「デジタルで加速していくまち」青森県むつ市が下北ジオパークの魅力を世界に発信

2024年3月26日(火)7時0分 マイナビニュース

「第14回日本ジオパーク全国大会 下北大会」に向け、ハード・ソフト両面から整備を続けている青森県むつ市。将来的なユネスコ世界ジオパーク認定を目指し、ICTを活用した取り組みを行っている。むつ市長とNTT東日本 青森支店長にその内容を伺ってみよう。
○世界ジオパークを目指す下北ジオパーク
本州最北の地、まさかり形の下北半島。ここには他の地では見ることのできない、さまざまな自然の風景が広がっている。
人と自然と大地を感じられる下北半島は2016年、日本ジオパークのひとつ「下北ジオパーク」として認定された。ジオパークとは、"地質・地形から地球の過去を知り、未来を考えて、活動する場所"のこと。「サイト」と呼ばれる地球科学的価値のある場所の保全を前提とし、郷土愛の醸成と地域の価値向上に向けた取り組みが行われている。
この下北ジオパークのユネスコ世界ジオパーク認定を目指し、さまざまな試みを行っているのが、青森県むつ市。2024年8月には「第14回日本ジオパーク全国大会 下北大会」が開催予定であり、いま同市はその整備に追われている。
そして、この活動をデジタルで支援しているのがNTT東日本 青森支店だ。下北ジオパーク推進協議会会長も務めるむつ市長の山本知也氏と、NTT東日本 青森支店長の磯﨑崇氏に、取り組みの内容について聞いてみたい。
○3つの海に囲まれた下北半島の魅力
むつ市長の山本知也氏は、「下北ジオパークでは、郷土愛の醸成と地域のブランド力向上に向けた活動を行っています。地方に行けば行くほど、『ここには何があるの?』という質問に対して、子どもたちは口癖のように『自分たちの地域には何もない』と言います。私は、子どもたちが地域の特性を語れるようになってほしいと思っています」と、ジオパークへの取り組みの趣旨を語る。
下北ジオパークには、ここにしかないさまざまな魅力がある。例えば、日本三大霊場でもある恐山が存在し、風光明媚な景観が楽しめる。仏ヶ浦では自然が作り上げた白緑色の巨石群が約2キロに渡って続く。最北端の大間では、最高のマグロが堪能できる。尻屋崎は、放牧された寒立馬を眺めることが可能だ。かっぱの湯伝説がある薬研温泉では、露天風呂に浸かり森林浴も楽しめる。
「一番の見所は海です。下北半島は太平洋、陸奥湾、津軽海峡という3つの海に囲まれており、採れるものもヒラメ、ウニ、ホタテ、マグロと違うので、多種多様な魅力があります」(山本氏)
下北ジオパークは非常に豊富な観光コンテンツを持っているが、その認知度は決して高いとは言えない。その魅力を内外に伝えていくためには、デジタルコンテンツを使った情報発信が必要だ。
そして実際に訪れてもらうために、客観的データを用いた可視化・分析を行いたいと山本氏は考えた。これが、NTT東日本との取り組みのきっかけになる。
○ICTによって青森県の産業振興を進めるNTT東日本
NTT東日本は全国の都道府県に拠点を置き、長年通信インフラの整備を行ってきた。現在は培ったスキルやノウハウを活かし、自治体や地域産業、観光業と連携し、地域に密着した街づくりを行っている。
青森県では、青森市のねぶた祭や弘前市の桜祭りにおいてICTの活用が行われている。例えばAIカメラを用いた混雑検知、モバイルを活用した人流分析、山車の3Dアーカイブ化などだ。一方、下北半島に目を向けると、せっかくの観光資源が認知されていない。
NTT東日本 青森支店長の磯﨑崇氏は、デジタルコンテンツを使った情報発信を行うことで、まずは下北ジオパークについて知ってもらいたいと考えた。
「ですが、来てもらうだけでは現在の観光は成り立ちません。来ていただいた方がどこで興味を持ったのか、どういう行動をとったのか、なにがバズっているのかというデータを取得して分析し、次に繋げていく必要があります。こういった点も含めて、むつ市さんと協力しながらやらせていただきたいと思いました」(磯﨑氏)
○ビジターセンターを"デジタルツイン"に
ユネスコ世界ジオパーク認定を得るためにクリアしなければならないのが、外国人の受け入れ環境整備。ハード面の整備はもちろんだが、地域を知ってもらうための情報や人材というソフト面の整備も進めなければならない。
「この地域を知っていただくためにも、まずは24時間365日、世界中どこからでもアクセスでき、欲しい情報が得られるツールの構築が急務だと感じました。そこでNTT東日本さんにご協力いただき、まずはこのビジターセンターにおいてデジタルコンテンツの整備を進めています」(山本氏)
NTT東日本が目指したのは、ビジターセンターを現実世界を仮想世界上で再現する"デジタルツイン"にすることだ。ただ3D化するだけでなく、臨場感のある映像や多言語化対応のガイドへの対応にも取り組んでいる。
「現在、Matterport (マーターポート)という3D空間キャプチャー技術を用いて、仮想空間でビジターセンターの中にそのまま入れるようなコンテンツを撮影・編集中です。2023年度内には完成しますので、ぜひ公式ページやSNSでの続報に期待してください」(磯﨑氏)
ビジターセンターの“デジタルツイン”化について、山本氏は世界に向けた情報発信や外国人受け入れ体制の強化のみならず、子どもたちの学習への効果についても期待を述べる。
「新年度から、仮想空間で不登校の子どもたちに学習を提供するというチャレンジを行っていくのですが、ビジターセンターはそのひとつのコンテンツになり得るのではないかと。いまの小学生は1人1台タブレットを持っていますので、学ぶための手段は何でも良いと思うのです。郷土愛の醸成と地域のブランド力向上、両方で活用できると感じています」(山本氏)
○8月の日本ジオパーク全国大会 下北大会に向けて
8月に開催される「第14回日本ジオパーク全国大会 下北大会」は、下北地域における過去最大規模のイベントとなるだろう。地域の関係機関や事業者は、全国から集まる人たちをどのようにおもてなしするか、日々検討を重ねているそうだ。
「2023年の『第13回日本ジオパーク全国大会 関東大会』に負けないようにというのは地域の共通認識ですが、マンパワーだけでは超えられない壁があることも承知しています。そこをデジタルの力で乗り越えていきたいですし、このイベントには地域の子どもたちがたくさん協力してくれています。大会を通じて活用されるさまざまなICT技術は、子どもたちにいままで体験したことのない新しい世界観を芽生えさせると期待しております」(山本氏)
下北大会では、ジオパークの29ジオサイトそれぞれについて、子どもたちが発表を行う。子どもたちの視点から紹介されるジオパークの魅力は大人にとって新鮮で興味深く、また子どもたちは他の地域を知るきっかけにもなるだろう。
「NTT東日本は、下北ジオパークの魅力のあるスポットを臨場感・没入感のある映像で届けたいと思っており、いまドローンを使った映像コンテンツの作成を持ちかけています。また、ご来場した方々に快適にご利用いただくためのWi-Fi環境整備や、デジタルサイネージを使ったおもてなし、効率的な運営を実現するための次世代型トランシーバーなども提案しています。ICTの活用で、この大会を盛り上げていきたいですね」(磯﨑氏)
山本氏は「この下北大会は下北各地域にどのような影響を与えるかを調べる絶好の機会」と述べる。NTT東日本の技術を活用し、定点的なデータのみならず人流に関するデータも収集する狙いだ。こうした情報収集によって将来的な世界ジオパーク認定を目指すという。
「Weibo(ウェイボー)などで、青森がすごく注目されているというニュースを耳にしますが、青森全体の観光を考えると、青森・弘前そして下北に足を運んでいただくことで青森全体の良さを知っていただけると思っています。データをもとに各地域の連携や周遊プランなどを提案し、青森全体を盛り上げていきたいと思います」(磯﨑氏)
山本氏は最後に、むつ市、そして下北地域の将来の展望について語ってくれた。
「私は下北地域を『デジタルで加速していくまち』にしたいと思っています。なぜデジタル化かというと、大都市圏より地方の方がデジタルの恩恵って大きいんですよ。例えば証明書発行ひとつとっても役所に行くのにバスが一日数本しかない、鉄道が一時間に一本しかないと、アクセスが非常に悪いのです。ですがデジタルならコンビニで取れる、さらに発行自体しなくても良くなる。地方の未来はデジタルにかかってると私は思っています」(山本氏)

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