒカリ」、「ころ柿(干し柿)」、海産物なら「甘エビ」や「ズワイガニ」など。これら食材は町内の道の駅『ころ柿の里』、『とぎ海街道』でも販売されています。「甘エビ」と「ズワイガニ」は冬の能登ならではの旬味で、赤崎の隣の地区にある「西海市場」に行けば、都市部では考えられない安さで購入できます。





今回の取材でも隣の地域の網元さんから、「本ズワイガニ」「毛ガニ」、たくさん獲れた「メギス」「甘エビ」、そして「ガスエビ」と呼ばれる商品にはならない地元でしか食べられていないエビの差し入れ(おすそわけ)をいただきました。TOGISOではこうした食材で、同地域の観光の目玉になるようなメニューができないか思案しています。

















美しく力強い赤崎の家並みと住まい。








赤崎の美しい景観を織りなすのが「家」です。海沿いに軒を連ねる住宅群は、1938年に大火事で1/3が焼失した集落を再建する際に形成されたもので、 素材や色調がていねいに揃えられています。
地元の方曰く、中能登の伝統的な家の造りで、屋根瓦が厚く黒光りするのは潮風から家を守るために釉薬を厚塗りしているから。ほかにもこげ茶色の木造外壁、漆塗りの板戸、囲炉裏で燻された驚くほど太い梁など、力強さを感じさせる設えが見られます。





「基本的に古民家なので冬になると室内は寒いです。畳の下に断熱材を入れたり、暖房器具を取り入れたり工夫しています。家が大きすぎることに加え、雰囲気を維持するために家全体の断熱はあきらめていて、くつろぎのスペースを襖や戸で区切ることで、人が集まる場所を暖かく保つようにしています。」
と話す佐藤 さん。家を住みやすくするには工夫がいるようですが、その甲斐もあり、確かに居間と囲炉裏の部屋、寝室などは寒さで震えるほど冷え込まず、快適に過ごせます。








空き家になった古民家を譲ってもらう場合は、蔵・納屋付き。


取材中、佐藤さんが購入を検討している空き家と、中島さんが最近購入したという古民家を見学しました。家を売りたいという地元の方がいれば、できるだけ買い取って赤崎の景観を未来に残すプロジェクトの礎にしたいと、常々話していた佐藤さん。なかにはその「本気度」を地域のみなさんに知ってもらう目的で購入した家もあると言います。こうした熱が伝わることで少しずつ、「この人になら売ってもいいかな」という雰囲気が醸成されたそうです。








TOGISO管理人の中島さんも、「赤崎の消防団に入ったことで『彼は赤崎に住み続けそうだな……』と思ってもらえたと考えています。 ここで家を購入できたのもその影響かな」と話します。
いくつかの空き家・古民家を見学してユニークだったのが、「蔵」や「納屋」が付いてくる物件が多いということ。特に海沿いにある家だと、強い海風から母屋を守る目的で納屋を建てたケースも多いのだとか。漁業で栄えたこともあり、豪勢な造りの家が多いのも特徴です。








蔵や納屋の中をのぞかせてもらうと、以前住んでいた方たちが残していった家財があちらこちらに。現代の暮らししか知らない人間からしてみると、食器類や衣類、古書など、初めて見るものも多く「何かすごいモノが眠っているかも……」というワクワク感もあります。





「金銭的価値が高いものが残っていることはありませんが、『好きな人が見たら宝物』『資料的に価値のあるもの』が見つかる可能性はあると思います。実際、今では手に入らない食品メーカーのノベルティグラスなんかは、TOGISOでも販売しています」と話す佐藤さん。
ちなみに、以前多数のメディアでニュースになった『80年前のセメダインCをセメダイン本社に寄贈』 のセメダインCは、このTOGISOの収納から見つかったものです。








冬の遊びはやっぱり釣り? 浜辺でサザエも獲れる。


夏は磯遊びに海水浴、銛を使った魚突きなど、楽しい海のアクティビティが多い赤崎ですが、冬の遊びについては、「何か新しいものを……」と考えている佐藤さんと中島さん。





今考えているのが冬の強風を生かした「風気浴」。テントサウナを用意して、サウナから出たら日本海から吹く冷たい風を全身に浴びて「整う」というアクティビティを準備中です。ほかにも日本海の強風を生かした「本気の凧あげ」など、大人も子どもも楽しめる案を練っています。
今回の取材では、近所の突堤で海釣りを楽しんできました。夕暮れ時で少し波もありましたが、たった数分で立派な「カサゴ」が釣れました。季節によっては「スズキ」や「アオリイカ」「メバル」などが釣れるそうです。








また遊びではありませんが、TOGISO管理人の中島さんには、アクティビティが減る冬の間にすることがたくさんあります。新しいアクティビティの開発と同じく、日々試行錯誤しながら「宿づくり」にいそしんでいます。








「TOGISO」を、赤崎に人の流れを呼び込む拠点に。


能登の旅の拠点として楽しい時間が過ごせる赤崎の「TOGISO」ですが、オーナーの佐藤さんと管理人の中島さんは、集落の美しい景観や魅力的な資源を使って、もう少し赤崎に「人の流れ」を呼び込みたいと考えています。


「いきなり赤崎に移住して暮らすという決断は難しくても、夏だけ赤崎を生活拠点にしてもらう、1年のうちの決まった時期だけTOGISOの管理人業務をしに来てくれる、新しいことを始めるときに知恵を貸してくれるとか、細く長く関わってくれる仲間があと数人いれば次の流れがつくれるなと思っています。」
と話す佐藤さん。具体的にイメージしている事もいくつかあります。
「たとえば今回、網元さんが差し入れてくれた、買い手がいなくて捨てるかあげるかしかできない海の幸(ガスエビ)を使ったスナックフード、名物スイーツを開発するとか、赤崎周辺ではおいしい食材が安価で手に入るので、それに合うおいしいパンを作る職人を呼ぶとか、やってみたいことがたくさんあります。」
そして、その目は「外から来る人」だけではなく、いま赤崎で暮らす地域の皆さんへも向いています。
「同時に、赤崎は住民のほとんどが高齢者という過疎地域でもあるので、赤崎が好きで暮らし続けているみなさんの生活も、もう少し便利にしてあげたいと考えています。たとえば、地域のみなさんのために『ご用聞き』をしてamazonで注文してくれる方や、大工仕事(小さな加工でも)を助けてくれる人など、できる人がいれば継続的に仕事として頼みたいです。もちろん生計を立てられるほどの仕事ではないので、『本業が別にあって…』『仕事がフルリモート勤務で…』『赤崎のことを気に入ってくれて…』など、いくつか条件は付いてしまいますが、人の流れができれば『私、やりますよ!』という人が現れるかもしれません。だから少しでも興味がある方がいたら、赤崎を見にTOGISOに来てみてください。」


TOGISO


住所:石川県羽咋郡志賀町赤崎ロ58-1
HP:https://togiso.jp/
Instagram:https://www.instagram.com/p/Cpe0_mdS8bq/

ソトコト

「集落」をもっと詳しく

「集落」のニュース

「集落」のニュース

トピックス

x
BIGLOBE
トップへ